今年に入ってからの迷走ぶりを近くで見てきただけに、正直、勝てるとは思っていなかった。が、岡田ジャパンは南アフリカワールドカップの命運を左右するカメルーン戦を1−0で勝ちきった。カメルーンが精彩を欠いたこと、日本の選手たちが国歌斉唱時に肩を組むなど、かつてない結束力を前面に押し出したこと、岡田武史監督がここ最近、盛んに練習していたクロスからのシュートがうまくはまったこと、守備の意思統一がしっかりとできていたこと…。勝因を挙げるといくつもあるが、一番印象的だったのは、岡田武史監督が自身の真骨頂である守り倒すサッカーをこの大舞台で貫いたことだ。

横浜F・マリノスを率いていた2003・2004年に岡田監督は2年連続Jリーグ年間王者に輝いている。特に2004年のチャンピオンシップ・浦和レッズ戦は壮絶だった。第1戦を河合竜二(横浜)のゴールで逃げ切り、迎えた2戦目。浦和の実質5トップでの猛攻に横浜は耐えに耐えた。強固な守備ブロックを作り、怒涛の攻めを跳ね返す。三都主アレサンドロ(名古屋)にFKから一発は浴び、最終的にPK戦での勝利だったが、そのしぶとさ、粘り、泥臭さは岡田監督のスタイルそのものだった。あの時を髣髴させる戦いを指揮官は2度目のワールドカップで見事にやってのけたのである。

おそらく5月24日の日韓戦(埼玉)まではもう少しボールを支配し、パスをつないで攻める最終予選のスタイルをベースに戦うつもりでいただろう。しかし隣国の宿敵に1年間で2度も完敗を喫し「このままでは世界で惨敗する」と悟ったのだろう。30日のイングランド戦(グラーツ)では、パスサッカーの象徴だった中村俊輔(横浜)を外し、阿部勇樹(浦和)をアンカーに置いた守備的新布陣を導入。これで手ごたえを得たことで、セーフティに戦う腹積もりを固めた。

そして、6月4日のコートジボワール戦(シオン)で岡崎慎司(清水)の1トップにも見切りをつけた。中盤でタメができなくても、ボールを奪って速い攻めを仕掛けられればそれでいいと割り切った岡田監督は、本田を1トップに置き、個人で仕掛けられる松井大輔(グルノーブル)と大久保嘉人(神戸)をワイドに配した。この3人がカメルーン戦の貴重な得点場面に絡んだのだから、してやったりではないか。

しかも阿部をアンカーに置いた3MF(3ボランチという言葉を岡田監督は好まない)と4バックがうまく機能した。「ジンバブエとの試合では自分とハセ(長谷部誠=ヴォルフスブルク)の位置が高すぎたんで少し修正した」と遠藤保仁(G大阪)は語っていたが、カメルーン戦の中盤は阿部を軸に他の2人が的確にアップダウンしながらバイタルエリアを決して空けなかった。阿部自身もこの日はしばしば攻撃の起点となって、前線に何度かいいフィードを出した。そういう仕事は稲本潤一(川崎)より上だ。コートジボワールほど当たりや寄せが厳しくなかったからこそ、彼は自分の間合いでプレーできたのだ。

最終ラインも、センターの2人をサイドの長友佑都(FC東京)と駒野友一(磐田)が確実にカバーした。「今日はエトーにボールを出させず、なおかつカバーにも行ける絶妙のバランス感覚を取れた」と長友は満面の笑みを浮かべたが、彼らの奮闘なくして無失点勝利はありえなかった。シュートがカメルーンの11本に対し、日本はわずかす5本、ボール支配率も相手の56%に対し44%という劣勢にもかかわらず、勝ち点3を死守できたのも、これだけの高い守備の意思統一があったから。この部分だけは3週間という短期間で大きな成長を遂げた。やはり岡田監督は守備の人なのだろう。

ただ、もしもイビチャ・オシム監督が病気にならずに現在も代表を率いていたら、カメルーン相手にこういうサッカーをしただろうか。それを考えると少し残念な思いもよぎる。人とボールの動くサッカーを提唱し、連動性を何よりも重視した名将なら、もう少し攻撃にも変化をつけられるチームを作ったのではないか。そこが悔やまれる。「世界を驚かすサッカー」を目標に掲げてきた岡田監督だったが、試合内容ではまだ世界を驚かす段階には至っていない。ギリシャを圧倒して勝った韓国のように、どうやって攻撃に推進力を持たせるか。そこがオランダ、デンマーク戦の最大のカギになる。

さしあたって19日のオランダ戦だが、真っ向勝負に行っても勝てる可能性は低い。それでもあえてサムライスピリッツを押し出すか、中澤佑二(横浜)ら疲れの見える選手を休ませてターンオーバーを敷くか。判断が難しいところだ。戦い方も守り倒すスタイルから、昨年9月のオランダ戦(エンスヘーデ)のように前からプレスをかける形に回帰させることも考えられる。いずれにしても、もう少しボール支配率を上げないと、攻撃チャンスを増やすのは難しい。ここで中村俊輔や中村憲剛(川崎)らキープできる選手を使うのも1つの手ではないか。

大きな1勝でやっと自信をつけた日本。しかしここからが本当の戦いだ。岡田監督や選手の器の大きさが問われる。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。