(c)Yuzuru SUNADA
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アルプス第1日目は、雨がドラマチックな展開を作り上げた。いわゆるドラマチック=劇的はもちろん、ツールの母国語フランス語で言うところのドラマチック=悲劇的も含まれる。土砂降りの雨の中で飛び出したエスケープ4人、雨に濡れた九十九折の坂道で激しい落車の犠牲者となったオスカル・ペレイロ(ケースデパーニュ)、まるでアイスリンク状態となったロータリーでの大集団落車、最後の登りで飛び出しを仕掛けながら滑って転んでしまったデニス・メンショフ(ラボバンク)。そして小雨降る中、区間勝利とマイヨ・ジョーヌに向かって山道を登り続けた選手たち・・・。2回目の休養日を翌日に控え、2008年ツールは大きく動いた。

前が見えないほどの大雨の中、12km地点で飛び出したのはサイモン・ジェラン(クレディアグリコル)、エゴイ・マルチネスデエステバン(エウスカルテル)、ホセルイス・アリエッタ(アージェードゥゼール)、ダニー・ペイト(チーム ガーミン)の4選手。危険な落車が相次いだプロトンが追走スピードを緩めたため、一時は17分という大量のタイム差をつけた。

しかも最終峠プラート・ネヴォーゾへの登り口でも約11分のリードを保っていた4人は、残り8km地点でステージ優勝に向けての勝負を開始。逃げ集団で最も山を得意とするマルチネスデエステバンがアタックをかけると、アリエッタが最初に脱落した。千切れそうで千切れない、しかもスプリント勝負に持ち込んだら手ごわいジェランを決定的に引き離そうと、ペイトも加速を試みる。しかし小柄な元オートバイレーサーは、山岳で巡ってきた稀なチャンスを手放そうとはしなかった。

そして3人でたどり着いたゴール前。苦しみながら登りに耐えてきたジェランがたった一度強くペダルを踏み込むと、あっさり勝敗は決した。未だスポンサーを探し続けているクレディアグリコルにとって、第2ステージのトル・フースホフトに続く大切な2勝目をジェランがもたらした。

はるか後方のプロトンでは、最終山岳突入前、チーム CSCがまるでチームタイムトライアルであるかのような驚異的な走りを見せていた。集団は細長くなり、分断し、登りでわずか10人のグループが出来上がるのにはそう時間がかからなかった。しかもチーム CSCはこの10人のメイン集団にアンディとフランクのシュレク兄弟、カルロス・サストレの3人を送り込み、ライバルたちの動きをコントロール。アンディとサストレは交互に恐ろしい加速を繰り返し、一方のフランクはマイヨ・ジョーヌ姿のカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)にぴたりと張り付いて目を離さない作戦に出た。もちろんメンショフが単独アタックを見せたときも、アンディがすかさずつぶしにかかった。・・・ただし飛び出した直後にメンショフはカーブで落車してしまい、この時の集団はすぐにニュートラルな状態に戻っている。

そして残り3kmを切った時点で、サストレがついに決定的なアタックを決めた。波状攻撃に疲れたメイン集団内で、すぐに反応できたのはベルンハート・コール(ゲロルシュタイナー)とメンショフだけ。アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)もしばらく後ろから追いかけたが、エヴァンスはここで遅れを喫してしまう。首位から1秒差のフランク・シュレクは「コールは危険な存在だったけれど、全員を追いかけることなんて不可能だ」と、あえてエヴァンスと共に後ろに留まった。

つまり今ステージ後に山岳ジャージをチームメイトのラングから譲り受ける予定のコールに、途端にマイヨ・ジョーヌの可能性が浮かび上がる。前日までの総合成績は、首位からわずか46秒遅れの4位。エヴァンスから最大限のタイム差を奪い、クレディアグリコル同様スポンサー探しに難航しているチームに今ツール2回目のマイヨ・ジョーヌをもたらすために、コールは渾身の力を振り絞った。メンショフもバルベルデも引き離し、エスケープの4人に続く区間5位ゴール。ただしサストレはコールの背後にピタリと張り付いて、冷静に区間6位でゴールラインを越えた。

マイヨ・ジョーヌ、いや、愛するプティ・リオン(総合首位に贈られるライオンのぬいぐるみ)を手放したくないエヴァンスは、小雨降る峠で必死の追走を行う。もちろんフランク・シュレクは、全く追走には手を貸さない。そして散々ライバルに力を使わせた後、フランクは残り1kmを切った後に急激な加速をすると、エヴァンスを区間では9秒、総合では8秒上回ることに成功。自身初の、そして欧州の小国ルクセンブルクにとっては今ツール2人目のマイヨ・ジョーヌを手に入れた。文字通り全精力を使い果たしたコールは、7秒届かず総合2位に終わっている。

1分以内、正確に言えば49秒以内に総合上位6選手がひしめく大混乱を引き起こした今ステージ後、ツール一行はイタリアのクネオで休養日を迎える。チーム全体で作戦を成功させたチーム CSCは、前回の休養日にロックスター顔負けの記者会見を行ったエヴァンスは、果たしてどんな休暇を過ごすのだろうか。また冷たい雨にたたられたアニェル峠の下りヘアピンカーブで道から飛び出し、約5m下の道路に激しく叩きつけられた2006年ツール勝者ペレイロは休養日を待たずにツールを離れた。


●サイモン・ジェラン(クレディアグリコル)
ステージ優勝

最後までマルチネスとペイトについていけたことを誇らしく思うよ。彼らはボクなんかよりはるかに優れたクライマーだから。ボクは1日中、とにかく彼らにしがみ付いた。特に最後の峠では、ゴール前の500mを粘り強く待った。自分のチャンスを試したかったんだ。もちろん最後まで粘っても勝てるかどうか定かではなかったけれどね。

世界最大のレースで区間勝利を挙げられるなんて、なんて幸せなんだろう!今現在、ボクの周りに起こっていることを理解するためには、時々頬をつねってみる必要がありそうだよ。本当にファンタスティックだ。ボクはエヴァンスのツール総合優勝を願っている。オーストラリアの自転車界にとっても素晴らしい出来事になるだろうからね。それにエヴァンスのおかげで、今ツールの沿道にはいつも以上にたくさんのオージーファンが詰め掛けているよ。


●フランク・シュレク(チーム CSC)
マイヨ・ジョーヌ

これまでは1秒差でマイヨ・ジョーヌに手が届かなかったけれど、今日はわずかなタイム差でボクのものになった。弟アンディがライバルたちを苦しめてくれたおかげで、最後の登りは非常にハードで、非常に速い戦いになったね。彼は今日とんでもない仕事を成し遂げたよ。彼なしではこの作戦は成功しなかっただろう。サストレが登り開始直後からアタックし、アンディが速いテンポを保ってくれた。サストレは最後にアタックして総合順位を上昇させ、そしてボクがマイヨ・ジョーヌを獲った。チームにとっては素晴らしい快挙だよ。スタート前に作戦を練っていた通りに物事が進んだ。

雨のスタート地から、いい感触を抱いていた。最後の峠でアンディが速いテンポで登ったとき、エヴァンスが背後に潜んでいることは分かっていた。だから辛抱強く走る必要があった。ボクだって他の選手同様に苦しんだよ。最後の3kmでサストレがアタックを仕掛けたとき、ボクはついていかなかった。コールとメンショフを行かせるのは危険だと分かっていたけれど、ボクは人間でありマシーンではないからね!全員をコントロールすることなんて不可能なんだ。

今はマイヨ・ジョーヌを勝ち取った喜びを味わいたい。今後はもちろんチーム全体でマイヨを守りに行く。ライバルとのタイム差をまだまだ広げる必要があることは分かってる。でも今は少しマイヨを堪能させて欲しいんだ。


●アンディ・シュレク(チーム CSC)

最後の数キロはフランクの後ろにいて、彼に「今アタックしろ!今だ!」と言い続けた。そしてフランクがマイヨ・ジョーヌを勝ち取った。最高の快挙だね。やっとボクらのツールが始まるよ!メンショフは非常に好調だったし、優勝争いで危険な選手となるだろう。まだ厳しいステージは残っているけれど、メンショフのチームにはあまり山岳アシストがいない。対する我々のチームには2枚の切り札、サストレとフランクがいる。個人的にもボクの調子の良いことが見せられたね。今後は区間優勝だって考えるさ。

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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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