ザッケローニ監督が再び3‐4‐3にトライした。対戦相手が3バックを仕掛けてきた場合には、とりあえず3人のストッパーの外側のコーナー付近にボールを入れてみるといい。ウィングバックが戻って処理するのか、ストッパーがズレて処理するのか、いずれにしてもスムーズに処理できるようであれば、そのチームの3バックの完成度は高いということがわかる。

ブルガリアも、日本が3バックをしかけてきたのを見て、早速、定石通りにサイドにボールを入れてきた。ブルガリアは、そのへんの「サッカーの常識」のようなものをよく知っており、また完成度の高いチームだ。そして、日本代表以上に真面目に、真剣に試合に取り組んでいた。さて、試合開始からわずかに3分、日本の様子を見るためにブルガリアは(彼らから見て)左サイドから仕掛けてきた。すると、いきなりそこでFKをゲットし、そのFKがゴールにつながってしまった。

この一連のプレーで、ブルガリアは日本の3バックには大きな弱点があるのをしっかりと理解した。そして、ストッパーとウィングバックの間のスペースにどんどんボールを入れてきた。たとえば9分、右サイドバックのディミトロフから駒野と今野の間のスペースに入れてきたパス。15分、今度はボランチのディヤコフがDFラインとボランチの間のスペースに入れ、そこにガジェフが走りこんでくる。

こうして、日本の守備陣が戸惑っているのをいいことに、ボール支配では劣るブルガリアが何度もチャンスを作った。左サイドの駒野と今野のサイドはともかく、右の内田と吉田のところは、たえず大きなスペースができていた。そして、時間が経過しても、日本の選手たちは一向に3バックの守り方に慣れることがなかった。そして、前半終了間際の44分にもピンチを招く。左サイド(ブルガリアから見て)でイリエフからのパスを受けたSBのミネフがドリブルで上がり、内田が軽い対応ではずされると、慌てて吉田が対応その吉田が動いたスペースにイリエフが走り込み、今度は栗原が慌てて対応に走る……。

「3バック」と一口に言うが、それぞれのチームにはそれぞれのやり方がある。たとえば、1980年代に流行っていた3バックというのは、守備的なものだった。相手の2人のストライカーに対して3人のストッパーがマーク(1人がスイーパーになることもある)。そして、サイドからの攻めに対しては、ウィングバックが対応する。ここでは、そういう古典的な3バックのことを「5バック」と呼んでおこう。最近の3バックというのは、そういう守備的なものではない。まず、タッチラインとタッチラインの間のスペースを(サイド攻撃を含めて)3人のDFだけで守ろうとするのが昔風の「5バック」との違いだ。そして、ユベントスがやっている3バックのように、3人のDF、たとえばキエッリーニなどもどんどん攻撃に出る(ナポリのマッツァーリ監督がやっていた3バックの場合は、DFはあまり攻撃には出ない。なぜなら、ナポリの場合は前線のカバーニやハムシクだけで点が取れてしまうからだ)。

一方、今シーズンは9位という不甲斐ない成績に終わったインテル。このチームでも、ストラマッチョーニ監督は3バックを採択していたが、狙いがきわめて曖昧だった。昔風の「5バック」だったのか、流行の「3バック」だったのが、結局よく分からなかったのだ。監督としては、最新の攻撃的な「3バック」をやったつもりなのだろう。長友やアルバロ・ペレイラをウィングバックに置いて、攻めさせようとしていたのだ。

だが、最終ラインの3人のDFがやっていることは、まるで昔風の「5バック」のセンター3人と同じような仕事だった。DFとしてはラノッキア、サムエル、キブ、ジュアンなどが供されるのだが、いずれもが生粋のストッパーでサイドバックとして守ったり、あるいはサイドを攻め上がったりするタイプではない。その結果として、両サイド、つまり長友やアルバロ・ペレイラの後ろに大きなスペースができてしまい、そこを使われる度に、センターバックがあたふたと駆けつけたり、ウィングバックが慌てて駆け戻ったりと、そんなドタバタが続いて、結局9位という成績に終わってしまった。

センターバックタイプの3人のDFを並べ、サイドを自由に使われていたブルガリア戦の日本代表を見ていて、僕はユベントスの柔軟な3バックではなく、インテルのバタバタした3バックを思い出してしまった。3バックというのは、うまく機能すればウィングバックに加えて、左右のストッパーまでが攻撃に参加。それでいて、場合によっては片方のウィングバックが戻って4バックになってみたり、さらに両サイドが戻れば5バックにもなれるし、ボランチの1人が戻ることもできる。相手の出方によって、さまざまに変化することのできる柔軟なシステムだ。

そして、それだけに相手にとっては対応が難しいが、同時に習熟することが難しいのも事実である。日本で3バックを最もうまく使っているのが、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の浦和レッズである。ボランチの阿部が戻って最終ラインに入ることで、両サイドのストッパーの槙野と森脇がどんどん攻撃に出て行く。両サイドが同時に前に上がっていく場合には、センターの那須と戻った阿部がセンターバックとなって守備ラインを保つ。左サイドからは、ウィングバックの梅崎に加えて槙野が顔を出し、右サイドは平川と森脇が上がっていく。そして、柏レイソル戦のように槙野や森脇の攻撃参加をしっかりケアされた場合には、中央から那須がボールを持ち出して仕掛けることもできる。

3バックを見事に完成させた浦和は、鳥栖戦、柏戦と、2試合連続で6得点。まさに、3バックの威力を見せ付けた。ところが、中断前の最終戦、仙台戦では浦和の攻撃も見事に止められ、1‐1で引き分けたものの、内容的には仙台が圧倒的に優勢だった。試合後、ペトロヴィッチ監督の口からは「これまでJリーグとACLの連戦で、十分にトレーニングする時間がなかった。浦和の難しいサッカーをやるには練習時間が必要なのに……」とちょっと弁解がましい言葉も出てきた。

そう、変化に富んだ3バックは魅力的なシステムだ。だが、難しいだけに十分に消化するためには、長い練習時間が必要なのだ。そう考えると、しっかり練習する時間もない日本代表でこのシステムは果たして機能するのだろうか?「親善試合だから新しいやり方にトライしてもいいはず」とザッケローニ監督。その通りだ。今、この試合でやらなくてどうするのだ。だが、後半になるとザッケローニ監督も3バックを諦めてしまったのだが、どうせなら途中で諦めたりせず、90分を3バックで貫き通すべきだったのではないだろうか?

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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