ドイツ対アルゼンチンという1990年イタリア大会以来の顔合わせとなった現地時間13日(日本時間14日)の2014年ブラジルワールドカップファイナルは、今大会屈指の好ゲームとなった。両者ともに持ち味を出しながら戦い、試合はスコアレスのまま延長戦へ。その延長後半8分、香川真司(マンチェスターU)とボルシア・ドルトムント時代にコンビを組んでいたゲッツェ(バイエルン)の決勝点が飛び出し、ドイツが1−0で見事に勝利。90年以来、4度目の頂点に輝いた。

試合当日のリオデジャネイロの町は決勝ムード一色となった。決戦の地・マラカナン周辺は朝から数えきれないほどの警察官が出動し、凄まじい警備体制が敷かれていた。ファンフェスタの会場であるコパカバーナビーチはアルゼンチンサポーター一色。前夜から野宿したと思われる人が多数いて、異様な熱気に包まれていた。マラカナンのスタンドも7割方がアルゼンチンの水色。国歌斉唱の際もまるでホームのような雰囲気だった。86年メキシコ大会以来、3度目の世界王者を夢見る人たちが次々と駆け付け、メッシ(バルセロナ)ら選手たちに熱い声援を送り続けた。

そのアルゼンチンは9日の準決勝・オランダ戦(サンパウロ)同様、守備的な戦いを選択。ドイツにボールを回させながら、バイタルエリアをしっかりと締めてボールを奪い、鋭いカウンターを繰り出す策に打って出た。ドイツはスタメンに名を連ねていたケディラ(レアル・マドリード)がアップ中にトラブルを起こして急遽クラマー(ボルシアMG)が出場するアクシデントが発生。そのクラマーも負傷し、前半途中にシュールレ(チェルシー)に交代するという予期せぬ出来事が続いたこともあり、攻撃の決め手を欠いた。前半のボール支配率は、ドイツが圧倒的に上回ったものの、シュート数は4対3とほぼ互角。この展開をアルゼンチンのサベーラ監督は狙っていたのだろう。実際、ドイツのミスを突いて30分にはイグアイン(ナポリ)がフリーで抜け出す決定機もあったが、残念ながら彼らはこれを決めきれなかった。

迎えた後半。アルゼンチンはラベッシ(PSG)に代えて早々とアグエロ(マンチェスターC)を投入。それまでの4−4−1−1から4−3−3へと布陣変更し、攻撃的な戦いにシフトする。前半から走力でアルゼンチンを上回っていたドイツの運動量が少なくなったこともあって、アルゼンチンが徐々に攻勢に出る。メッシも強引にシュートを打ちに行くなど、得点への意欲を強く押し出す。ドイツの守りも簡単には崩れず、両者ともに一進一退の攻防が続いて、試合は延長にもつれ込んだ。

延長に入って先に決定機をつかんだのはアルゼンチン。延長前半7分、ロホ(スポルティング)のクロスに反応した途中出場のパラシオ(インテル)がDFの背後に飛び出し、フリーでシュートを放つ。これが入っていれば勝負の行方は変わっていたが、これも枠を外れてしまう。アルゼンチンは勝利の糸を手繰り寄せることができなかった。

逆にドイツはワンチャンスを確実にモノにする。延長後半8分、左サイドを突破したシュールレのクロスに反応したゲッツェが胸トラップから左足ボレーを叩き込み、ついに均衡を破ることに成功する。歓喜の雄叫びを上げるドイツサポーターと対照的に、大声援を送っていたアルゼンチンサポーターは沈黙。そしてメッシの最後の最後のFKが外れてタイムアップの笛。総合力で上回ったドイツに軍配が上がった。

値千金のゴールを奪ったゲッツェはご存じの通り、ドルトムントのユース育ちのアタッカー。香川がマンチェスターUへ移籍するまで絶妙の連携を見せていた。香川がドルトムントを去った1年後、彼も憧れのバイエルンへ移籍。世界屈指のタレント軍団ではさすがのゲッツェも先発起用される機会が激減したが、昨季は要所要所でジョーカーとしていい味を出していた。その経験が今回の途中出場での決勝点に繋がったのかもしれない。普段から感覚的に慣れているミュラーやクロース、シュヴァインシュタイガーやラームらバイエルン勢が軸をなす今回のドイツ代表には、どのタイミングで入っても自分の持ち味を出せる自信があったのかもしれない。そうでなければ、これだけの重圧がかかる大舞台で結果を出すことは出来ないだろう。

そんなゲッツェの活躍を見て、ブラジル大会で不完全燃焼に終わった香川はどんな思いを抱いただろうか。「自分ももっと成長しなければいけない」と発奮したのは確かだろう。ベストGKに輝いたノイアー(バイエルン)がシャルケ時代、可愛がっていた内田篤人(シャルケ)も新たなエネルギーを得たのではないか。頂点に立ったドイツは、ドイツ組の多い日本サッカー界にとってもいいお手本だ。内田や岡崎慎司(マインツ)らは世界トップと自分の位置を常に測りながらプレー出来る。個々の成長を促す意味でもいい刺激になるだろう。さらに言うと、ドイツの育成システムの成功を日本も学ばなければいけない。どうすれば世代的に穴の無い彼らのように出来るのか。それをしっかり分析し、今後の代表強化に役立てて欲しいものだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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