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葛西紀明は耐えていた。
オーストリアで、ある想いにかられていた。
『いま、ここで、飛んでいて良いのだろうか』
メンタルを強く、いまひとつ自分を見つめ返していた。
でも、飛んだ。
それもあのクルムの改修された新型フライングシャンツェで。
しかも240.5mを飛び抜けてだ。それを贈りたかった、可愛い妹に。
そう、ひたすらに想いを込めて飛んだ。
世界を相手にしてのバドミッテンドルフFH世界選手権、第5位は素晴らしい成績だった。
しかも2014にW杯で優勝した台とはいえ、アイストラックを導入、アプローチの形状が微妙に変わってしまったにもかかわらず、抜群に飛距離を伸ばしていた。
そのメーターは、ひとえに日本選手の最高飛距離となった。
ジャンプ週間でひとケタ入りを繰り返し、その後に急きょ帰国、国内3連戦で2勝を記録して、すぐさまオーストリアへと旅立った葛西。その欧州移動からして、体力の消耗が激しいまま、それでも飛んだ。
ジャンプしながら、それは心の中で見ていてくれているだろう妹の久美子さんへ向けて。
欧州のファンは歓喜した。ノリアキ・カザーイに声援を送ることができると、純粋に。
そうしてオーストリアや自国の国旗を高らかに振り上げた。
さて、続くはザコパネ(ポーランド)での2試合だ。
ここは昔から葛西選手が得意とする台ではあるが、それはキャンセルして帰国。彼は想いを雪中へと収めて、静かに週末の国内試合と来週の札幌W杯へと道を進める。
葛西はそこで表彰台に昇る、きっと昇る、それが供養となるからだ。
必ず、やってくれる地元札幌の台で。
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