負けた試合だから誉めるのも変だが、日本代表としては間違いなく2010年で最高の出来だったろう。なにしろ、相手の韓国は1月から始動しており、すでに国際試合を8試合も消化している。3月には(日本がバーレーンなんかとホームで戦っていた日に)ロンドンでコートジボワールと対戦して2-0で勝っているのだ。マッチメークを含めて、準備という面では韓国の方がはるかに進んでいる。内容的にも圧倒されてしまう恐れすらあった。

実際、立ち上がりは韓国に押し込まれてしまう。この日は、内田と闘莉王が故障で欠場。最終ラインは右から長友、中澤、阿部、今野という並び。いつもの違うメンバーだったからなのか、それとも岡田監督が「カウンター対策」を言ったせいなのか、ラインの押し上げが悪かったのだ。せっかくボールを奪っても、最終ラインが上がれず、攻撃陣との間のスペースが広がってしまう。仕方なしに、後方でボールを回しているうちにミスが生じて、再び相手にボールを奪われる。そんな状態が続いていた。そして、6分という早い時間にミスが重なって、朴智星(パク・チソン、マンチェスター・U)に先制を許してしまった。

今野の処理のミス。阿部のスライディングの甘さなどのミスはあったが、それを見逃さず、しかも角度の浅いところからファーサイドにシュートを飛ばしたあたりは、さすがは朴智星である。だいたい、ナショナルチームの実力は、「チャンピオンズリーグの決勝トーナメントに出場するような選手が何人いるか」で語られる。日本は、辛うじてベストエイトに進んだCSKAモスクワの本田圭佑1人。そして、韓国は、チャンピオンズリーグ決勝でプレーした経験もある朴智星がいたのだ。その差が、早々と出てしまった(オランダなどは、チャンピオンズリーグ決勝に出ていた選手がぞろぞろいるわけだ。恐ろしや……)。

この時点では、予想通り、かなり一方的な試合になるかと思ったのだが、その後の韓国の追撃の手も弱く、日本が立て直していく。最終ラインもしっかり上がれるようになり、それに伴って、前線でもプレッシングも効くようになる。25分を過ぎると互角の戦いとなり、さらに後半は日本が押し込む時間帯も増えてきた。もっとも、これは韓国が金南一(キム・ナミル、FCトム・トムスク)を入れて守備のブロックを作ったからでもある。1-0の試合なら、当然の流れと言うこともできる。

要するに、勝っているから韓国が守備的になったのだ。そして、日本の中澤を上げての総攻撃の後のカウンターからPKをゲットして、韓国は効率的に勝った。だが、ワールドカップ本大会ということを考えると、韓国の攻撃力も物足りない。エースの朴主永(パク・ジュヨン、ASモナコ)が完全復活したとしても、朴主永はテクニックのあるタイプで、中盤に戻ってプレーしたがる選手だから、決定力が大幅にアップすることはないだろう。カメルーンやデンマークの監督だけでなく、ギリシャやナイジェリアの監督も、この試合のビデオを見て、さぞやホッとしることだろう。

その朴智星と日本の長友が、日本側から見て右サイドでぶつかった一連のプレーは見ものだった。

長友は守備力も運動量も豊富なサイドバックである。そして、先日のJリーグの清水戦でミドルのボレーシュートを決めるなど、現在の日本代表選手の中では珍しく絶好調だ。最終ラインが上がれずに苦労していた時間帯には、引き気味になってしまって、何度も突破を許していたのだが、次第に朴智星と激しいバトルを繰り広げられるようになっていった。最大の見せ場は、前半の39分のプレーだった。中央から(韓国サイドから見て)左の朴智星にパスが入るのを読んで、長友が朴智星からボールを奪って、そのままドリブルで上がった場面だ。奪われた朴智星はすぐに後方から長友を追って、スライディングをかけてボールをタッチに出した。

チャンピオンズリーグ決勝クラスの朴智星相手に臆することなくチャレンジしてボールを奪った長友もいいプレーをしたが、奪われた瞬間に守備に入り、長友に追いついて守備をした朴智星も、さすがに高いレベルでいつもプレーしているだけのことはあった。長友は、まさか朴智星が追いかけてくるとは思っていなかったのか、タックルを受けた瞬間には虚を衝かれたような感じだった。そして、朴智星と長友は、その後も激しいバトルを続けた。

日本代表では本来は左サイドバックを務める長友。ワールドカップのオランダ戦では、あのロッベン(バイエルン・ミュンヘン)とのマッチアップになる可能性がある。朴智星クラスとは、五分に近い戦いができた長友が、ロッベン相手にどこまで食い下がれるかが楽しみだ。ワールドカップで、ロッベン相手に勝負ができれば、大会終了後には長友の下には強豪クラブからもオファーが届くのではないか。もっとも、現実にロッベンを止めるのは至難の技だろう。今シーズンのチャンピオンズリーグでチェルシーのドログバや、バルセロナのメッシを完封したインテルの守備陣でさえも、ロッベン相手には相当に手を焼いていた。

インテルは、ロッベンのドリブルを止めることは諦めていたかのようだった。縦に抜けられて、右足でクロスを入れられても中央で勝てる。それよりも、中に切れ込んでの左足のシュートの方を警戒すべし。インテルは、ロッベンが中に切れ込んだときには、必ずシュートコースを塞ぐことで、ロッベンに仕事をさせなかったのだ。日本代表も、そうした考え方でロッベンを防げるのだろうか?

しかし、日本代表とインテルでは、事情はだいぶ違う。インテルが「縦に抜かせてクロスを入れさせてもいい」と思えたのは、バイエルンのオリッチとミュラーのツートップに対して、インテルはルシオとサムエルという2人のストッパーがいれば絶対的に優位に立てると考えたからなのだろうが、日本がオランダと戦うとき、そのような中央での優位性などまったくない。また、ロッベンが中に切れ込んだとき、日本の中盤でカンビアッソやサネッティのような働きができる選手がいるかといえば、これも疑問である。

さて、チームとしてロッベンをどうやって止めるのか……。それも重要な課題だろうが、まずは長友個人の守備力に大いに期待すべきだろう。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授