2010年Fリーグの開幕戦(セントラル開催の3試合)を見に行った。

鳴り物入りで名古屋オーシャンズに加入したリカルジーニョ人気のおかげか、5000人以上の観客が詰め掛けての開幕戦である。そして、フットサル専門記者以外にも多数の記者が取材に訪れていた。そのリカルジーニョが出場した第1試合、名古屋対エスポラーダ北海道の試合後の記者会見は「哲学論争」と言うべきか「水掛け論」と言うべきか、長い長い会見となり、2試合目が始まる直前にようやく終わった。名古屋オーシャンズのアジウ監督が「北海道のような戦い方をしたのではフットサルの面白さを分かってもらえないし、日本の強化のためにもならない」と、エスポラーダ北海道の戦い方を痛烈に批判したのだ。

事情はこうだ。この試合、北海道は徹底してロースコアゲームに持ち込む作戦を採った。

名古屋は、Fリーグ開幕から3年連続優勝を飾った日本で唯一のプロチーム。予算規模から言っても、施設面から言っても日本のナンバーワンクラブである。一方の北海道は、昨シーズン初めてFリーグに参加したチーム。大健闘で昨季4位に入ったとはいえ、名古屋と比べれば「格下」であることは間違いない。7月に行われたリーグカップである「大洋薬品オーシャンアリーナカップ」でも、北海道は3位に入ったのだが、準決勝では名古屋に1-8という大敗を喫しているのだ(大洋薬品は名古屋オーシャンズのメインスポンサーであり、オーシャンアリーナは名古屋のホームアリーナ。それだけでも、オーシャンズの地位が分かるというもの)。北海道が、勝負にこだわった戦いを選択したのも当然のことだろう。

方法はこうだ。前半から北海道はボールをキープすると「パワープレー」に出たのだ。

フットサルでは選手交代が自由なので、GKを退けてフィールドプレーヤーをピッチに送り込むことができる。相手にボールを奪われたらすぐにGKがピッチに戻るのだ。普通、残り時間が少なくなってリードされているチームが1点を奪って追いつくときに使うオプションである。ところが、北海道は前半の立ち上がりから、パワープレーに出てきたのだ。もちろん、攻めるためではない。フィールドプレーヤーを1人増やして後方でボールを回したのだ。自分たちがボールを持っている限り、失点することはないというわけだ。

こうして、試合は膠着状態が続いた。それでも、格上の名古屋は16分01秒に先制ゴールを決めたのだが、後半開始早々、北海道が同点に追いつく。そして、再び試合は北海道が守りに守って、同点のまま時計の針が進む。話題のリカルジーニョも登場し、すばらしい動きを見せた。走るスピード、ストップやターンの鋭さなど、動きの良さが際立っている。しかも、それだけ高速で動きながら他の誰よりも正確にボールを扱うのだ。やはり圧倒的な存在感はある。だが、多くの観客が期待したマジックのようなプレーは見られず、天才1人の力ではゲームの流れは打開できない。

しかし、それでも29分49秒に名古屋が勝ち越し点を奪い、再びリード。「北海道の抵抗もここまでか」と思わせた。だが、残り時間が少なくなると北海道は「本気の」(攻撃のための)パワープレーを繰り出して追いすがる。そして、残り時間も少なくなった39分27秒、北海道が名古屋のミスをカットして再び同点に追いついてしまったのだ。名古屋が慌ててパワープレーに出るが、残りが30秒ではどうにもならず、優勝候補の名古屋オーシャンズは引き分けのスタートとなってしまったのだ。

サッカーの常識として言えば、弱者が強者に戦いを挑むときに守備的な戦い方をするのは当然の選択である。

南アフリカ・ワールドカップで、日本代表も守備重視で戦いながら、2勝1分1敗の成績を残した。最強のスペインと準決勝で戦ったドイツも、やはり徹底した守備のサッカーをした。チャンピオンズリーグでバルセロナと対戦したら、チェルシーだって、インテルだって、守備を固めてロースコアゲームに持ち込もうとする。互角に打ち合って点の取り合いになったら、必ずと言っていいほど強いチームが勝つ。弱者の選択としては、どちらも点が取れない状態にして、1発のカウンターで点を取って勝つという戦い方しかない。点が入るか入らないかは偶然や運・不運によるところが大きい。ロースコアゲームにすれば、そのたった1回の幸運で勝てる可能性が出てくるのだ。

だから、弱者は守備的な戦法を採ることを強者に非難される謂れはないのである。

もちろん、名古屋のアジウ監督の言っていることは間違っているわけではない。強者相手に、真っ向勝負をすれば、勝負として負けても弱者にとっても得るものはある。長い目で見たらそれが進歩につながるのかもしれない。だが、同時にサッカーは(あるいはフットサルは)勝負事なのである。弱者が強者に対してなんとか勝とうと工夫するのも勝負事の楽しさだ。大差がついてしまう試合より、1点を争う緊迫したゲームの方が面白いと言うこともできる。

そして、良いサッカー(良いフットサル)をしているチームには、そうした守備的な戦いをする弱者を打ち破る義務があるのだ。

それができないと、守備的に戦うサッカーがさらにはびこってしまう。強者が「守備的に戦っても無駄だ」とばかり、守りに入った弱者に勝利を収めていれば攻撃的なサッカーを目指すチームが増えていくことだろう。ワールドカップで、さまざまな守り方をする対戦相手をすべて打ち破って、パスをつなぐ、美しいサッカーでスペインが勝利したしたことには、そういう意義もあるのだ。

だから、名古屋オーシャンズが攻撃サッカーを展開して見事に勝利を収めたときに北海道の戦い方を批判するのなら説得力もあろうというものだ。だが、引き分けに持ち込まれた挙句に相手の戦い方を非難したのでは、「八つ当たり」としか言えなくなってしまう。だいいち、北海道は守りに守って0-0で引き分けたのではない。2度リードを許しながら、2回とも点を取って追いついて引き分けたのだ。「立派なもの」である。3年前に発足した頃には、ハデな攻め合いの試合が多かったFリーグも、昨年あたりから守備的な、勝負にこだわった試合が多くなっている。また、そういう戦法が11人制のサッカー以上に効果的なのだ。

今後も、名古屋オーシャンズ相手に各チームはさまざまな策略を仕掛けてくることだろう。それを名古屋がどうやって打ち破っていくのか。それこそが、本当の見所なのではないだろうか。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授