先週末22日のジェフユナイテッド千葉対FC東京戦(フクアリ)の後、今季限りで引退する浅利悟と話すチャンスがあった。「チームの若返りの方針もあるし、米本(拓司)も伸びてきた。ヨネは自分よりずっとうまいし、パスも出せる。僕の後継者なんて言われるのは彼に申し訳ない。でもそういう頼もしい若手が育ってきたことも自分の背中を押した」と、彼はピッチを去る理由を笑顔で語った。
現在のJリーグに社員選手は彼と斉藤雅人(大宮)の2人しかいない。浅利が武南高校から明治大学を経て東京ガスに入社したのは97年。まだJリーグが1・2部制に移行する前の話である。同社サッカー部の一員としてJFLに参戦してからの13年間には、プロチームへの移行、J1昇格、2004年のJリーグヤマザキナビスコカップの初タイトル獲得…とさまざまな出来事があった。その歴史を知る生き証人が去るということは大きな意味を持つ。同じく東京ガス時代からチームを支えてきた生え抜きの藤山竜仁も今季限りで退団するということで、FC東京の1つの歴史が終わるのだなと一抹の寂しさを覚えた。
浅利が入団した97年。私も東京ガスの試合を見るため、江戸川や夢の島に何度も足を運んだ。当時は土曜日にJリーグ、日曜日にJFLと開催が分かれていたため、近場のJFLには容易に顔を出せたのだ。江戸川のスタンドには1000人のお客さんがいればいい方だっただろうか…。それでも植田朝日さんら、東京サポーターは熱心だった。「俺たちが東京ガスを大きくするんだ」という彼らは情熱的で、本場の応援スタイルを導入。ブラジルサンバナイトなど今にも続くイベントも自ら開催することもあった。本場を思わせる雰囲気に、相手チームの監督・選手は「東ガス戦が一番やりにくい」と漏らしていたほどだ。
指揮を執っていたのは大熊清監督(現日本代表コーチ)。勝利至上主義者として知られる青年監督は、まず守備を固め、FWのアマラオに合わせて確実に1点を奪うというリアクションサッカーで勝ち星を重ねていった。当時を担ったメンバーが奥原崇(現東京ヘッドコーチ)、本吉剛(現東京U−18コーチ)、岡島清延、和田潤(現東ガス社員)、岡元勇人、加賀美健介らだった。佐野日大高校から入団したばかりの小林成光(現東京育成部コーチ)がJFL新人王を獲ったことも記憶に新しい。98年にはサンドロ、梅山修(現新潟市市会議員)、関浩二(現札幌U−15コーチ)らが加入し、一段と力を増した。
99年、プロ化によって彼らは「FC東京」として新たな道を歩み出す。東京ガスを母体に都内の100を超える企業から出資を受けた新会社「東京フットボールクラブ株式会社」が発足。体制とともに選手の境遇も変化した。藤山はプロの道を選び、浅利は社員のままサッカーを続けたが、和田ら何人かの選手はプレーを断念して社業に戻らざるを得なくなった。運営スタッフにしても同様だ。浅利らはそういう人々を間近で見続け、よりサッカーで恩返しをしようという思いを強くしたはずだ。
JFL時代の輝かしい実績があるだけに、99年のJ2に参戦したFC東京は「1年でJ1昇格は確実」と言われた。その予想通り、開幕から順調に勝ち点を重ね、順風満帆だった。9月25日の第28節までは3位・大分トリニータに勝ち点8差をつけ首位に立っていた東京だったが、10月に入るや否や、昇格への重圧からか勝てなくなる。次の山形戦から3連敗。33節・甲府戦には勝ったが、大宮、仙台にまたも連敗。逆に2位・大分に勝ち点1差をつけられ、3位で最終節・新潟戦を迎えた。
99年11月21日。新潟市営陸上競技場は曇り空で肌寒かった。ここで勝たなければ昇格はない。そんな絶体絶命のチームを救ったのが加賀美。彼の先制弾を守りきった東京は1−0で勝利。大分の結果を待った。その時点で大分は1−0でリード。昇格を99%手中にしていたが、山形・吉田達磨のFKが決まり、1−1で延長戦へ。そして引き分け。この瞬間、東京の奇跡の逆転昇格が決まった。大熊監督の男泣きを見たのはこの日が最初で最後だった…。
「昇格の時のビデオを大竹洋平が最近見て、『こんなことがあったんですね』と言っていたんです。僕らは何らかの形でそういう歴史を伝えていかないといけないですよね。僕は社員なんで、この先、東京の仕事に携われるかどうか分からないですけど」とこの大舞台を経験した浅利は静かに言った。99年の修羅場をくぐり抜け、2000年のJ1開幕、横浜F・マリノス戦で中村俊輔(エスパニョール)に「部活サッカー」とまで言われた泥臭い時期を通り過ぎたからこそ「ビッククラブ・東京」の今があるのだ。
藤山の退団、浅利の引退を機に、若手選手やサポーターの方にそんな苦難の歴史をぜひ知り、記憶に深く刻んでもらえればと思う。それが彼らの生きてきた証なのだから…。その時代を見続けた1人の取材者として、その重さを強く感じた。
元川 悦子 11月26日15:29
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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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