[写真]敷田直人審判員

筋書きのないプロ野球を演出する寡黙な仕事人。審判員の素顔に迫る「ザ・アンパイア」。第1回は卍コールが好評の敷田直人審判員です。

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プロ野球の審判員として19年目の春を迎える敷田直人(しきたなおと)がこの世界に入ったきっかけは、偶然目にした小さな求人記事だった。

「プロを目指して社会人(新日鉄)まで野球をやってきましたが、22歳の秋にチームから引退を勧められて……。会社に残る選択肢もありましたが、野球しか知らない自分にサラリーマンは向かないと思い、翌春に会社を辞めました。今思えば、若かったですね(苦笑)」。

野球だけでなく仕事まで失ってしまった空白の時間を「何もしなかった」と、敷田は振り返る。そんな敷田に転機が訪れたのは、半年後の秋だった。歯医者の待合室で何気なく開いたスポーツ紙に、『セ・リーグが審判員を公募』という小さな求人記事を見つけた。止まっていた敷田の人生が、大きく動き出した。

「最初に見た時は『プロ野球の審判か、悪くないな』くらいの軽い気持ちでしたが、時間が経つにつれて、その存在がどんどん大きくなってきて。それで治療を終えて自宅に帰ったんですが、どうしても気になってしまって、コンビニまでその新聞を買いに行ったら、運良く1部だけ残っていて(笑)」

履歴書と共に「野球と私」という題の作文を送付した敷田は、書類審査を通過し、神宮球場の室内練習場で行われた実技試験に呼ばれた。「90名ほどが集まりました。自分はこれまで選手の経験しかなかったので、見よう見真似でストライク、ボールのコールをしました。幸い現役時代は、小学校から社会人まで捕手一筋だったので、ピッチャーの投球を見てきた量には自信があったので、落ち着いてコールできました」。

敷田を含めた8名が、筆記テストと面接の最終試験に残った。大好きな野球から遠ざかった半年間の空白が、若き日の敷田の野球熱を高ぶらせた。筆記試験と面接を無事に通った敷田は、セ・リーグからの電話で合格を知った。24歳の春だった。

[写真]審判エンブレム

人生の大半を野球に費やしてきた敷田は、自らの人生を「大好きな野球に今も関われて幸せ」と表現する。捕手出身のプロ野球の審判員は名幸一明など数名いるが、その数は多くはない。敷田は「例えば2ストライクを取ったキャッチャーが外角にすっと構えると、真っすぐかな、スライダーかな、と配球を読む」。

審判員の先輩からは『予想外のボールが来たときの対応が遅れるから、配球は読まないほうが良い』とアドバイスをもらったこともあったそうだが、「自分は次の配球を読んでしまう。読みどおりのボールがくれば、イメージがある分、より丁寧に見極めができるから」と、キャッチャー出身の敷田ならではのスタイルを教えてくれた。

エースと呼ばれる投手たちは「指2本分(約4cm)の出し入れ」が自在にできる決め球を持っているという。「岩瀬仁紀(中日)のスライダー、川上憲伸(中日)のカットボール、ルイス(広島)のコントロールとテンポの良さは特に印象的」と語る敷田は、若手時代、斉藤雅樹(元巨人)や上原浩治(現ボストン・レッドソックス)などの一流投手のピッチングに育てられたと振り返る。

やがて敷田は、プロ17年目となる2012年に日本シリーズに初出場を果たし、巨人が日本ハムを4対3で下して優勝した第6戦のビックゲームで主審を任されるまでになった。そして敷田といえば、もうひとつ欠かせないエピソードがある。「卍の敷田」とニックネームが定着するほどユニークなコールスタイルだ。

[写真]敷田直人審判員の卍コール

「1軍でデビューしたのが6年目で、それから数年は自分のスタイルを試行錯誤していた時期もありましたが、やがてしっくりくるスタイルが見つかって。それからは自宅や遠征先のホテルの鏡の前でシャドーコールをして型を作っていました」。こうして作り上げた敷田特有のコールスタイルは、ネット上でも多くの書き込みが見られるほどファンの間では有名だ。

「始めたばかりの頃は(敷田は右バッターだったので腰を左に切りやすいという理由から)、左打者の見逃し三振だけだったんですが、思いのほか評判が良かったので、右打者(の見逃し三振)でも同じようにできるように練習しました。さすがに今はほとんどシャドーすることはなくなりましたけどね(笑)」

プライベートでは「最近、宝塚のファンになった」という敷田。「今年の正月は神戸の元旦公演に行きました。5組のトップが全員集まるレアなショーで、テンション上がりましたよ」と、意外な素顔を披露してくれた。

卍の美学、と呼びたくなる敷田のコールは、今日も鮮やかにプロのプレーを裁いていく。

◆敷田直人(しきた なおと)
生年月日:1971年10月25日(42歳)
経歴:福岡県立八幡工業高校→新日本製鐵君津
現役時代のポジション:キャッチャー

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