J1の優勝争いが佳境を迎えているが、そんな最中に沖縄へ飛んだ。23日の日本フットボールリーグ(JFL)・FC琉球対流通経済大学戦を見るためだ。

FC琉球といえば、かつて日本代表を率いたフィリップ・トルシエ氏が総監督を務めるクラブ。選手の顔ぶれを見ても、96年アトランタ五輪代表だった白井博幸、元日本代表の山下芳輝や清水エスパルスで活躍した平松康平といった実績ある選手もいる。ところが今季2試合を残す時点での順位は16位。最近は5連敗中で、ホームでは1つの引き分けを挟んで8敗を喫しているという。目標にしていた10位とは程遠い。彼らは「5年以内にJ1昇格」というテーマ設定をしていたが、現状ではJFL残留が精一杯という状況なのである。

そもそも、なぜトルシエは沖縄、しかも3部リーグのチームにやってきたのか。トルシエ自身、2002年の後はカタール代表、モロッコ代表、マルセイユなどで指揮を執ったが失敗。ここ2年間はモロッコで家族と穏やかな生活を送っていた。そういう環境の変化もあり、現場一辺倒だった過去20年間とは違ったサッカーへの関わり方を求めていたようだ。FC琉球なら、下に自分の意思を伝える監督を置き、自分は総監督としてクラブ全体を統括することができる。何もないところからチームを作っていくことにも魅力を感じたという。

ところが、野心と情熱を持って赴いた沖縄という土地にサッカー文化は根づいていなかった。それどころか、決まった練習場もスタジアムもない。今でこそ那覇から南へ10数キロ行った東風平という場所に専用練習場を持つことができたが、当初はロッカールームもシャワーもない日替わり練習場を行き来した。スタジアムに関しても沖縄市営、沖縄県営、北谷と3つの競技場を使っている。流経戦の行われた北谷にしても、メインスタンドにイスが設置されているだけで、ゴール裏もバックスタンドも芝生席。隣はビーチでバカンス気分になってしまう。「スタジアムはエネルギーを集約する舞台。巨人の名打者でものんびりとした野原で午後3時開始の試合をしたら空振りしてしまう。それだけ競技場というのはスポーツ選手にとって大切なところ」とトルシエは言う。その本拠地が確立されていないことは大きかった。

彼の総監督という立場も選手への混乱を招いたようだ。彼自身は年間100日程度しか日本に滞在せず、同じフランス人のジャン・ポール・ラビエ監督が指揮を執った。トルシエは自分は練習の80%を考えてラビエ監督にやらせたというが、いくら練習メニューが同じでも、選手の力を十分に引き出せるとは限らない。「前期が終わり、後期がこれから本格的に始まろうかという肝心な時にトルシエがいなくなってしまった。戦術も当初のフラット3から4バックへと変わり、また3枚に戻ったりとコロコロ変化。夏場に大崩れした。トルシエはラインを上げろというけど、ちゃんとしたフィジカル強化をやっていなくて、夏場の強烈な暑さにスタミナが持たない。自分もかなりトルシエとは意見を言いあったけど、状況はなかなか好転しなかった」と前期にキャプテンを務めていた三好拓児は残念そうに語る。

シドニー五輪代表候補としてトルシエに師事した山下芳輝も「五輪やA代表の時はいい選手が集まっていて、トルシエのやりたいことをみんなすぐに理解した。琉球でも彼は当時と同じように顔を真っ赤にして指導していたけど、やっぱりレベルが低いし、どうしても時間がかかる。最初はフラット3をやろうとしてたけど、途中で諦めて、方向性があやふやになった。トルシエが言いたいことをラビエ監督も100%は伝えられないし、スタッフ同士も混乱があったのかな。試合内容もよくなくて、快勝した試合もほとんどなかった。僕自身も混乱と戸惑いのシーズンでした」と悔やんだ。

トルシエも「私が来たことで、外からの目線が選手に行かず、トルシエのチームということになってしまう。選手の中には『トルシエに相応しいレベルではない』との萎縮した思いが生まれ、悪循環に陥る者もいたと思う。選手たちやチームに価値を与えるような作業が必要だと思う」と反省を口にする。どうやらラビエ監督の続投はなく、来季は新たな陣容で再挑戦することになりそうだが、ハード・ソフト両面でJリーグ昇格への道は険しそうだ。それでも沖縄はユース年代以下のサッカーが盛んで、優れたタレントが次々と頭角を現している。ラテン風の気質もサッカーにはいい影響を与えるだろう。この地域のポテンシャルを最大限生かせるかどうか。それが今後の「トルシエ革命」の成否を左右するだろう。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。