ワールドカップを前に、世界中から「×××選手負傷。W杯絶望か」といった悲しいニュースが飛び込んでくる。マンチェスター・ユナイテッドのルーニーも欠場が続き、ワールドカップも万全な状態では望めない可能性があるようだ。イングランドでは、すでにベッカムはワールドカップ出場が不可能となっているし、スペインではセスクが戦列を離れてしまった。各国で首位攻防戦が激しくなっている現状では、まだまだ何人かの選手が4年に一度のワールドカップを棒に振る事態に陥ってしまうだろう。

悲しいことだが、それが現実だ。

そもそも、フィジカルコンタクトのあるスポーツには負傷は付き物だし、ますます過密になるスケジュールがそれに拍車をかけている。長いシーズンの終わりになって疲労が蓄積しているときには、とくに大きな事故も起きやすくなる。そして、本来、それは日本にとっては有利な条件だったはずなのだ。長いシーズンを終えて疲れきった中でワールドカップに出てくる欧州各国リーグに属する選手たちに比べると、Jリーグでプレーしている選手たちは、3月に開幕して3か月が過ぎた頃に開かれるワールドカップには、フレッシュな絶好のコンディションで臨めるはずなのだ。そして、コンディショニングさえうまくいけば、多少の実力差を埋めることができる……はずだった。

ところが、現実にピッチ上を見れば、Jリーグの各チームにも数多くの負傷者が存在する。

ACLの初戦でアゴの骨を折った中村憲剛はようやく戦列に復帰し、中村俊輔もなんとか試合には出られるコンディションにあるようだが、遠藤保仁は、フル出場は無理な状態で、稲本も筋肉系の負傷で戦列を離れる可能性がある。日本代表が誇るMF陣だけを取り上げても、ほぼ全員がベストからは程遠い状態にあるようだ。このままでは、ワールドカップには小野伸二と小笠原満男でも招集しなければならなくなりそうだ。日本がグループリーグを突破して決勝トーナメントに進むためには、日本が万全の状態で臨んで、それでさらに幸運も必要なはず。現在のような状況では、技術や戦術以前の問題として、とても世界の強豪と戦える状況ではない。

「どうせ負けるのだから同じこと」と思う人もいるかもしれないが、日本がベストコンディションで、やりたいことができた上で負けるのならば、「何が通用して、何が通用しなかったのか」が分かり、将来への教訓を得ることができるが、4年前に続いてまたも「コンディションが悪かったから負けました」というのでは、まったくの無駄な敗戦となってしまう。いったいどうして、開幕直後だというのに、こうもコンディション不良の選手が多くなってしまったのだろう。ワールドカップのことは別としても、Jリーグ自体の試合のレベルも低下し、リーグ戦への関心も薄れてしまう。

こういう事態になってしまった最大の原因は、シーズンオフに十分な休養が取れないことだ。

つまり、日本の場合、リーグ戦が終了しても、天皇杯で勝ち進んだチームは1月1日まで試合があり、しかも、毎年のように2月から代表の公式試合が入っているため、1月の中旬あたりには代表チームが始動している。天皇杯を最後まで戦った選手は、代表合宿の始動を遅らせるなどの配慮はなされているとはいえ、休養が取れないことに変わりはない。ガンバ大阪のように、そもそも高齢化しているチームが、2年連続で天皇杯で元日まで戦っていたのでは、故障者が出るのは当然過ぎる結果だ。天皇杯決勝の元日開催は、早急に見直すべきだろう。また、中村俊輔や稲本潤一、小野伸二など、ヨーロッパのクラブから戻ってきた選手たちは、それこそオフが取れないままの新シーズン突入になってしまった。

さて、そういう目で見ると、次のシーズンオフ(つまり、2010年の12月から2011年の1月)はさらに厳しい日程が待っている。天皇杯は、これまで通り元日に決勝戦があるが、なんと1月にはアジアカップが入っているのだ。先日行われた組み合わせ抽選の結果、日本は前回準優勝のサウジアラビアと同じグループに入り、初戦は1月9日のヨルダン戦と決まった。決勝は1月29日である。日本サッカー協会は、この大会にどんなチームを送り込むつもりなのだろう?

天皇杯が元日にあるとすれば、それに出た選手は代表招集免除なのか? それとも、天皇杯を代表抜きで戦うのか? 日本が決勝まで進んだとすれば、帰国直後には各クラブがキャンプ入りするわけだから、代表選手たちはまったくオフが取れなくなってしまう。これでは、今年以上にケガ人だらけのままの開幕を迎えることになりかねない……。そもそも、ワールドカップ終了後、日本代表の新監督が決まるのだろうが、その後、10月にソウルでの韓国戦が決まっているくらいで、代表の活動はほとんどない。新監督の下で、ほとんど準備期間もないままにアジアカップを迎えるのだ。

場所は中東のカタール。ワールドカップ予選で、中東勢はすべて敗退してしまったから、ガルフカップやアジアカップに向けて、十分な準備をして臨んでくるだろうから、新チーム立ち上げ直後の日本や韓国にとっては難しい大会になる。はっきり言って、今回のアジアカップは、オフの間に無理をして参加するほどの価値がある大会とは思えない。むしろ、Jリーグクラブに所属しながら試合に出られない若手選手や大学生、高校生(大学選手権や上位進出校や高校選手権出場校を除く)の選抜チームでも送り込んで、高いレベルの試合を経験させる方が役に立つのではないか? あるいは、ロンドン・オリンピックを目指す来年度のU22代表を派遣してもいいのではないか?

もちろん、AFCが文句を言ってくるだろうが、東アジアのシーズンを無視したような日程を作る方に非があるのは明らかであり、むしろ、東アジア連盟のAFCからの独立のきっかけにしてしまってもいい。いずれにしても、良いコンディションでJリーグ開幕を迎えられるように、長期的に日程を考えないと、2014年も2018年も、日本は良いコンディションでワールドカップを戦えなくなってしまう。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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