中島裕之は今も、頑張っている。

稚拙な言い方は百も承知だが、中島はそう言うしかないシーズンの真っ只中にいる。

彼は現在、メジャーリーグよりも二階級下のAA(ダブルエーと読む)マイナーリーグのテキサス州の田舎町を本拠地とするロックハウンズというチームでプレーしている。

昨季はAAA級、今季はAA級である。Aの数が減るほど階級は下だ。メジャーリーグが遠ざかっている。そんな場所で野球をしていて、面白いはずがない―。

そんな取材者の偏見は、中島自身の次の一言で消し飛んだ。

「実際は、楽しくやってますよ」

表情は明るかった。

「えぇっ?って思うようなこともありますよ。なんやねん、それって。でも、ここにいる時間を無駄にしたくないし、ひとつでも多くのこと、新しいことを吸収したい」

中島がええっ?っと思ったこと。

そこにはマイナーリーグでプレーしているという現実も含まれるのかもしれない。とは言え、この一年半あまりの間に起こったことはすべて事実だ。メジャーリーグでの開幕を怪我のために逃し、AAA級でプレーしている内に40人枠も外された。AAA級で開幕した今季も、「下のほうが出場機会はあるから」という理由でAA級に降格した。

「あんまり気にしないようにしてます」

と中島は言う。特に慎重に選ぶわけでもなく、彼は淡々と言葉を重ねた。

「僕がどうこうできる問題じゃないし、そこはなるようにしかならへんわ、と思いながらやってます」

自分ではどうこうできる問題ではない―。

中島が今もアメリカにいる理由は、そこに尽きる。契約は契約だ。それを破棄して途中で帰ることも可能だったろうが、中島はアメリカに留まることを選んだ。

「今いる場所でとりあえずやらんことには、この先もうまくならない。まだ野球を辞めるわけじゃないし、まだ何年もやるつもりでおるから。今まで十何年やってきて、その中のひとコマかなぁと思う。僕の中では、まだ一年ちょっとの期間だから」

とは言え、メジャーリーグという夢の大舞台に辿り着くのは難しい。そんな状況になっても彼は、野球が好きでいられるのだろうか。

「嫌いにはなってないですね。まあ確かに凄いことやってるなぁって思いながらやってる部分もありますよ。AAA級なら飛行機も使ったけど、AA級ではバスで十何時間も離れたところへ行く。いろんな経験してるなぁと思いながら、毎日やってます」

AAA級からAA級へ降格した際の記憶。それはリアルに残っている。

「(AAA級で)DL(右脚付け根を傷めての故障者リスト)から戻るって時に、変な感じで復帰が一日伸びた。AAA級の監督がトレードかも知れんから、確認するからっていう話で。……そしたら試合後、『ここでは試合に出る機会もあんまりないから、AA級で出てくれって上が言ってきたから』と。マジで?AAってどこやねん?と思ったけど、次の日の朝に移動した。とりあえず野球が出来る荷物だけ持っていってという感じだった」

とりあえず野球ができる、という言葉に、この一年半の中島のシーズンが凝縮されている。

「いろいろ試しながら結果も出さんといかんから。今日もね、ちょっとバットの軌道を変えただけで今までより打球に力が伝わるようになった。毎日、毎日、そういうことを見つけながら(野球が)うまくなっていきたい」

日本で主力だった選手が苦戦する度に、いろんな人がいろんなことを言う。

「メジャー挑戦なんか、最初からしなきゃ良かったのに」。

「日本に帰ってくれば、まだまだ主力として活躍できるのに」。

そういう声はあって当然だが、それを「メジャー挑戦」と呼ぶのであれば“マイナー降格”というリスクもある。

我々のような取材者にできることは、中島のような立場の選手が、マイナーリーグで懸命にプレーしている姿を目撃することであり、そこで感じた何かを伝えることだけだ。

「うまくなっていきたい」と言った夜、中島は5打数4安打3打点と打ちまくった。

「先のことは何にも考えんと、とりあえず突っ走ってやろうかと思って」

マイナーでプレーすることがどこへ繋がっているのかは正直、私には分からない。分かっているのは、中島という選手が、今もどこかの田舎町で野球をし、頑張り続けている、ということだけである。

(文中敬称略)

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ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野を経て、1997年アメリカ合衆国アイオワ州に転居。1998年からマイナーリーグ、2001年からメジャーリーグ取材を本格化。2004年、東海岸ロードアイランド州在住時にレッドソックス86年ぶりの優勝を経験。翌年からはシカゴ郊外に転居して、ホワイトソックス88年ぶりの優勝を目撃。現在カブスの100+?年ぶりの優勝を体験するべく、地元を中心に米野球取材継続中。 訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員。

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