ワールドカップ直前の親善試合で勝てなくなってしまった日本代表である。もっとも、初戦の相手のカメルーンもさっぱり勝てていないようだし、フランスは中国に負けてしまうし、この時期の試合結果を眺めていると、まるでオランダの一人勝ちのようだ。もっとも、こんな時期にピークが来てしまったわけで、オランダの方が心配のような気もする。
さて、日本代表の迷走は、この時期に来て、岡田監督が今までと違うやり方を持ち込んだことによるものだ。
セントラルMF(日本で言うところの「ボランチ」)の一角に阿部勇樹や稲本潤一といった守備の強い選手を起用したこと。そして、サイドバックに、やはり守備の強い今野泰幸を入れたこと。つまり、これまでより守備を重視する方向に方針を転換したのだ。
当然の選択だと思う。アジア相手の試合ならば、センターバックの中澤佑二と闘莉王に任せてよかった中央の守備だが、世界レベルの強豪相手にそれでは通用するはずがない。最終ラインの前に守備の強い選手を置いてストッパーと挟み込んで守るか、あるいはスリーバックに変えるしかないのは当然のことである。サイドバックについても同じこと。岡田監督が抜擢した内田篤人は急成長し、攻撃面ではきわめて魅力的な選手である。だが、守備力という意味では、カメルーンやオランダの強力なサイド攻撃を受け止めるには不十分だ。
しかし、そんなことは、最初から分かっていたはずだ。僕は、アジア予選勝ち抜きが決まった直後から、再三、あちこちのメディアで稲本のアンカー起用を提言し続けてきた。サイドバックについても、加地亮の復帰、徳永悠平の抜擢など、守備の強いサイドバックを入れる必要性について言及してきた。
そして、「そんなことは岡田監督だって、当然、承知している」とばかり思っていた。
昨年9月のオランダ戦では、今までのやり方を貫き通し、しかも、後半動きが落ちて3失点して敗れたときも、「前半のように90分間走りぬく」と岡田監督は言っていた。だが、僕は、それは従来通りのやり方を貫いたが、それは、「今までの戦い方では通用しない」ということを、選手やメディアに対して明らかにするためであって、次の機会には修正を図るものだとばかり思っていた。実際、11月の南アフリカ戦では稲本のアンカーを試している(「中盤の選手が足りないからだ」という説明だったが)。そして、今年に入ってからの試合でも、試合の途中から稲本をアンカーに置くことを繰り返していた。
だが、岡田監督はとうとうワールドカップ直前になるまで、チームの方向性を守備に切り替える手を打たないままだった。今から思うと、岡田監督は、本気でアジア予選を戦ったやり方を貫くことでワールドカップでも通用すると信じていたような気もしてくる。そして、何がきっかけになったのか分からないが、直前の5月の親善試合で岡田監督は急に大きく方針を転換。チームの方向転換によって選手たちも混乱したまま、ワールドカップに突入してしまいそうな状況に追い込まれたのだ。
いったい、岡田監督は何を考えていたのだろうか?
ひとつの問題は、アジア予選突破を決めてから、本当に強い相手との試合がほとんどなかったことだ。9月のオランダ遠征でオランダとガーナと戦って以来、世界的な強豪との試合は先日のイングランド戦までなかったのだ。もっと早い段階、つまり昨年の秋の段階でイングランドやコートジボワールのような相手と戦っていれば、その時期に方向転換ができていたはずだ。香港やバーレーンなんかと試合しているヒマはなかったのではないか!日本サッカー協会のマッチメークのまずさのせいである。アジアカップ予選などは、サブのメンバーで戦っておけばよかったのだ。
いずれにしても、岡田監督の「夢」がようやくこの時期になって覚めたわけだ。
まあ、「夢」を見たままワールドカップに突入して、惨敗を喫するよりは良かったのかもしれないが……。もっとも、この時期にチーム全体が悩みを共有することは、必ずしも悪いことではないのかもしれない。もちろん、それは、開幕までに「答え」が見つかった場合の話なのだが、大会直前にすべての選手がチームのことを必死で考えたことは、大きなプラスになる可能性もある。
2002年大会のトルシエ監督のチームは、前年の秋のイタリア戦あたりで完成に近づいていた。2002年に入ってからは、チーム作りに新しい側面がなくなり、マンネリの中で本大会を迎えた。そして、初戦のベルギー戦で、トルシエの指示通りにラインを上げようとして失点したことから、DF陣の間で真剣な話し合いが行われて、方針を微調整して結果に結びつけたわけだ。2006年のジーコ監督のチームも、選手起用が固定化され、さらにひどいマンネリの中でワールドカップを迎えた。その点、今年の岡田監督のチームは、チームが混乱し、悩みを抱えたままの大会突入になる。それは、マンネリを防ぐ効果があるかもしれない。
岡田監督が、そこまで読みきって、この時期に方針を転換して、わざと選手たちを混乱させたのだとしたら、岡田監督はとんでもない天才監督ということになるのだが……。
後藤 健生 06月07日11:32
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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