ジャイアンツのティム・リンスカムが6月25日(現地時間)、本拠地AT&Tパークでのパドレス戦で自身2度目のノーヒッターを達成しました。この事実が興味深いのは以下の2つの点です。

まずは、彼は昨年の7月13日(現地時間)にも同じパドレス相手にノーヒッターを達成しているということ(球場はパドレスの本拠地ペトコ・パーク)。同一チーム相手に2度達成は史上2人目でした。

もう一つは、2008−09年の連続サイ・ヤング受賞に代表される圧倒的な4年間(2008−11年)を経て、12年以降は衰えが著しく「終わった」と思われていた投手による快挙だったということです。

この日のリンスカムはかつての奪三振マシーンのイメージとは異なり、速球は最速92マイルで奪三振はわずか6ながらスライダーとチェンジアップを有効に使い、1四球のみで12個の内野ゴロを打たせました。

こう述べると「元速球王が技巧派に転進し新境地を拓いた」と思われがちですが、事実はそうではありません。確かに全盛期には100マイル近かった球速は今や90マイル前後。しかし、変化球投手に変身したというよりは単に「力が衰えた」というべきでしょう。2008−11年の4年間平均で244奪三振の球界を代表する大エースが、2012年以降の防御率ではメジャーワースト8位(300投球回以上)という有様です。実際、今季も4.42と低迷しています(28日現在)。本拠地のAT&Tパークがメジャー有数の投手有利の球場であることを考慮すると、これらの数字は「相当悪い」と言ってよいでしょう。では、そんな中の下(下の上?)の先発投手でしかないリンスカムがなぜ1年以内に2度もノーヒッターを達成できたのか?このことは、現地メディアでも話題になっているようです。

相手が両試合ともメジャー有数の貧打線のパドレスだったというのはもちろんですが、面白いのはFOX電子版に掲載されたデーブ・キャメロン記者の分析です。

それによると、リンスカムの奪三振率、与四球率、FIP(投手の責任である奪三振、与四球、被本塁打から算出する擬似防御率)、xFIP(FIPをさらに発展させたもの)で分析すると、走者なしの(あの特徴的なワインドアップで投げる)場面では絶好調だった2008−11年と2012年以降でほとんど差がなく、走者を背負う(セットポジション)と2012年以降はそれ以前に比べ大きく見劣りするそうです。

したがって、ほとんど走者を背負わず投げる試合では全盛期のままな訳で、それが貧打のパドレス打線や投手有利のAT&Tパークやペトコ・パークと組み合わされ、大記録の可能性が高まったというロジックです。しかし、セットポジションでは球威が落ちるのかと言うとそうでもなく、今季の速球の平均球速は走者の有無に関わらず90マイル弱で、球種の組み合わせにも特に変化はないそうです。そうなるとキャメロン理論も(本人も認めているように)説得力を欠きます。示しているのは相関関係だけで因果関係までは踏み入ってないからです。

しかし、これだけは言えると思います。衰えが顕著になった2012年以降も、故障することなくしっかりローテーションを守っているということです。全盛期の頃から専門家の間では、リンスカムは力投型のフォームと小柄で華奢な体つきから「ピークは短く、将来必ず故障する」と言われてきました。確かに28歳のシーズンからガクっと力は落ちましたが、依然として故障知らずです。

みなさんは昨季を最後に事実上引退状態のバリー・ジトを覚えていますか?アスレチックス在籍の2002年に大きなカーブを武器に23勝を挙げサイ・ヤング賞を獲得した左腕で、FAとなった2006年オフに当時投手としては史上最高額の7年総額1億2600万ドルでジャイアンツと契約しました。ところが、契約初年度でも29歳で全盛期の末期にあったジトは移籍後精彩を欠き、不良債権の象徴としてファンやメディアから叩かれました。確かにジャイアンツでのジトはパっとしなかったのですが、彼は故障が少なく7年の契約期間中5度32先発以上をこなしました。そのタフネスぶりは高いサラリーに見合うかどうかはともかく、それなりの評価を集めたものです。

現在30歳のリンスカムもピークの終焉は予想通り早く訪れましたが、そこから先はジトのように細く長く貴重な中堅投手として生き延びて行くかもしれません。

かつてリンスカムは、あどけない表情と肩まで伸ばした「ロン毛」がトレードマークでした。2010年に私がアトランタのクラブハウスで見かけたときは、ひたすらニンテンドーのゲームに没頭しており、その風貌と相まって正にやんちゃ坊主の印象でした。ところが今や、髪はやや短くなり髭も蓄え、ビミョウな「プチおっさん」の風貌です。やや没個性化したとも言えますが、大スターの座から降りながらもしぶとく生き続けるであろう彼を象徴しているともいえます。

photo

豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

お知らせ

◆田中将大のレギュラーシーズン先発試合を全試合生中継!
開幕からポストシーズン、ワールドシリーズまで中継!
田中将大、ダルビッシュ有、黒田博樹、岩隈久志など日本人投手先発試合を徹底放送します。
≫特集ページを見る
≫詳しい放送予定を見る

スカパー!×J SPORTS J SPORTS オンラインショップ