2008年のJリーグヤマザキナビスコカップで初タイトルを獲得した時、大分トリニータの溝畑宏社長は大喜びしながらも「来年はもっと厳しくなる。これで結果が出なければ周りから叩かれることになるから、気を引き締めてやらないといけない」とつとめて冷静に話していた。だが、タイトルに影響されないクラブはない。実際、大分もそうだった。

獲得賞金は全て選手の年俸アップ分に消え、新戦力の補強まで手が回らない。守備のキーマン・深谷友基の長期離脱はあらかじめ分かっていたのに、使えるかどうか分からない坪内秀介を獲っただけだった。加えて、若き攻守の要、金崎夢生と森重真人が今年1月の日本代表・指宿合宿に召集されたが、逆にコンディションを崩してしまう。そして2月にはパンパシフィック選手権に参加。クラブ初の国際大会ということで士気は高まったが、結果的にこのアメリカ遠征が1年間の土台となるフィジカル強化の機会を奪った。

タイトルという「魔物」は地方の小クラブを微妙に蝕んだのかもしれない。

それでもシーズン当初は悪くなかった。開幕・名古屋グランパス戦は敗れはしたもののウェズレイと金崎がゴール。第2節・京都サンガF.C.戦でもウェズレイの決勝弾が炸裂し、1−0で勝利を飾った。ところが第3節・アルビレックス新潟戦で主将・高松大樹が負傷したのが悪循環の始まりだった。ウェズレイも負傷。第4節・浦和レッズ戦では金崎が右肩を脱臼してしまう。その金崎が戻ったと思いきや、今度はボランチ・ホベルトが右ひざじん帯断裂。全治3ヶ月と診断された。

「1つ問題が起こればそれを修正し、また何か別の問題が起きる。そういうのがこの連戦に積み重なっている」とシャムスカ監督もお手上げ状態だ。降格危機に瀕した2005年9月に就任し、若手を次々と抜擢するなど優れた手腕を見せ、「シャムスカ・マジック」という言葉まで作った指揮官も、今は試行錯誤を繰り返すしかないようだ。

気づいてみれば、その浦和戦から5月5日の大宮アルディージャ戦まで7連敗。10試合で勝ち点4というのは、昨季J2に降格したコンサドーレ札幌の7より低い。このまま行けば、J2降格は避けられそうもない。

何か明るい材料が少しでも見えれば、フロントも指揮官も手の施しようがあるのだろうが、ミスを連発した大宮戦を見る限りではネガティブにならざるを得ない。特に気がかりなのが選手の自信喪失ぶりだ。大宮戦では前半22分から33分までの11分間に3失点しているが、最初の失点は坪内がクリアミスし、森重がボールウォッチャーになっていた。2失点目も西山哲平がヘッドを決めた藤本主税のマークを怠った。そして3失点目も森重が藤田祥史にいとも簡単に抜かれ、カバーに行った上本大海もかわされるなど、明らかに守備が後手後手に回った。そして上本が前半43分に一発退場。森重も「まずは自信を取り戻すことが最優先」と厳しい表情で言っていた。

自信喪失は守備陣にとどまらない。ウェズレイと高松という2人の柱を失った若い攻撃陣も自分たちらしさをまるで出せない。最下位という重圧に金縛りにあっているようにさえ感じられた。「家長昭博、森島康仁、金崎、前田俊介というメンバーは日本サッカーの将来を背負うと言われた選手たちがズラッと並んだけど、仕事ができなかった。この先も彼らがダメというなら補強を考えるしかない」と原靖強化部長も苦渋の表情を浮かべたが、それほど期待外れのパフォーマンスに終始している。もともと選手層が薄いだけに、こうした将来性高い若手が計算通りに働いてくれないと、チームのビジョンが一気に崩れてしまうのだ。

この低迷から脱す「劇薬」は2つある。1つは補強、もう1つは監督交代だ。

補強に関しては、今季開幕から苦しんでいたジュビロ磐田が李根鎬の加入1つで大きくリズムを変えた例もある。最近のJリーグを見れば、鹿島アントラーズの田代有三や中田浩二のように好調時は代表クラスの実力がありながら出場機会のない選手はいる。彼らを獲るのは一案だろう。大分には皇甫官副社長がおり、韓国にもパイプはある。李根鎬に匹敵する人材も探せるのではないか。しかしその選手がすぐフィットするかは疑問だ。大分のサッカースタイルやファミリー的な雰囲気になじめるかどうかも分からない。大きな賭けになるのは間違いない。

もう1つの監督交代というのは、溝畑社長以下フロント陣が最も選びたくない方法だろう。少ない予算でやりくりするチーム事情を理解し、最大限の結果を出してきたシャムスカ監督の後を担う人材はそう簡単に見つけられないからだ。しかし次の横浜F・マリノス戦で負ければ、荒療治を施さざるを得なくなる可能性が高い。

昨季、日本に夢を与えた地方の小クラブがこのまま沈んでしまうのか。全てはここ1〜2試合次第といえそうだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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