先月のAFCアジアカップ(カタール)で日本代表の最年長選手となった遠藤保仁。帰国後、約3週間のオフを経て、17日からガンバ大阪の練習に復帰した。3月5日のJ1開幕戦に向けてマイペースで調整していくという。今季は同い年の橋本英郎がグアムキャンプ中に右ひざじん帯を損傷し、全治6ヶ月の重傷を負ったばかり。33歳になる鉄人ボランチ・明神智和も最近はケガが多く、フル稼働は厳しくなってきているだけに、遠藤にはより大きな責任がのしかかりそうだ。

今や日本サッカー界の看板選手となった彼は、決勝・オーストラリア戦前日の1月28日に31歳の誕生日を迎えた。同じ世代のメンバーが一気に代表から去り、もはや30代選手は彼1人。ザッケローニ監督の大胆な若返り路線にあって、遠藤だけは不動の地位を築き続けている。2014年ワールドカップ・ブラジル大会を諦めるつもりも一切ないようだ。

本人も「今までは佑二(中澤=横浜)とか正剛さん(楢崎=名古屋)とか俊(中村俊輔=横浜)とかがいて、自分は一歩後ろから追いかける感じだったけど、今は多少なりとも自分からやらないといけない。特に今回のアジアカップはそう思ってました」と言うように、自身の立場をしっかりと認識している。

遠藤のいいところは、最年長になったからといって、若手に何かを無理強いしないところ。決して自然体を崩さないのだ。「経験の少ない選手たちに試合前に一言かけたり、コミュニケーションを図ろうとはしましたけど、一番大事だったのはみんながよさを出すこと。自分がコントロールするところはして、あとは伸び伸びやってもらうことを心がけてました」と大会中も話していた。一歩引いて見守るタイプの遠藤なら、若い選手たちも精神的な負担は感じない。キャプテンの長谷部誠(ヴォルフスブルク)も南アフリカの時よりかなりやりやすそうだった。黄金世代の中で彼が生き残っているのも、精神的にいつも大きく構えていられるからだろう。

プレー面でも攻守の軸を担っていた。本田圭佑(CSKAモスクワ)が「ホンマのMVPはヤットさん」と言い、遠藤のバックアップ役としてカタールに帯同した柏木陽介(浦和)も「ヤットさんのチーム」と認めたように、確かに今のザックジャパンは遠藤の存在感が非常に大きい。大会序盤こそシーズンの疲れからか運動量が少なかったが、徐々に走力を取り戻して守備面で的確にサポートに入っていたし、攻撃面ではほとんどのチャンスが遠藤のパス出しから始まっていた。

オーストラリア戦で李忠成(広島)の決勝点をアシストした長友佑都(インテル)にいいタイミングでパスを出したのは遠藤だったし、準々決勝・カタール戦の伊野波雅彦(鹿島)の決勝点の起点も遠藤だった。直接のアシストやゴールは少なかったかもしれないが、確かに遠藤のパスさばきが日本攻撃陣をコントロールしていた部分が大きい。だからこそ、遠藤を目標とする柏木が「ヤットさんのチーム」と脱帽するのだろう。

ジーコ時代の2002年11月のアルゼンチン戦(埼玉)で国際Aマッチデビューを飾ってから足掛け9年。遠藤のキャップ数は106にのぼった。シドニー五輪時代からいつも背中を追いかけてきた中村俊輔をいつの間にか追い越し、井原正巳(柏コーチ)、川口能活(磐田)、中澤佑二に次ぐ歴代4位となった。彼の恩師である鹿児島実業高校の松澤隆司総監督も「遠藤は体にガタがない。一度も大きな手術をしていないし、体力的なポテンシャルも高い。まだまだイケると思う」と太鼓判を押していたように、当分は問題ないだろう。このまま行けば歴代最高も夢ではない。

実際、遠藤を超えられるボランチはすぐには見当たらない。柏木が自ら名乗りを挙げているようだが、彼は遠藤に比べると体が小さく、守備面でやや劣る。運動量は多い選手なので、遠藤のように経験を積んでいけば大きく伸びる可能性はあるものの、やはり現状ではポジションを奪うまでには至らない。

その下の世代を見ても、宇佐美貴史(G大阪)、宮市亮(フェイエノールト)のように2列目とFWをこなせる人材は多いのだが、ボランチはどうも少ない。黄金世代の頃はあれほど選び放題だったポジションの選手たちが、その後のサッカーの質的変化や日本サッカー協会の育成の問題などがあり、どんどん減っているのは問題だ。こうした流れも遠藤を後押ししている。今のところは彼に頼るしかないだろう。

とはいえ、彼もブラジル大会の時は34歳になる。世界的に見れば、サネッティ(インテル)のように30代後半に差し掛かってもフル稼働しているトップ選手もいるだけに、今のコンディションを維持できれば全く問題はない。が、どんな人間にも万が一ということはありえる。遠藤本人にはパフォーマンスを上げる努力をしてほしい。それに加えて、若い世代の台頭も求めたい。ザック監督もいい人材を探し続けるだろう。誰が遠藤の立場を脅かすのか。柏木なのか、それとも他の選手なのか。それも今後の見どころといえる。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。