今週頭に日本サッカー協会が南アフリカワールドカップに挑む日本代表のサポートメンバー4人を発表した。その顔ぶれは香川真司(C大阪)、酒井高徳(新潟)の両Jリーガーと永井謙佑(福岡大)、山村和也(流通経済大)。香川だけが予備登録メンバー7人に入っているが、他の3人は1月のイエメン戦(サナア)の日本代表にも選ばれた選手。岡田武史監督も才能を高く評価している若手ばかりだ。

サポートメンバーという日本独自の選手たちを選んだ最大の意味は、練習を円滑に進めるためだ。岡田監督は「98年フランス大会の時に監督をやったから分かるが、22人しかいないと紅白戦をやったりするのに支障が出る。練習を補佐してくれる選手が必要だ」と言う。あの時は本登録から落選した市川大祐(清水)が残ってサポートメンバー的な役割を果たしたが、同じような位置づけの選手がほしいと考えたのだろう。その意向を受け、日本サッカー協会の技術委員会が選定した。

メリットの1つとしては、ケガ人が出た時にすぐに入れ替われる予備登録の香川が帯同していること。香川本人は10日の落選を受け、翌日に正式決定したボルシア・ドルトムント移籍へ全てを注ぐ決意を固めていた。このため、サポートメンバーの打診があった際、困惑のコメントを残している。しかし「次の日本代表の軸を担う選手だから」という協会の説得に折れた。「もしかして誰かがケガをすれば自分がメンバーになれるかもしれない」という考えも自分自身を動かしたに違いない。これがドルトムント移籍にどう影響するかは分からないが、最低1人でも予備登録の選手をそばに置けたというのは、岡田監督にとって安心だ。

20歳前後の若い世代がワールドカップ独特の空気を経験できるのも先々につながる。98年の市川は2002年日韓大会に出場し、チュニジア戦で中田英寿のゴールをアシストする活躍をしたが、「体が自然に動いた」と話すほど冷静だった。それも98年に修羅場をくぐった経験が大きい。中村俊輔(横浜)にしても「初めてのワールドカップだった2006年ドイツ大会ではベストコンディションに合わせられなかった。独特の雰囲気があったし、うまくいかなかった。だけど今回は2度目だし、1回経験した分、普通にやれると思う」とコメントしている。それくらい経験というのは重要だ。今回、次世代を担う若手4人が貴重な体験をすることは多少なりとも意味があるだろう。

けれども、マイナス面もある。予備登録メンバーとサポートメンバーを分けたため、香川を除く予備登録6人の位置づけが宙ぶらりんになったことだ。今週から鹿島がオフに入っている小笠原満男などは特に難しい。ナビスコカップのある選手のようにチーム練習ができないのは痛い。他の6人も居心地の悪さを感じているはずだ。23人の誰かがケガをしても、欧州と南アは遠すぎて、すぐには駆けつけられない。6月1日以降なら負傷者とサポートメンバーを入れ替えられるので、「そんな状況で本当に自分たちが南アで戦う可能性があるのか」と不安にもなるだろう。

だったら、最初からサポートメンバーなどという独自のものを作らず、普通に30人で調整を始めて、最終的な変更登録期限である6月13日まで帯同させればよかったという考え方もできる。しかし、岡田監督には、カズ(三浦知良=横浜FC)と北澤豪(現解説者)を外し、キャプテンだった井原正巳(現柏コーチ)が負傷するなどチーム全体が大きなダメージを負った98年のトラウマがある。「途中で何人かを帰して雰囲気がガラリと変わる」という事態を避けたかったのだろう。

とはいえ、ワールドカップは真剣勝負の場。途中でチャンスのなくなったメンバーを外すのは当たり前。今年1月の指宿合宿から東アジア選手権にかけても、何人かを所属クラブに帰している。なぜワールドカップの時だけ同じことができないのか。それは疑問といわざるを得ない。

98年フランス、2002年日韓の時のように、最初に選ばれた登録メンバーだけで最後まで行ければ、こんな心配は杞憂に終わる。が、もしも2006年ドイツの時の田中誠(福岡)のような選手が出たら本当にどうなるのか。香川がまかなえる攻撃的MFより前の選手ならまだしも、守備的MFから後ろの選手がケガをしたら…。その場合、混乱は必至だ。

今日21日から最終調整合宿が始まる。最悪のシナリオにならないように、23人の選手たちにはコンディションを万全に整える努力をしてほしい。何も問題が起きないのが一番いいのだから。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。