記者島津です。ソチ五輪のフィギュアスケートは、日本の男女共にメダル候補が揃い、もとい、「メダル候補しかいない6人」なので、皆さん日本人選手の活躍を楽しみにされていることでしょう。だがしかーし!日本人選手の応援だけでは、「もっ・た・い・な・い。MOTTAINAI(滝クリ風に)」。

なにしろ、今大会は、男女共にウサイン・ボルトとウサイン・ボルトの頂上決戦であり、トップを追って表彰台を争うウサイン・ボルト達、割って入らんとする列強の獅子達がキラ星のごとく集った、群雄割拠・百花繚乱はおろか、ファンタジーの世界なのです!

日本男子においては、惜しくも五輪に出られなかったウサイン・ボルト達(織田信成選手、小塚崇彦選手、無良崇人選手)、ウサイン・ボルト達が国内に多過ぎるために、世界で戦える力がありながらなかなか日の目を見ない、世界がまだ見ぬ獅子達(村上大介選手、中村健人選手、佐々木彰生選手、ジュニア勢ら)もいます。

日本男子は、ワールドサッカーで例えるなら、「各ポジションにミヒャエル・バラッククラスが揃った(バラック時代の)バイエルン」です。てっぺんのレアルやイタリアW杯後のインテルをもしのぐ、爆☆ギャラクティコス状態で、その日本男子全体の悲願を背負ってソチのリンクに立つ3人の闘いは、注目が集まる女子と共に、スポーツファンの皆さんに是非御注目頂きたいです!

これより、【日頃フィギュアスケートを見ないスポーツファンがソチ五輪フィギュアスケートで心底盛り上がるための一夜漬け事項】をお届けします!

五輪に集ったウサイン・ボルト達の勢力図
男子編

2012年の世界選手権は、空前の四回転時代の幕開けとなりました。私はその世界選手権のリポートで、「ショートから四回転、四回転、そして四回転ッ」とか「四回転の四回転による四回転のための!男子フリー」とかツイートしたのですが、(暑苦しいものの)決して大げさではありません。少なくとも、【四回転ジャンプをショートとフリーで計2回以上】決めなければ、上位入りが見込めない時代になったのです。他の三回転ジャンプも失敗は許されません。

バンクーバー五輪でそれを成し得たのは、銀メダルの宇宙人、エフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)ただ一人でした。金メダルに輝いたのは、かつては暴れ馬のように四回転を決め、フリーでの大どんでん返しを幾度となく演じていたエヴァン・ライサチェック選手(アメリカ)です。怪我をしてから四回転を満足に組み込めない中、四回転がなくても、トリプルアクセルを含む他の三回転ジャンプを決めて、スピン・ステップでも得点を重ね、情熱に次ぐ情熱の演技で、プルシェンコを1.31点上回る257.67で優勝しました。

このライサチェックの「257.67」という得点は、三回転ジャンパーの最高到達点です。当時のワールドレコード(=四回転ジャンパーの最高到達点)は、2008年四大陸選手権のフリーで2回四回転を決めた、高橋大輔選手の「264.41」です。三回転ジャンパーの最高到達点と四回転ジャンパーの最高到達点が拮抗し、バンクーバー五輪の結果も物議を醸し、その次のシーズンから四回転の得点が上がることになります。

男子シングル全体を四回転時代へと急にねじ込んだのは、バンクーバー五輪の翌年(2011年)の世界選手権で優勝したパトリック・チャン選手(カナダ)です。チャンは、そもそも、氷の上に立っているだけで、その安定感がもう他のツワモノ達と違っていました。元選手でもないのに「エッジがどうの」とか説いても茶番なので、解説は解説者の方に委ねまして、是非、K-1に出始めた頃のセーム・シュルトを思い出されて下さい。212cmの巨神兵が空手技を繰り出し、規格外の強さがありましたね。映像では分かりにくいですが、生でチャンのスケーティングの凄みを目撃すると、その『階級違い』な感も覚えます。

そのチャンが、2011年の世界選手権で、四回転を計3回(ショートで1回フリーで2回)決め、総合得点「280.98」という、ワールドレコードを16.57点押し上げる、破天荒な所業を達成します(当時20歳)。ここに、ウサイン・ボルト(一人目)が誕生しました。

三回転ジャンパーの身の上では到底その点数が出ないので、またその次のシーズン(11-12シーズン)から、飛んで四回まわりたがる兄さんが続出します。羽生結弦選手やハビエル・フェルナンデス選手(スペイン)が頭角を現し、ケヴィン・レイノルズ選手(カナダ)が異次元の構成をし、デニス・テン選手(カザフスタン)、ミハル・ブレジナ選手(チェコ)、フローラン・アモディオ選手(フランス)、ハン・ヤン選手(中国)ら若手が四回転に熟達し、ブライアン・ジュベール選手(フランス)、ジェレミー・アボット選手(アメリカ)、トマシュ・ベルネル選手(チェコ)らベテランが苦心しながらも味を出し、その間、日本でも四回転ジャンパーでごった返しました。

ハチャメチャにおもしろくなってきた今季。再び五輪に降臨したプルシェンコ、日本勢3名を含め、バンクーバー期の四回転ジャンパーの最高到達点をはるかに超える、【四回転をショートとフリーで計3回以上】決めん!とするウサイン・ボルト達がこのソチ五輪に結集した。

……というのが、ここまでのあらすじです。

トリプルアクセルまでの構成のジェイソン・ブラウン選手(アメリカ)が、ボルト達の果たし合いのどさくさに紛れて、三回転ジャンパーの最高到達点(257.67)をこっそり押し上げるかどうかも楽しみです。

五輪に集ったウサイン・ボルト達の勢力図
女子編

浅田真央選手、キム・ヨナ選手(韓国)という、バンクーバー五輪で総合得点200点を超えた、ギャラクティコス☆ウサイン・ボルト嬢達の再戦。今大会は、200点超えの銀河にその他のウサイン・ボルト嬢達も加わり、しのぎを削ります。

若手ボルト嬢では、ユリア・リプニツカヤ選手とアデリーナ・ソトニコワ選手(ロシア)、グレイシー・ゴールド選手(アメリカ)、ケイトリン・オズモンド選手(カナダ)、そして村上佳菜子選手達に注目です。カロリーナ・コストナー選手(イタリア)、アシュリー・ワグナー選手(アメリカ)、鈴木明子選手、キム、浅田というベテランボルト嬢達も豊富な経験を武器にソチに臨みます。

先の団体戦で自己ベストを出したリプニツカヤとゴールド、地元のソトニコワが、この五輪でどこまでスターダムを駆け上るのか。若手ボルト嬢達を打って迎えるベテランボルト嬢達。シビれる展開になってまいりました。

女子のウサイン・ボルト嬢達は、【ショートで三回転−三回転を決める、フリーで三回転ジャンプを7回以上ミスなく決める】ことが日常茶飯事になり、真央・ボルトは、【ショートでトリプルアクセル、フリーでトリプルアクセルを含む6種類の三回転ジャンプを8回】決めん!とソチ五輪に挑んでいます。

ウサイン・ボルト達の勝負の分かれ目

ウサイン・ボルト達がジャンプを決め合ったとして、その後の命運は、【演技構成点】(PCS 「コンポーネンツ」、「セカンドマーク」とも言われる)と【ジャンプの出来映えの加点減点】(GOE)に依るところが大きいです。

演技構成点は、プログラムを「構成」する5項目(スケーティング技術、技と技の繋ぎ、演技力・実行力 、踊り・振付、音楽性の解釈)の10点満点評価で、演技構成点の満点は女子ショートで40点、女子フリーで80点、男子ショートで50点、男子フリーで100点。演技構成点が平均して1点違うと、総合で女子では12点、男子では15点の大差になってしまいます。

演技構成点の下位ボルトが上位ボルトに勝つには、上位ボルトの失敗を待たねばなりません。ここまでの演技構成点の男子の最上位ボルトはチャン、女子はキムです。全体的にベテランボルト達が年の功を発揮します。

ジャンプの得点は技術点の大半を占め、ショートとフリー合わせて女子で10回、男子で11回あるジャンプの出来映え(GOE)に関しては、ウサイン・ボルト達が細心に気を配り取り組んでいるところでしょう。

実はこの「ジャンプの加点」を決定する、8個の項目があります。スポーツファンの方は、これさえ分かれば、フィギュアスケートが楽しくなると思います!サッカーで言う「オフサイド」です。

一夜漬けのフィナーレがやってまいりました。是非以下の8個を覚えられました上、ジャンプのひとつひとつを御覧になって下さい。

【ジャンプ加点要件】 GOE+1から+3

  • 1) ジャンプの助走の意外性/工夫/難易度
  • 2) ジャンプの前に入れるステップや技
  • 3) 回転のキレ/回転フォームのアレンジ
  • 4) 高さと幅
  • 5) ランディング(着氷)の伸び/アレンジ
  • 6) 全体の流れ
  • 7) エフォートレス(簡単に行っている)
  • 8) 音楽との調和

8項目の内、2つクリアでGOE+1、4つで+2、6つ以上で+3です。羽生・ボルトのショートのトリプルアクセルは、これら8項目をほぼ網羅しているのではないかと思われます。また、【プログラム後半のジャンプは得点が1.1倍】になり、羽生・ボルトはその後半に高得点の難しいジャンプを構成しています。

体力的に厳しい後半では、「4)高さと幅」を出すのは難しいため、なるべく力を使わない「7)エフォートレス」オシのジャンプが多いように思います。

減点要素は19項目あります……。ひとまず、【転倒はGOE−3で、全体の得点からさらに1点引かれる】ということだけ憶えておけば大丈夫です!ジャンプの残念具合によって、GOE−1から−3の減点がなされます。

スポーツファンの皆さんに、ジャンプに懸けるウサイン・ボルト達の取り組みが、深いところまで伝わった時、一夜漬けながら心底フィギュアスケートが楽しくなりましたら、フィギュアスケートのもうひとつの顔が見えてくるでしょう。「滑り」がもたらす【スピード・移動距離・技・動作×自由な音楽・ダンス】という『アート』としての一面です。

技。ハヤサ。高さ。広さ。若さ。味。音楽。物語。己。踊り。滑り。イキザマ。挑戦。勝負。技術VS芸術、ベテランVS若手が火花を散らす、「おもしろい」としか言いようがない氷上のウサイン・ボルト達のソチ五輪に御期待下さい。

テキスト: 島津愛子 Aiko Shimazu

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Pigeon Post ピジョンポスト
フィギュアスケーターの"声" "今"を届ける記者チーム(Pigeon Post HP)。
日本チームを中心に、世界のフィギュアスケートを特集する日本語英語のバイリンガルサイトで、インタビュー・リポートを掲載。Twitterをポータルとして、新しい記事の紹介やニュース、イベントのリポートまで、ワンストップで伝える。FacebookもTwitterと連携させている。

お知らせ

◆ISU世界ジュニアフィギュアスケート選手権2014
3月21日 (金) 〜23日(日)エキシビジョンまで全種目放送!
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◆ISU世界フィギュアスケート選手権2014 日本・さいたま
男女シングルはじめ、ペア、アイスダンス、エキシビションまで全種目・全滑走放送。選手インタビュー&プレスカンファレンスの模様も放送。
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