先週、日本代表攻撃陣のキーマン・遠藤保仁(G大阪)の育成環境を探るため、鹿児島県桜島(現鹿児島市)を訪れた。

遠藤は3兄弟の末っ子で、次男の彰弘氏はご存知の通り、横浜F・マリノスやヴィッセル神戸で長年、活躍していた。その彰弘氏に聞くと「桜島はもともとサッカーに熱心に取り組んでいて、優れた選手が何人も出ている」という。確かに帝京時代に高校選手権で一世を風靡した川添孝一氏(現解説者、ゼルビア町田スーパーバイザー)や藤山竜仁(FC東京)、遠藤兄弟、今年正月の高校選手権で活躍した鹿児島城西のMF大迫希(熊本)ら、何人かトップ選手が出ている。

その桜島だが、2004年に鹿児島市に編入されたものの、島自体の人口は4700人強しかいない。市内への移動はフェリーに乗らねばならず、移動の便は決してよくない。サッカー環境にしてもグランドは何ヶ所かあるが、火山灰土で地盤は安定していない。天然芝ピッチも1つしかない。Jリーグの下部組織は人工芝でプレーするのが一般的なのに、桜島の少年たちは相変わらず土のグランドでボールを蹴っている。そんな土地柄からタレントが出てくる秘密はどこにあるのか。

その問いに答えてくれたのが、桜島中サッカー部監督の藤崎信也さん。遠藤3兄弟の小学生時代を教えた指導者だ。同氏はJA職員でプロコーチではない。ボランティアで30年以上もサッカーを教えているという。

「桜島は鹿児島県で前園(真聖=現解説者)の出身地・東郷町と並んで少年サッカーの歴史が古い町。昭和44年(1969年)に2つの小学校に少年団ができました。もともと子供の数が少ないので、男の子はサッカー、女の子はバレーボールしかチームを作れなかった。男子は小学3年になるとサッカー少年団に入るのが常。平日は毎日練習で、土日は試合。そんな生活をヤット兄弟も送っていました」

遠藤保仁の場合、6つ年上の長男と4つ年上の次男・彰弘がいたため、少年団に入る以前、物心ついた頃から自宅の庭で朝からボールを蹴っていた。しかも藤崎氏らが持ってきた高校選手権やワールドカップのビデオを擦り切れるほど見ては試合展開まで暗記し、気に入ったプレーをひたすら真似していたという。「おじさん、もうじきこの選手が点を取るよ」と幼い頃の遠藤が得意そうに話す姿を藤崎さんは鮮明に覚えているそうだ。彼の豊富なプレーのイメージ、攻撃面の創造性は2人の兄、ビデオテープ、そして少年団を通じて育ったのである。

少年団のトレーニングはボールを止める・蹴るの基本中心だったが、走りなどフィジカルを鍛える内容も多かった。彰弘氏も「普通の少年サッカーより相当厳しかったと思う。メチャメチャ走らされたのをよく覚えている」と語っていたが、藤崎さんは子供のうちから厳しさを教えることも大事だと強調する。

「あの頃はまだプロもなかったので『いい選手』になる前に『いい社会人』になってほしかった。今は当時より走りの量は少ないと思いますが、苦しい経験をさせることはその後の成長につながると思います」と。

桜島は小さな町だけに、地域社会の結びつきも非常に強い。親や近隣住民たちも少年団の活動を親身にサポートした。遠藤の父・武義さんも「我々大人が子供と一緒に町のマイクロバスに乗って試合会場まで行って応援し、帰ってからも反省会をするような熱の入れようでした。少年団が全国大会に出たりすれば、町も費用の負担を惜しまなかった。小さな町だからこそできたことだと思います」と話していた。

古きよき日本の地域社会で育った子供は自然と逞しくなり、自分でいろんなことを考えられるようになる。マイペースで自立心旺盛な遠藤保仁を見ていると、この環境がどれだけプラスに作用したかよくわかる。もはや日本の都会では失われてしまった和気あいあいとした環境を求めて、今では桜島中にサッカー留学してくる県内外の子供もいるほどだ。

鹿児島のいいところは、暖かい人々と大自然の中でじっくり育った子供たちをさらに大きく育てる強豪高校があること。遠藤3兄弟を出した鹿児島実業を筆頭に、大迫勇也(鹿島)を輩出した鹿児島城西、内山俊彦(神戸)らを出したれいめいなど、全国レベルの高校が複数ある。小中学校の指導者と連携しながら子供をしっかりとケアできるのだ。藤崎氏も鹿児島実業の松澤隆司総監督と密にコンタクトしており、選手に何か問題が起きたら確実にフォローする態勢を整えている。これは大きなメリットといえる。

今や将来を嘱望されるタレントの多くがJリーグの下部組織へ行く。確かにJクラブは環境も整い、寮があり、指導者もスタッフも揃い、サッカー中心の生活ができるよう完璧なまでの配慮がなされている。が、恵まれすぎたところから研ぎ澄まされた選手は出てこない。田舎町からスケールの大きな選手に育った遠藤を見て、日本の育成システムを再考する必要があるのではないかと改めて痛感させられた。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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