雪の降りしきるホワイト・ハート・レーンでのトッテナム戦。前節は左サイドMFとして起用された香川真司は、この日はファン・ペルシーと組んで下がり目のトップ、セカンドストライカーとして起用された。香川の特徴が、最も発揮されやすいポジションである。だが、62分、ファーガソン監督は最初の交代カードとして、香川を退け、ルーニーを投入した。マンチェスター・ユナイテッドというチームにおける、現在の香川の立ち位置がよく分かる試合だったといえよう。

香川は、悪くはなかった。360度の視野が確保できる中央のポジションで、下がってボールを受けたり、パスをサイドにはたいたり、ディフェンスラインの裏に抜け出す動きを見せたり、その特徴は十分に発揮できた。実際、25分にクレバリーのクロスをファン・ペルシーがヘディングで決めた先制ゴール(決勝点)も、ジョーンズが中盤に顔を出した香川に入れたボールを香川がワンタッチでキャリックにはたいたところから始まった。スポーツ新聞は、よく日本人選手がちょっとでもボールに触ると「起点となった」と書くが、この場面は文字通り「香川が起点」と言ってもいいと思う。

その他にも、前半には前線のスペースを狙ってファン・ペルシーを走らせようとしたパスもあったし、後半は自らペナルティーエリア内に飛び込む場面も何度かあったし、決定的なシュートをはずした場面もあった。悪くはない……。そう、やはりファーガソン監督も可能性を感じるからこそ、ルーニーをベンチに置いた試合で、香川を中央のポジションで使うのである……。

だが、62分に香川に代わってルーニーが入った後の試合の流れを見ると、ルーニーの方が信頼感が高いのが分かる。まあ、当然のことだろう。「イングランド代表と日本代表」という意味ではない。このマンチェスター・ユナイテッドというチームに長く在籍し、ゲームのリズムに慣れているルーニーと、今シーズン加入して、かならずしも全試合フル出場しているわけではない「新人」との間に差があるのは当然のことである。そして、やはり、守備力、フィジカルの強さという意味で、香川とルーニーには大きな違いがある。

香川も守備の意識は当然強くなっている。相手の動きをチェックには走る。だが、そこで体をぶつけてボールを奪いにいく強さはない。前半、守備に入った香川がデンプシーの襟のあたりを引っ張って倒してしまった場面(レフェリーが見逃したため、香川はその後、トッテナム・サポーターのブーイングを浴びることになる)。やはり、一発の当たりで相手をコントロールする強さが足りないのは明白だ。

1点をリードし突入した後半。トッテナムの攻撃の圧力が強くなっていた時間帯。しかも、雪が積もることはないものの、ピッチはスリッピーで重い……。ファーガソン監督が、早めに香川を退けて、ルーニーを入れたくなった気持ちはよく分かる。しかも、ルーニーは何度か決定機を演出もしていた。ファン・ペルシーという絶対的なトップが君臨している、今のマンチェスター・ユナイテッド。ファン・ペルシーとツートップを組む相棒のファーストチョイスがルーニーであるのは間違いない。

そうなると、この2人が出場する試合で香川を中央でプレーさせるとすれば、中盤をダイヤモンド型にして、香川を「トップ下」で起用するしかない。だが、このチームは、これまでセントラルMFを2人を並べるいわゆる「4-4-2」で戦ってきた。今シーズン、ダイヤモンド型MFにトライした試合もあるが、必ずしもうまく機能したわけではない。今後の過密日程を考えれば、新しい戦術に挑戦している余裕もない。そして、今、チームの状態は良くなっているのだから、変化を求める理由は何もない。もちろん、カップ戦などで、ダイヤモンド型を使う試合はあるかもしれないが、基本は4-4-2であろう。

香川の居場所は、確保されるのだろうか?やはり、現状では得意ではないサイドMFであっても、出場機会を増やすのが香川にとっては最善であろう。そうして、このチームの、あるいはプレミアリーグの試合のリズムを体に身につけさせ、また、トップ下以上に守備が要求されるサイドMFというポジションで守備の感覚も身につけていくこと。それが、将来につながるのだろう。

将来的には、マンチェスター・ユナイテッドというチームに、あるいはサー・アレックス・ファーガソン監督にシステム変更を決意させるのか、あるいはルーニーとのポジション争いに勝つのか。それが、香川がこのチームで生きていく道になるのだろう。ルーニーも、年齢によって下がり目のポジション、つまりMFとしてプレーする選択もあるはずだ。

いずれにしても、高いレベルでの戦いであって、そう簡単に中央でのポジションが確保できるわけではない。決定的な能力の高さを見せ付けなければならないだろう。だが、そんな高いレベルでの競争ができる環境に身を置けるのは、幸運としか言いようがない。香川真司のこれからの成長を見守りたい。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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