「(対戦相手の)名古屋も含めて良いゲームができたと思います」と川崎フロンターレの風間八宏監督。ともにしっかりと守った上で、それぞれの特徴を生かして攻め合った好ゲームだった。そして、風間監督の下で積み上げてきた川崎のポゼッション・サッカーが明らかに上回り、「1対0での川崎の勝利」は試合内容を忠実に反映した結果だった。

進境著しいMFの大島僚太やサイドアタッカーの森谷賢太郎が素晴らしいつなぎを見せ、ポゼッションしながらも常に相手のDFラインの裏を意識した川崎。シーズン当初から良い内容の試合をしながら結果に結びつかなかったものの、そこでブレることなく、川崎らしいサッカーを貫きながらしっかりとチームがまとまってきての2連勝となった。

右サイドでワンタッチのパスを何本かつなぎ、最後は小林悠がペナルティーエリア内の中村憲剛に短く渡し、中村がゴール前に入れたボールに、大久保嘉人がDFと交錯しながら反応した68分の決勝ゴールも、風間監督は「すばらしい」と絶賛した。

さて、その決勝ゴールを決めた大久保嘉人である。昨シーズンから得点感覚に目覚めていたが、今シーズンはさらにプレーの幅が広くなっている。単にゴールを決めるだけではなく、トップの位置からどんどん中盤に下がってパスを引き出し、しっかりキープして前線やサイドの選手を走らせ、そして、最後の局面でゴール前に飛び出していく。そういうプレーを几帳面に90分間続けていたのだ。決勝ゴール(そして、川崎フロンターレにとっての記念すべき1000ゴール目)は、そういうハードワークに対する神様からのご褒美のようなものなのだろう。

それにしても、このところの大久保の真面目なプレーぶりは、目を瞠るものがある。かつて、大久保嘉人といえば、Jリーグきってのカードコレクターで、国際試合を含めて警告・退場数知れずといったプレーヤーだった。しかし、昨シーズン、川崎でゴールを量産し始めてからは、すっかりトラブルとご無沙汰となった。名古屋との試合でも、川崎に不利な判定が続く場面もあったが、どんな時にもレフェリングに不満な素振りを出すことなく、大久保はハードワークを続けた。おかげで、後半の最後の時間はかなり疲労がたまっていたようだったが、プレーが切れた瞬間に膝に手を置くその姿はむしろ彼にとっては勲章のようなものだった。

一方、名古屋グランパスの守備の要で、今シーズンからキャプテンも務める田中マルクス闘莉王も、毎試合、以前とは見違えるような真面目なプレーを続けている。闘莉王の能力は守備面でも攻撃面でも折り紙付きだ。だが、なかなか使い難い選手であるのも事実なのである。試合中でも気を抜いたようなプレーをしたり、とんでもないミスをすることがあるし、練習でも全力でやりきらないで、いわゆる「手を抜く」場面が結構あるのだ。だが、それでも、能力の高さを生かして、試合でも練習でもそれなりに辻褄を合わせてしまうのが闘莉王なのだ。

そこが、監督としては難しいことで、チーム全体の規律を考えれば、使いたくないプレーヤーでもあるのだ。日本代表でも、ジーコ監督は同じブラジル出身であるにも関わらず、闘莉王を使わなかったし、闘莉王と中澤佑二のセンターバックコンビでワールドカップのグループリーグ突破を果たした岡田武史監督も闘莉王をチームからはずすことを真剣に考えていたようだ。そして、現在の日本代表のザッケローニ監督も闘莉王を招集していない。現在の日本代表は、攻撃にはタレントがそろっているが、守備面、とくにセンターバックが弱点となっている。だから、当然のように「守備強化のために闘莉王が必要ではないか」という意見は根強い。

「スピードがないとか、パス能力で現在のDF陣より見劣りするからではないか」と解説する人もいるが、闘莉王のミドルレンジのパスは悪くないし、スピードという意味では吉田麻也だって世界の一流について行けるとは思えない。闘莉王は、なぜ呼ばれないのだろうか。過去の日本代表では、大会の時の規律と志気の維持のために、信頼されるベテランをベンチに入れるケースがあった。2002年大会では中山雅史と秋田豊がサプライズ招集されたし、4年前には負傷明けのGK川口能活が呼ばれた。ベンチにベテランを置くことでチーム全体を引き締め、若い選手に落ち着きを与えることを期待しての招集だった。だが、たとえば闘莉王の場合は、必ずしも周囲に良い影響を与えるとは限らない。監督に対する不満分子となりかねないし、試合や練習での態度でかえって志気を落としてしまう危険もある。だが、最近の名古屋での闘莉王のパフォーマンスを見ると、そんな心配はないように思えてくる。

川崎戦は、結局、大久保のゴール以降、名古屋が1点を追う展開となった。昨年までの監督なら、間違いなく闘莉王を最前線に上げていたに違いない。だが、西野朗監督はそういう選択はしなかったし、闘莉王自身も、内心では攻め上がりたいという気持ちは強かったかもしれないが、流れの中ではほんの数回攻め上がっただけ。しっかりと自制し、周囲の若手DFの中心となって90分間、集中してラインコントロールをしていた。

監督が変わり、チーム戦術が変わったこと。そして、自らがキャプテンになったことなどの要因が複合的に作用しているのだろう。とするなら、ザッケローニ監督だって、闘莉王を招集して使いこなせないことはなかろう。今の、あの真面目なプレーぶりを見ていると、大久保嘉人も闘莉王も、ワールドカップに連れて行かない理由は何もないように思えてくるのだが……

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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