2年前の春季キャンプのことだ。カブスのクラブハウスで福留孝介外野手と雑談していると、そこに一人の若者が笑顔で割り込んできた。

「実はさ、僕の母方のお爺ちゃんは日本人なんだ」

若者はダーウィン・バーニーと名乗った。見るからにアジア人の血が入っているハンサムな若者だった。“お爺ちゃん”の苗字は“山本”だそうで、サムライの家系だという(彼の左肩には山本の漢字と家紋が刺青で入っている)。

「僕は日本語も韓国語も話せないけれど、いつでもアジア人のバックグラウンドがあることを誇りに思っているよ」

バーニー自身はポートランド生まれだが、「僕は自分ではハワイ人だと思っている」と話す。

「お爺ちゃんは100%日本人。でも僕のお婆ちゃんは100%の韓国人なんだ。そこから生まれたのが僕の母だけど、祖父母の時代はきっと難しいこともあったんじゃないかな」

その頃は、サッカーのワールドカップ南アフリカ大会が話題になっていた時期で、戦争中の負の歴史を話すより、日本人記者に「2つの国って、サッカーでもライバルなんだろ?」と訊ける無邪気さに好感が持てた。

2年後の今年、そのバーニーが大活躍している。本来は遊撃手だったが、「スター候補」として売り出し中のカストロ(昨年5月コラム参照参照)がいるため二塁に転向。控え内野手候補の一人として、キャンプ中には「メジャーに残れるかどうか?」と言われていたが、オープン戦で4割近い打率を残し、昨季途中にトレードでやってきてレギュラー扱いされていた左打ちのデウィットや、左投手に強いベテランのベイカー内野手を押し退けて定位置を掴んだ。おまけに4月26日までに打率3割2分9厘を打っており、今ではナリーグの新人王候補である。

「今のところはいい感じだね。ここ(メジャー)にいるのを楽しんでいるよ」とバーニー。身長180センチ足らずで実直な性格だから、ついつい“若造扱い”してしまいそうになるが、チャンスをものにするだけのどん欲さも秘めている。メジャー初昇格を果たした昨季終了直後から、大舞台で生き残る術を懸命になって探していたという。

「最初から重要なキャンプになると思っていた。オフの間からアリゾナでトレーニングしてきたし、数字よりも良い打席をこなすことが大事だったんだ」

アジアの血が入っているせいか、今でも野球選手としては痩身なほうだが、体のサイズ自体はひと回り大きくなったような気がする。体作りに成功した彼は、キャンプでは毎朝、早出の特守と特打ちをこなし、ハラミーヨ打撃コーチとその直弟子のバード外野手に付っきりで学んだという。

「オフの間に、自分が思う打者像をはっきりと描いたんだ」

思い切りのいい打撃に、隙あらばという走塁。高校までサッカーもプレーしただけあって、運動能力はかなり高い。

「もうあんなには走り回れないよ。野球みたいに休憩が必要なんだ(笑)」

2009年のア・リーグの元本塁打王ペーニャ一塁手(昨季レイズ)や、通算290本塁打のラミレス三塁手以外に「長距離砲」と呼べる打者がいないカブスだ。バーニーが走り回る姿が、これからも見られそうだ。

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ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野を経て、1997年アメリカ合衆国アイオワ州に転居。1998年からマイナーリーグ、2001年からメジャーリーグ取材を本格化。2004年、東海岸ロードアイランド州在住時にレッドソックス86年ぶりの優勝を経験。翌年からはシカゴ郊外に転居して、ホワイトソックス88年ぶりの優勝を目撃。現在カブスの100+?年ぶりの優勝を体験するべく、地元を中心に米野球取材継続中。 訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員。

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