清々しい晴天に恵まれた2010年元日に東京・国立競技場で行われた第89回天皇杯決勝戦。ガンバ大阪が2連覇を達成するか、名古屋グランパスが95年以来の優勝を果たすかで注目されたが、結果的にはG大阪が4-1で圧勝。エース・遠藤保仁の全得点に絡む大活躍が目覚しかった。2000年シドニー五輪は登録外、2002年日韓ワールドカップは代表落ち、2006年ドイツワールドカップではフィールドプレーヤー唯一の出場なし、2008年北京五輪はウイルス性感染症で辞退と世界大会に縁のない男にとって、半年後に迫った南アワールドカップはサッカー人生を賭けた大舞台。その新年にこれだけの華々しい大活躍とは春から縁起がいい。
そんな決勝戦で、私の中に強く印象に残ったシーンがあった。2-1でG大阪がリードしていた後半41分、二川孝広の3点目に至る明神智和のプレーだ。
GK松代直樹からのロングフィードを左タッチライン際で受けた彼は三都主アレサンドロに真正面からマークされた。ここでボールを失うか否か、倒されるか否かは試合の行方を大きく左右しかねない。そこで明神は決してバランスを崩すことなくボールをキープ。三都主をかわして、前線に走る二川に絶妙のパスを出した。二川が右サイドを上がった遠藤にボールを流す。彼は自分で打っても入っていただろうが、あえてDFをギリギリまで引きつけて、中央に飛び込んだ二川にラストパスを出した。次の瞬間、G大阪に3点目が生まれ、勝利が完全に決まったのだ。
「相手も来てたし、どうしようかと考えながら反応したけど、うまく入れ替わって前に行くことができた。アレ(三都主)もぶつかってきたし、ファウルをもらえたらそれはそれでチャンスになると思った」と明神は冷静に自分のプレーを振り返る。そして語気を強めたのだ。「僕は簡単に倒れるようなプレーヤーにはなりたくない。笛で試合が止まるのも嫌だし。そういう選手でいたいからね」と。
96年に柏ユースからトップに上がった頃から、彼は誰よりも中盤を走り回ってボールを拾い、チームを献身的に支えていた。そのスタイルは今も変わっていない。しかし97年ワールドユース(マレーシア)やシドニー五輪の頃は、外国人選手と対峙するとよく倒されていた。まるで柔道の受け身をしているように思えたほど、小柄な彼はフィジカルコンタクトに苦労していた。けれども、間もなく32歳になろうとしている今、明神の当たりは格段に強くなった。名古屋戦を見ても三都主だけでなく、マギヌンやブルザノビッチにうまく体を入れてボールを奪ったり、玉田圭司をブロックしてスペースに入れさせないなど、細かい動きの1つ1つでも著しい進歩と遂げているのだ。
「ガンバのチームメートと練習をやってて、相手と対峙する時、どこで力を入れるか、どのあたりで行くかというのをギリギリまで見極めるようになった。他の選手たちもすごくうまいし、自分にとっていいヒントになっている。ギリギリまで相手を見ていれば慌てないで済む。そういうことをガンバに来て学んだのかな」と明神は自己分析している。
誰が決めたのか、日本サッカー界は「30歳定年制」が1つの常識になっている。G大阪の功労者の1人である播戸竜二や、大分トリニータでリーダー格だった鈴木慎吾(来季から京都)が戦力外通告を受けるのも、チーム事情というよりは「年齢」によるところが大だろう。「年俸の高いベテラン選手は使いにくい…」。そんな考え方を持つチーム関係者も少なくない。日本代表の岡田武史監督もベテランを極力少なくして、1人でも若い選手を入れたいと考えているようだ。
けれども、本当にベテランは成長しないのか…。そんなことはない。加地亮も「僕自身はまだ20代前半のような気持ちでいるし、あと14〜15年は走れると思ってる。みんな年齢を気にしすぎですよ」と強調していた。そんな加地が明神の最近の進化に目を見張っていた。サッカー選手は30代になっても成長できる。そのことを、彼は身を持って実証しているのだ。
「もちろん疲労からの回復だとかは若い頃とは違うし、ケアも前より入念にやらなきゃいけなくなった。でも意識さえ高く持っていればまだまだ成長できる。僕は年齢で判断されたくない。プレーで見てもらいたいって気持ちが強い。うまくなりたい気持ちは若い頃と負けないくらい強い。いいプレーをして、代表にだって入りたい。まだ南アのメンバーが決まったわけじゃないし、僕はいつでも準備をしていたい。上を目指す気持ちは持ち続けてますよ」と明神は目を輝かせた。
こういう成熟した選手が日本代表に一度も呼ばれないのはどうなのか。小笠原満男(鹿島)を含めて、岡田監督はJリーグで結果を出し続ける選手を軽視しすぎてはいないか。ワールドカップ本番までは6ヶ月。若い力の台頭にも期待したいが、本当に使えるベテランに目を向けることも有効な策であるはず。この日の明神を見ていて、そんな気持ちを改めて強く持った。
元川 悦子 01月02日00:11
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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