(c)Yuzuru SUNADA
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3週間の長旅が終わった。午前中はあいにくの雨に見舞われたが、選手たちがスタート地に到着する頃にはお日様が顔をあらわした。金色のジャージをまとい、金色のバイクにまたがるアルベルト・コンタドール(アスタナ)は、母国スペインの陽光に照らされてキラキラと輝いていた。

ブエルタ開催委員会が本拠地を置くサン・セバスチャン・デ・ロス・レイスの町から、プロトンは102.2kmの短い最終ステージに乗り出していく。もちろんグランツール最終日のコース序盤は恒例のサイクリングタイム。写真撮影をしたり、互いの健闘を讃えあったり、時速30kmほどでのんびりと最後のときを楽しんだ。

ただひとり、序盤からのんびり出来なかったのがグレッグ・ヴァンアーベルマート(サイレンス・ロット)。実は第20ステージ終了時点でポイント賞首位に立ってはいたが、2位コンタドールとの差はわずか5ポイントしかなかったのだ。しかもゴール前で恐ろしい動きを見せる可能性がある3位アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)との差も13ポイントのみ。最終日には最大33ポイント獲得できるため、グランツール初出場の23歳は最後まで気を抜けなかった。23km地点に設置された第1中間スプリント地点ではチームメイトと共に予想通り飛び出して、無事に1位通過4ポイントを手に入れている。

再び静かになったプロトンは、スタートから2時間後、ついに最終ゴール地のマドリードに入場した。21日前は171人でグラナダをスタートしたが、マドリードに帰ってきたのは131人。アスタナ、アージェードゥゼール・ラ・モンディアル、ケースデパーニュの3チームが、9人全員が無事に完走を果たした。そしてマイヨ・オロ擁するアスタナが先頭に立って1回目のゴールラインを通過すると、直後にバレリオ・アニョーリ(リクイガス)、エマヌエーレ・ビンディ(ランプレ)、そして第2ステージで今大会最初のアタックを決めたヘスス・ロセンド(アンダルシア・カハスール)の3選手が飛び出していく。

マドリード市街地サーキットは、8回目のゴールライン通過が正真正銘の最終フィニッシュに定められている。3選手はすぐに後続に30秒ほどリードを広げると、5周回目まではマドリードの美しき大通りを順調に先頭で駆け抜けた。ただし後方ではスプリント勝利に持ち込みたいコフィディスやエウスカルテル、クレディアグリコルが強烈な引きを行い、そこにチーム CSCやチーム ミルラムが加わると、6回目のゴールライン通過直後に3選手は吸収されていった。また合流と同時にホセ・ルイス(アンダルシア・カハスール)が最後の挑戦を試みたが、極度に加速した集団にすぐに飲み込まれた。

ところが今年のプロトンは、無問題のまま幸せな大集団ゴールスプリントに突入することは出来なかった。すでにヴァンアーベルマートが周回コースで軽い落車の犠牲となっていたが、ゴール前2km地点で集団落車が発生。さらに直後にもうひとつ集団落車が起こる。3選手が救急車で搬送され、ゴール地では数人の痛々しい姿が見られた。幸いにもゴール前3km以内でのアクシデントだったため、地面にたたきつけられた選手や後方でブレーキをかけざるを得なかった選手たち全員に、もちろん救急車で搬送された3選手にも、区間優勝者と同タイムが与えられている。

そして少々不ぞろいな大会最後のスプリントを、マッティ・ブレシェル(チーム CSC サクソバンク)が制する。第17ステージの大集団ゴールでは区間2位で涙を飲んだが、待望のグランツール初勝利で笑顔でブエルタを締めくくった。またヴァンアーベルマートは区間5位に入り12ポイントをさらに計上すると、無事にポイント賞ジャージを守りきった。

集団落車で少し脚を止められたコンタドールは、50位で静かに8回目のゴールラインを通過。その瞬間、コンタドールのブエルタ総合優勝と共に、史上5人目の3大ツール全制覇が決定した。表彰式ではマイヨ・オロと通常の優勝トロフィーの他に、3大ツールを意味する3つの輪を模った特別なトロフィーが授与された。コンタドールに内緒で用意されたこの“サプライズ”トロフィーには、ジャック・アンクティル、エディ・メルクス、フェリーチェ・ジモンディ、ベルナール・イノーの名前と共に、コンタドールの名前が刻まれていたという。2007年ツール・ド・フランスで総合優勝を果たしてからわずか14ヶ月。25歳の若者は猛スピードで自転車ロードレース界の歴史に名前を刻んだことになる。

表彰台の2番目の位置にはアスタナのチームメイト、リーヴァイ・ライプハイマーが立ち、表彰式に駆けつけたスペインのカザフスタン大使を大いに喜ばせた。また今年のツールを制したカルロス・サストレ(チーム CSC サクソバンク)が総合3位。山岳賞のダヴィ・モンクティエ(コフィディス・ル クレディ パール テレフォン)とポイント賞のヴァンアーベルマートも総合トップ3選手と共に記念写真に納まり、全ての勝者に惜しみない拍手が贈られた。

ジロ=コンタドール、ツール=サストレ、ブエルタ=コンタドールとスペイン勢の独占で彩られた2008年グランツールの戦いも幕を閉じた。2009年もスペインの独占が続くのか。ランス・アームストロングの復帰で、再びプロトン内の勢力図は大きく変化するのかもしれない。


●アルベルト・コンタドール(アスタナ)
総合優勝 マイヨ・オロ

大会中は自分が一体どの程度やれるのか、わからない時だってあった。特にレース前半、最初のタイムトライアルでは自分がどんな調子なのかよくわからなかったし、アンドラの山岳ステージも同じだった。でも大会が進んでいくうちに、1日1日が過ぎて行くうちに、この先の走りがはっきりと見えてきた。レース終盤には全てが上手くいった。

シーズンが始まった時はツールで再び総合優勝にトライしようと思っていたんだ。けれどみなさんもご存知のように、今季はスケジュールを変更する必要に迫られた。そしてジロに出場することになり、思いもかけず総合優勝を手に入れた。ブエルタに関しては、2月に出場が決まってから、ずっと総合優勝への期待やプレッシャーを感じてきた。

3つの勝利はボクにとって、それぞれに大切なもの。去年のツール総合優勝は、ボクの人生を180度変えた。今年のジロは苦しみ、我慢した末に手にした勝利だ。でもスタート時から、イタリアのファンたちが信じられないような歓迎をしてくれたね。ブエルタでは自分の家にいるような気分を味わった。沿道にも大勢の人が来てくれた。こんなにたくさんの人がブエルタを応援してくれたのは久しぶりなんじゃないかと思う。本当にステキなことだね。だから3つの勝利はそれぞれに大切なものなんだ。そして3つのグランツールを勝ち取った特別な選手の1人になれたなんて、ボクにとってとんでもない栄誉だよ。でも実際は、一体何が起こったのかよく理解できていないんだ。唯一確かなことは、この記録はボクの生涯を通して語られるものになるだろうということ。

この先はあらゆる大会で、ボクは「倒すべき男」として標的にされるだろう。でもこれは当然のことだし、悩んだりもしない。どんな大会でも優勝するのが難しいことはわかっているから、もしも勝てなくても何の問題もないんだ。次回に再び努力するだけさ。

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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。