来週末から始まる、FIFA U−20ワールドカップアジア予選を兼ねたAFC U−19選手権(サウジアラビア)のメンバーが20日、日本サッカー協会から発表された。すでにA代表に入っている香川真司(C大阪)の選出はサプライズだったが、金崎夢生(大分)の選考漏れという、もう1つの驚きもあった。

金崎は今回のユース代表発足時から中心的存在だった。昨年11月の1次予選(タイ)では、Jリーグ出場のために途中離脱した香川に代わって攻撃面でチームを牽引。その創造性とスケールの大きさは頭抜けていた。牧内辰也監督は、圧倒的な運動量を誇る水沼宏太(横浜)や特別なゴールへの嗅覚を持つ柿谷曜一朗(C大阪)、視野の広さとワイドな展開力で攻撃を組み立てる山本康裕(磐田)とともに「チームの骨格」と考え、最終予選へ向けて強化していこうとしていたはずだ。

ところが、金崎が今季から大分トリニータでレギュラーの座をつかんだことで、牧内監督のシナリオは崩れてしまう。彼をユース代表合宿に呼ぶことも叶わず、今年1年間で召集できたのは9月の仙台カップと10月の十日町合宿の2回だけ。仙台カップの時は浦和レッズとの大一番を控えるシャムスカ監督の強い意向からか「コンディション不良」という名目でチームに戻ることになった。10月の時はフルに練習参加できたが、流通経済大との練習試合で彼は控え組に回っていた。牧内監督はブランクが長いことから、「少し時間をかけて他選手とのコンビを熟成させ、本番では先発起用しよう」と考えていたようだ。

だが、その思惑は外れてしまう。日本協会と大分との話し合いの結果、金崎は11月1日のJリーグヤマザキナビスコカップ決勝優先という方向に決まったからだ。大分の溝畑宏社長は「決勝には鈴木慎吾が出場停止で出られないし、金崎もいなくなったら戦力的に厳しい。若い彼には大舞台を経験させてやりたい」と前々から言っていた。それだけに大分関係者やサポーターにとっては非常にうれしいニュースだったに違いない。金崎本人は「与えられた場所で頑張る」としかコメントしていない。タイトルのかかるビッグマッチに出場できるのが嬉しい反面、アジア突破のかかる大会に参加できない悔しさも入り混じる…。それが、正直な心境ではないだろうか。

欧州の常識で言えば、クラブのタイトルがかかった試合と年代別代表の大会が重なった場合、前者を優先するのが当然だろう。しかし、これまでの日本では「代表優先」が普通だった。2年前にナビスコとアジアユースが重なった内田篤人(鹿島)も、代表としてインドで予選を戦っている。吉田靖監督率いるユース代表があと一歩でアジア王者になれそうだったのも、内田がいたから。逆に彼を欠いた鹿島はジェフ千葉に敗れた。クラブとしては納得できないだろう。そんなこともあって、最近はクラブの意向が優先されるケースが増えてきた。今夏の北京五輪のオーバーエイジ枠使用を巡る大久保嘉人(神戸)の招集拒否、今回の金崎のチーム残留はその典型例といえる。

だが、選手個人の飛躍を考えた時、つねにクラブ優先でいいのかという疑問も残る。大久保は2004年アテネ五輪やスペイン挑戦の悔しさを晴らすため、もう1度世界舞台に立ちたいと希望していた。金崎自身も「アジアでギリギリの勝負をしたい」と熱望する部分はあっただろう。アジアユースは彼の人生で1回しかない。しかも今回は強豪のサウジアラビア、イラン、ここへきて急激に力をつけてきているイエメンと同組。ここで2位以内に入らなければならず、2位通過の場合は韓国との対戦になることが濃厚だ。そこで勝って、初めて来年のU−20ワールドカップ(エジプト)の出場権を得られる。若い選手は重圧のかかった状況で戦ってタフになる。その経験ができないことはやはりマイナスだ。

それに万が一、今回の牧内ジャパンがアジアで敗退してしまったら、彼らの世代は世界大会を経験できないことになる。中田英寿(引退)や中村俊輔(セルティック)、小野伸二(ボーフム)らが世界である程度の成功を収めたのも、10代のうちからタフな国際経験を積み重ねてきたから。その機会を自分が参加できないまま失ってしまうとしたら、金崎自身も不満だろう。日本サッカー界としても大きなダメージだ。

将来性のある選手にクラブと代表のどちらを優先させるかは、この先もケースバイケースで考えていくしかない。が、今の日本協会はクラブと十分に話し合いを重ねていないようだ。協力関係構築の努力も不足している。大久保や金崎の件をしっかりと検証し、今後どうするかを考えていく必要があるだろう。いずれにしても、今回は「金崎はクラブ優先」という結論に至った。であれば、大分はタイトル獲得に全力を注ぎ、牧内ジャパンも彼抜きでアジアを突破する。その両方が重要だ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。