今の姿を、松坂大輔が投げる今の姿を見て欲しい―。

「はっきり言って、自分がやりたいピッチングではないです。ごまかしのピッチングがうまく行ってるだけだと、僕はそう思ってます」

9月20日に行われた敵地での対フィリーズ戦、松坂は試合後、慎重に言葉を選びながらそう言った。

「今の僕は総合力で勝負というか、使えるものはとにかく引き出して使っていこうとしてます」

今季メジャー初登板からの3試合で19安打15失点。ところが20日の試合を含めた最近3試合では9安打6失点(自責点4)と好成績を残している。

何が違っているのか。

速球のスピード云々は、もうすでにあちこちで散々言われていることだから、ここではあえて触れない。それよりも、いきなり初球から球速の遅いカーブを投げ込む姿のほうに、違和感がある。

「あまり(速球の)スピードが出ない中で、なるべく速く見せようと投げ始めたボールです。もっと自信を持ってカウントが悪い場面で使ったり、追い込んだ時に自信を持ってワンバウンドで投げられるボールにしたい。来年以降も続けていく形になると思う」

彼はなぜ、そういう考えに至ったのか。

「考え方を変えたのが一番大きいかも知れないですね。今の自分はこんなもんだ、って開き直ってるのもそうだし。今まで余計なことを考えすぎてたなってのが今年の僕です。難しいのかも知れないですけど、本当に考え方もシンプル、野球にシンプルにってのが一番いいんだなと、今は感じている」

周りが求めているダイスケ・マツザカと、自分が追い求めている松坂大輔。彼の葛藤はこんな言葉にも表れている。

「自分の思ったようにいかないことが続いている中で、何か良くなるきっかけを探しそうといろいろやりすぎた。幾つものことを一度にやろうとして、フォームがバラバラになっていた。本当は今の時期にやることじゃないし、試合の中で勝たなきゃいけないってのとは矛盾しているんですけど、良くなるために試して行こうと……」

今の松坂が、真っ直ぐ=速球へのこだわりをなくしたと言うつもりはない。だが彼はメッツに移籍した最初の無残な3試合で何かを確信せざるを得ない状況になり、好投した次の3試合では、自分なりの方法で“アウトを積み重ねる最良の手段”を選択するに至ったのだろう。

「欲を言えば、今からでもいい状態のもの、いい形のものが出ればいいと思いますが、今までやってきているわけですから、今年に限っていえばなかなか難しい」

松坂大輔という絶対不変の存在を崩さぬために、昔は決してやらなかったピッチング。そこには彼が欲しい本当の手応えなどなく、自分の追い求めているものとも違うはずだ。だが今は、それよりも必要なことがある。ただひたすらにストライクを投げること。ただひたすらにアウトを積み重ねること。プロ野球選手として生き残るために、来季に繋がる結果を残すために、松坂は今、「これしかない」という気持ちで勝負しているのかも知れない。

「今後の野球人生を考えたら、自分のためになるようなピッチングになっている」

だからやっぱり今の姿を、松坂大輔が投げる今の姿を見て欲しい。来季に繋がる一球、一球を、今まで彼が培ってきた渾身の一球、一球を見て欲しい。

我々に残されたチャンスは、9月25日、敵地シンシナティでのレッズ戦のみである。

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ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員

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