オリックスの谷佳知が、現役引退を決断したようだ。通算2000本安打まであと73本。本人も「本数がいっていればやったが・・・」と、大台への夢を断念せざるをえない現実が、決断を促したことを認めている。

ここで、”Cigar Points”(シガー・ポイント)という言葉を紹介したい。シガー=葉巻は、何かを祝う時に燻らせるものとしても知られている。セイバーメトリクスの父と呼ばれるビル・ジェイムズは、投手なら通算100勝や200勝、野手なら2000本安打や、300号本塁打など、選手に達成感を感じさせるこれらの記録への到達をシガー・ポイントの効果を、その著書で紹介している。

みなさんは、長いMLBの歴史の中で、最も該当者数が多い通算勝利数は何勝かご存じだろうか?ジェイムズによると、それは「0勝」だそうだ。それが通算1勝、2勝と増えるにつれ該当人数は減少していくらしい。この理屈は理解できる。要するに、x軸に通算勝利数を、y軸にその勝利数の該当者をプロットすると、基本的には右肩下がりの曲線となる。

しかし、その曲線も100勝前後や200勝戦後の「シガー・ポイント」では異なる形状となるという。これを概念的に説明すると、該当達成者は必ずしも「90〜99勝」>「100〜109勝」>「110〜119勝」とはならないということだ。これは、シガー・ポイントに近づくと、力の衰えたベテランも「なんとかそこまでは」という作用が働くが、そこに到達するとその達成感から現役に固執する意識が低下するからだ。

これを、現実のNPBの通算2000本安打達成者数に置き換えて考えてみよう。9月12日時点で、1900本以上2000本未満は現役選手を除くと4人だけだ。それに対し、2000本以上2100本未満の引退済選手は15人に上る。そして、2100本以上2200本未満は8人に減る。やはり、これは「シガー・ポイント」の吸引力になせる業だろう。

中には、このような例もあった。2000年9月6日に通算2000本安打を達成した駒田徳広(横浜)は、閉幕を待たず22日には球団から戦力外通告を受けた。選手の記録への執念だけでなく、彼を見切っていた球団も2000本達成までは猶予を与えたのだ。これもシガー・ポイント効果だ。ちなみに、駒田の通算安打2006本は、2000本安打達成者では最小だ。

話を谷に戻す。彼の通算安打は1927本。現在の谷にとって、残り73本はあまりに遠かった。この数字は彼の過去4年分の安打数(72)を上回っているのだから。しかも、過去3年は13本しか打っていない。率直に言って、これ以上現役を継続しても2000本は無理だろう。

しかし、過去の事例を見ると、彼の1927本は明らかに2000本というシガー・ポイントへの射程圏にあった。そこまで辿り着いた過去のスラッガーの多くは、2000本という頂を目指し、老いる我が身に最後の鞭を入れたはずだ。それが叶わぬ谷。さぞかし無念だろう。

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豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

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