今週のサッカー界最大の話題といえば、バルセロナがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で3シーズンぶり3度目の王者に輝いたこと。その試合内容も圧倒というに相応しいもので、昨季王者のマンチェスター・ユナイテッドが手も足も出なかったのだ。マンUのそんな姿を見たら、昨季世界クラブワールドカップでガンバ大阪の選手たちは一体、何を感じるだろう。バルサとの果てしなきレベル差に途方に暮れたかもしれない。1週間のオフを利用して播戸竜二が現地で試合を見たというから、ぜひ近いうちに感想を聞いてみたいものである。

そのバルサだが、カンテラ(下部組織)出身者が非常に多いことで有名だ。CLファイナルに出ていたスタメンのうち、GKビクトル・バルデス、DFプジョル、ピケ、MFシャビ、ブスケツ、イニエスタ、FWメッシの7人が該当するから凄い。シャビは1999年ワールドユース(ナイジェリア)のスターで、小野伸二(ボーフム)と並んで大会の顔と位置づけられた。イニエスタも2003年ワールドユース(UAE)で大活躍し、メッシも2005年ワールドユース(オランダ)でアルゼンチンを優勝に導くなど光り輝く才能を見せつけた。ユース年代から世界に名を馳せた選手たちがそのまま成長の歩みを止めることなく、確実にレベルアップしていく。それがバルサの強みなのだろう。

5年前になるが、まだ20歳だったイニエスタにインタビューをしたことがある。非常にいい話なので、今一度引用したい。彼はマドリードの南西約300kmのところにあるアルバセーテ出身。12歳の時に親元を離れてバルサのカンテラに入団したという。「親元を離れたのはとても辛かったけど、教養や人間性など全ての面で日々成長しようと心がけました。学校の勉強も両立できましたよ。周りのサポートもあったし、ずっと成績も悪くなかった。今も勉強は続けていて、将来は体育大学に進むつもりです」。彼の目標意識が非常に高さにまずは驚かせた。バルサではカンテラ時代から「勝者のメンタリティ」を叩き込まれたという。

「バルサはトップチームだけじゃなくて、どのチームも勝利を義務づけられている。だからこそ選手は成長すると思います。トップチームに昇格する頃には勝つことが当然になっているし、それが厳しいトップレベルの試合でも役に立ると思います。バルサの素晴らしいところは、つねに尊敬すべき選手が活躍していること。僕はグアルディオラ(現監督)とミカエル・ラウドルップ(元デンマーク代表)をずっとお手本にしてきた。テクニック、フィジカルの全ての面で、彼らの姿を追いかけたんです」とイニエスタは話していた。環境が人を作るという重い事実を、この言葉から改めて痛感させられる。

シャビもメッシもイニエスタも小柄だが、その体の小ささを決してマイナスにしていない。素早く確実に動き、ボールを受け、的確な位置にさばく。そして次の瞬間にはもうシュートポジションに入っている。日本代表の中村憲剛(川崎)も「バルサの選手たちは単に止める蹴るの技術が高いだけでなく、いつも動きながらボールをもらっている。全員のイメージも豊富だからすぐにすり合わせられるんだと思う」と話していたが、確かにイマジネーション力も共通して高い。

「169cmの小柄な自分にとってフィジカルは武器になりません。このマイナス面をカバーするために、テクニックや状況判断など他の武器を磨いてきました。自分のトップ下だから、いいボールを供給し、ゲームを組み立て、ゴールを決めるという役割をしっかりこなせばいい。そのことを徹底すればいいんです。バルサでは体を強くするフィジカルトレーニングもやっています。フィジカルコーチの指導のもと、毎日、個人個人に合ったメニューを消化することになっているんです。サビオラ(現レアル・マドリー)なんかもバルサに来て、すごく体が強くなりました」とバルサのトレーニングがいかに緻密であるかを強調していた。

岡田武史監督も5月末の日本代表合宿から体幹を鍛えるフィジカルメニューを取り入れたが、もしかすると、日本協会の原博実強化担当技術委員長がバルサに視察に行って、吸収したメニューかもしれない。彼らから学べるものはどんどん学んでいけばいい。ムダのない日々を積み重ねているから、彼らは年代別代表を経て、グングン伸びていくのだ。むしろ年代別世界大会は、イニエスタらにとっては「腕試しの場」くらいの位置づけでしかないのかもしれない。必死になって世界大会に出ることを目指している日本サッカー界とはベースが違うのだ。

ならば、我々もベースを上げていくしかない。クラブはプロの集団になりきって、選手に勝利のメンタリティを身に着けさせ、フィジカルを強化し、武器になるプレーを磨いていく必要がある。そして代表では国際経験を積ませる。両方が最大限連動してもまだ足りないが、とにかくできることから始めていくことが肝要だ。

◆UEFAチャンピオンズリーグ決勝 リピート放送
 6月1日(月)18:00  バルセロナ vs. マンチェスターU J sports Plus

★バルセロナのオフィシャルクラブTV「バルサTV」放送予定はこちらから

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。