2014年ブラジルワールドカップを4カ月後に控えた今年2月9日のハノーファー戦で右太ももを痛め、本番直前まで出場が危ぶまれていた内田篤人(シャルケ)。同じく怪我で長期離脱した長谷部誠(フランクフルト)がコンディション不良に苦しみ、クラブで出場機会が少なかった本田圭佑(ミラン)や香川真司(ドルトムント)の調子が上がらず、シーズンフル稼働した岡崎慎司(マインツ)、長友佑都(インテル)らが本来のキレを見せられずに苦悩する傍らで、内田だけは怪我明けとは思えない闘志あふれるパフォーマンスを見せ続けた。ザッケローニ前監督率いる日本代表が1分2敗と惨敗する中、彼はチーム唯一の希望だったといっても過言ではない。

その内田が6月24日のコロンビア戦(クイアバ)の後、代表引退を示唆するような発言をした。本人は「まだ考えているところ。決めた訳じゃないから」と再三強調していたが、欧州と日本との行き来によるコンディション維持の大変さ、ブンデスリーガとUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)というハイレベルの公式戦と日本代表のフレンドリーマッチを掛け持ちしなければならないメンタル面の難しさなどが、こうした考えに至った要因と見られている。

その後、内田はシャルケに戻り、ドイツ5シーズン目に備えていたが、ブラジル大会の無理が祟って右ひざの状態がずっと悪いままだった。8月後半にチーム全体練習に合流したが、今季ブンデスリーガ開幕には間に合わず、9月17日に始まった14−15シーズンUCL初戦・チェルシー戦も出場できなかった。そんな状態だったがゆえに、ハビエル・アギーレ監督率いる新生・日本代表の初陣となった9月のウルグアイ・ベネズエラ2連戦には招集されなかった。

今年冬から春にかけてと同じように怪我との辛い戦いを経て、彼は9月23日のブレーメン戦でようやく復帰。右サイドバックで90分間のプレーを披露した。27日のドルトムントとのルールダービーにもフル出場を果たし、しっかりと最終ラインを支えた。この日のシャルケは今季序盤戦の不調が嘘のように勢いのあるスタートを見せ、前半10分にマティプが先制。23分にはマインツから移籍してきたシュポ・モティングのゴールが飛び出し、ドルトムントに底力を見せつけた。後半からはドルトムントに復帰した香川真司が出てきて、11−12シーズン以来の2人の直接対戦が実現した。が、この日、大きな存在感を示したのは内田の方。ユース時代からともに戦って来た香川に、1つ年上の先輩の意地を見せたかったのかもしれない。

今週はUCLのNKマリボル戦も入っているが、それも出場すれば完全にコンディションが整ったと見ていいだろう。となると、10月1日に予定されている日本代表の10月シリーズ(10日=ジャマイカ戦=新潟、14日=ブラジル戦=シンガポール)の招集が濃厚となるはずだ。9月2連戦で右サイドバックを務めた酒井宏樹(ハノーファー)と酒井高徳(シュトゥットガルト)が不安定なパフォーマンスを見せてしまったこともあり、メキシコ人指揮官としては内田の合流を待ち望んでいるに違いない。そこで彼がどのような決断をするかが大いに注目されるところだ。

アギーレ監督は8月の就任当初から「9〜11月の代表戦で呼んだ選手の中から来年1月のアジアカップ(オーストラリア)のメンバーを決める」と公言している。岡田武史監督が指揮していた2008年1月のチリ戦(東京・国立)で国際Aマッチデビューを飾り、足かけ7年間A代表で戦い続けてきた実績ある男も、そのいずれかに参戦しなければ、新たな日本代表には定着できないことになってしまう。本人の中でも揺れ動く気持ちはあるだろうが、2013年コンフェデレーションズカップで堂々としたマッチアップを演じたネイマール(バルセロナ)のいるブラジルと再び戦ってみたい思いもどこかにあるはずだ。

内田がアギーレジャパンに加われば、3トップの右が定位置になりつつある本田とのコンビネーションも確立しやすいのではないか。内田はこれまで中村俊輔(横浜)、松井大輔(磐田)、岡崎、清武弘嗣(ハノーファー)と様々なタイプのサイドアタッカーとコンビを組んできて、彼らの能力を活かすことに長けている。攻撃参加に優れた内田が入ることで、右サイドが新たな生命線になることも考えられる。そういう意味でも是非内田には日本代表への意欲を今一度、抱いて欲しいものである。

彼の動向や香川、ハーフナー・マイク(コルドバ)の復帰など、10月シリーズのメンバー発表は興味深い要素が多い。1日のアギーレ監督の会見が楽しみだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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