だいぶ前にワールドカップの戦い方を論じる座談会番組に出演したときに、「2戦目のオランダ戦で勝点を奪うことは難しいから、3戦目に向けて主力を休ませるべきだ」という意見をまことしやかに言う専門家が何人かいた。「まあ、それはそうだが、それはカメルーンに勝ったときにだけ言えることだろう」と思っていたが、まさにカメルーンに勝って勝点3を確保した現在、実際にオランダ戦でどういう戦い方をするかというのが現実的な課題となってきた。
オランダは、デンマークの守備に苦しみはしたが、パスのスピードと正確性、あるいは、ボールを奪うための素早い集散など、さすが優勝候補と言えるだけの試合ぶりだった。やはり、どう考えても日本が勝てる可能性は10%以下、引き分けの可能性が20%といった相手である。その合計30%の可能性のために全力で戦って、体力を消耗し、肝心の2位争いのデンマーク戦で力を発揮できなくなってしまうより、オランダ戦は捨ててデンマークに備えるべきだということ。つまり、オランダ戦は捨てゲームにするというのが、この考え方だ。
初戦のカメルーン戦と3戦目のデンマーク戦が1500メートルの高地なのに、その間のオランダ戦は海抜0メートルの低地での試合。しかも、カメルーン戦が16時キックオフ、デンマーク戦が20時30分キックオフであるのに対してオランダ戦が13時30分開始というのもコンディション維持を難しくする。だからこそ、デンマーク戦の主力は20時30分開始の高地での試合にそなえて、コンディション調整するほうが得策ということになる。これを「プランA」としておこう。
もっとも、せっかくまとまりと勢いが出てきたチーム状態を考えると、ここで下手にメンバーをいじりたくないという考え方もできるだろう。あるいは、最高のコンディションでデンマークと戦っても勝点を奪えるという保証はなく、逆にオランダ相手でも勝てる可能性があるのなら、オランダに全力で挑むべきという考え方もできる。その場合も、2つの極端な戦い方が考えられる。
オランダに勝てる可能性が低いのだとすれば、徹底して守備を固めて勝点1の確保を目指す現実主義的な「プランB」。そして、逆にどうせ可能性が低いのであれば、思い切り冒険をして、「高い位置からプレッシャーをかけて速攻」という、このチームの本来のコンセプト(?)に忠実に攻撃的に戦ってみるという考え方「プランC」だ。日本の、攻撃好きのメディアには、もちろん最後の「プランC」が好評を博するだろうが、オランダと攻め合いを演じて勝てる可能性はほとんどないのだから、これはどう考えても得策とは思えない。
僕には、主力を休ませてデンマーク戦に備える「プランA」か、あるいはオランダから勝点1の確保を目指す守備的な戦い方「プランB」が現実的な選択のような気がする(もちろん、日本は「引いて守る」守り方はできないのだ。高い位置からプレッシャーをかけて、徹底してボールを追い回して守るべきだろうが)。日本のカメルーン戦の勝利は、まさにリアリズムに徹し、勝点3を奪うために、冷徹に計算した試合運びを実践したものだった。
高地での体力の消耗を考えて90分走り回ることは諦め、守備では前から相手ボールを追い回す場面と引いてブロックを作る場面を意識的に使い分けたし、攻撃でもボールを奪ってチャンスがあるときは、もちろんパスをつないで早いタイミングで仕掛ける攻撃をかけるが、それが難しい状況では相手の守備を押し下げるロングボールを蹴り込む場面も多かった(高地対策の巧拙で、ロングボールは日本の方が正確性が高かった)。
昨年秋のオランダ戦では、日本代表は前半から相手を追い回す守備をして最後の30分は息切れしてしまった。また、押し込まれた場面でボールを奪っても、すぐに無理な攻撃をしかけて再びボールを奪われてしまった。ゲーム展開を読んで戦うことができなかった。そして、岡田監督までも「90分間あれを続けられなければ……」と、非現実的なコメントを残したのだ。僕は、岡田武史という人は現実主義的な考え方をする人だと思っていたので、「岡田監督がおかしくなってしまったのか」と心配になった。だが、実際には岡田監督は論理的で、現実的な考え方をしていたようで、大会直前には選手の人選もフォーメーションもより守備に力点を置いたものに変更した。
そして、カメルーンを相手に日本は計算し尽くした試合をして勝点3を奪った。
カメルーンは中央の若いMF陣がゲームを作れず、頼みは両サイドからの攻めだったが、日本はエトーのいる(日本から見て)左サイドは長友と大久保が守備に走り回り、一方、右サイドは阿部、長谷部、松井などがパスをつないで突破できる回数は少ないとしても、カメルーンに守備をさせる機会を増やした。そして、体力消耗を避ける戦い方をした結果として、最後まで足が止まることもなく、岡崎、矢野、稲本という順に交代のカードを使って、最後まで攻守のバランスを崩すことなく、1点を守りきることに成功した。
オシム前監督なら、「考えながら走れるようになった」と誉めるのではないか。
リアリズムに徹した、計算づくの勝利……。日本のサッカーの歴史の中で、こういう戦い方ができたことはなかったのではないか。1つの試合でこういうリアリズムに徹した戦い方ができたのなら、3試合を通じても、決勝トーナメント進出の可能性を少しでも高めるために、やはりリアリズムに徹して戦ってもらいたいものだ。初戦で勝点3を奪った日本代表は、次のオランダ戦でどんな戦い方でもできる自由な立場に立ったのだ。岡田監督の選択に注目したい。
後藤 健生 06月16日12:11
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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