もう何年も欧州フットボールを見ている人であれば、エドガー・ダービッツの名を聞けば、「ああ、あのゴーグルのオヤジね」ということになるだろう。ダービッツは若かりし頃より、実にオヤジくさい顔をしていた。所謂老け顔というやつである。そのダービッツもフットボールの表舞台から姿を消して久しい。時は無慈悲に流れる物であり、フットボールの世界は新陳代謝が旺盛だ。今、ダービッツがどこで何をしているのか知っているのは、かなりのマニアか、あるいはゴーグル業界の人に限定されるのではないかと思う。ぼくもつい数日前にダービッツに関連した記事を読むまで、2013年のダービッツがどのような人生を送っているのかなんて考えもしなかった。要は、すっかり過去の人として、脳内の奥の方へしまわれてしまっていたのである。

2013年のエドガー・ダービッツはイングランドのリーグ2(4部リーグ)に所属するバーネットにて選手兼監督を務めている。現在のダービッツは相変わらずオヤジくさい顔をしているが(それはそうだ、40歳なのだから)、元々老け顔だったからか、「この人も年取ったなあ」感はあまりない。この辺が老け顔のアドバンテージである。落差があまりないので、久しぶりに会っても、「ややっ、変わらんですな」ということになる。若い頃に耐え忍んだ分を実際にオヤジになってから取り返す仕組みになっている。

監督としてベンチに佇むダービッツは、もちろんゴーグルなど着用していない。代わりに小粋なサングラスなんかを掛けたりして、音楽プロデューサーに見える。そんなダービッツが、今、英国でちょっとした話題になっているのをご存知だろうか。以下、数日前のテレグラフに掲載された記事の要約である。

ダービッツ率いるバーネットは目下リーグ2の残留争いをしており、先週末はその残留争いのライバルであるアクリントン・スタンリーに敵地で敗北を喫してしまった。失意のうちに帰路についたバーネット・サポーターたち。アクリントンからバーネットまでおよそ350キロの道のりだ。災難というのは得てして重なる物である。帰り道の高速道路でサポーターたちを乗せたバスがエンコしてしまった。寒空の下、立ち往生してしまったサポーターたちは途方に暮れたことであろう。

そこをバーネットのチームバスが通り過ぎた。寒風に身を晒し、路肩で替えのバスがくるのを待っているサポーターたちを見たダービッツは、運転手に次のサービスエリアへ入るよう命じ、選手たちをそこで降ろすと、高速道路を引き返し、サポーター全員をピックアップしたのである。サービスエリアに戻ってきたダービッツはサポーター全員にコーヒーをおごり、そこで替えのバスを待つよう指示した。

「高速の路肩にバスが停車していて、何人かのサポーターが寒いなか外で立っているのが見えたんだ。オレにとってはチームのためにできる最低限の手助けだったけど、バスで引き返して彼らをピックアップすれば寒い思いをさせなくてすむからね。バスで戻って、彼らを乗せるとすぐに雨が降ってきたから、引き返して良かったと思ったよ。全員無事救出ってわけさ」とテレグラフ紙に語ったダービッツ。なかなかいい人である。サポーターたちもさぞ驚いたことだろう。自分たちの前にチームバスが停まって、中からダービッツが出てきて手招きしたのだから。地獄に仏ならぬ寒空にダービッツ。状況設定といい、ほんのりと苦味の利いたハッピーエンディングといい、ほとんどケン・ローチの世界である。

同記事には、“ダービッツ・バス”に乗った幸運(?)なバーネット・サポーターの投書が紹介されている。

「見栄えだけはいいプレミアリーグを追い続けるのもいいだろう。ただ、あんな日はバーネットを応援していない限りやってこないんだよ」

おらが街の小クラブを応援する者の気概であり、華々しい負け惜しみである。ぼくはこういうの、割に好きですね。

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平床 大輔
1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」アメリカで過ごすも、1994年のアメリカW杯でサッカーと邂逅。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿。

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