優勝候補筆頭のヴァーラム・リパルテリアニ(グルジア)が準々決勝で敗れるという衝撃の展開。今季躍進著しい20歳のクリスティアン・トート(ハンガリー)と、互いの腹を付け合っての壮絶な持ち上げあい、抱え合いの末に「指導2」対「指導1」で苦杯を喫した。3位決定戦ではシェラリ・ジュラエフ(ウズベキスタン)を釣込腰「一本」に仕留めて銅メダルは確保したが、実力ナンバーワンと評されながら昨年決勝の敗退に引き続き、またしても世界選手権制覇はならなかった。試合後、目に悔し涙を溜めていたのが印象的であった。

そして金メダルをさらったのは27歳の「柔道小僧」イリアス・イリアディス(ギリシャ)。トーツと対峙した決勝は肩越しのクロスグリップで帯を掴み、自身の右大外刈から始まった攻防の末、右外巻込で投げ切って見事な一本勝ち。2010年東京大会、2011年パリ大会に続く世界選手権3度目、2大会ぶりの優勝を決めた。

この日のイリアディス勝利の要因としてひとつ注目しておきたいのは、勝負どころで度々繰り出した新技「小手投げ」。払腰、釣込腰、大腰、浮腰と記録上の決まり技だけを見ていると「いつものイリアディス」だが、今回のイリアディスの勝ち上がりはこの技を抜きには語れない。肩越しに、あるいは奥襟を掴んで腰技と大外刈で相手を捻じ伏せるイリアディスのスタイルは全ての選手の警戒の的。当然、簡単にはこの形を作らせてはもらえないし、この形を作るなり掛け潰れで手数を積まれることは必定。一方的にこの形を作ることだけにこだわれば技を仕掛けるチャンス自体がどんどん減っていく。この構造を打破したのが、この「小手投げ」。まず相手に深く釣り手を与えておき、この腕を抱え込むことで半ば相手の肘を極めながら捻って崩すというこの技が今回はまことに効いた。釣り手は「小手投げ」、あとは脚を払えば払腰、腰を入れれば大腰に釣込腰、振り回し投げれば浮腰という形で、この技は決まる。

「組み合う」新ルール下、イリアディスを相手にまず釣り手を深く叩いて優位を得ようとしたケンカ四つ組み手の強者たちはことごとくその意図に成功し、そしてそれゆえに沈んだ。リパルテリアニの敗戦による「タナボタ」にあらず、ベテランがたまたま勝ち得た運にあらず、勝利にはやはり明確な理由があるのだ。イリアディスらしい細やかかつシンプルで大胆な新技術投入であった。

日本期待のベイカー茉秋はイリアディス戦に辿り着けず3回戦敗退。21歳の若手セリオ・ディアス(ポルトガル)の大外刈に完璧に捉えられ、思い切り宙に舞った。長年同じ面子で上位を占め続けているベテラン勢に人材揃ったジュニア世代が挑戦するというのがこの階級の裏テーマだったわけだが、この旗手と目されたグランドスラム東京王者のベイカーと、世界ジュニア王者でグランドスラムパリでベイカーと激戦を繰り広げたベカ・グビニアシビリ(グルジア)が早期敗退。しかし世代3番手と目されたトーツが2位入賞で、ベイカーを倒したディアスはイリアディスに「一本」で敗れたものの好パフォーマンスで会場を唸らせる。予想とは違う形ながら、昨年のU-20世代の人材密集ぶりが改めて示されたトーナメントとなった。

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古田 英毅
柔道サイト 「eJudo」編集長。国内の主要大会ほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。
コラム「eJudo's EYE」の著者でもある。自身も柔道五段でインターハイ出場歴あり。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。

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