初めての試みとなった「J1昇格プレーオフ」。決勝戦では、終了間際に林丈統の決勝ゴールが決まって大分トリニータの昇格が決まるまさに劇的な展開となった。

面白かった!

試合の技術的、戦術的レベルとしてはそれほど高いものではない。J2の5位と6位の戦いなのだから、当然である。しかも、戦力的にかなりの差があったので、大分はやりたいことが何もできない展開となった。そもそも、上位ということで「引き分けでもいい」立場の千葉が常に試合をコントロール。大分は時折カウンターからチャンスをつかむだけ……。そんな試合だったのだ。普通の状況のリーグ戦で、ガラガラのスタジアムで見ていたら、さぞかし退屈なゲームだったことだろう。

だが、この試合は懸かっているものが違う。選手個人とクラブの将来を懸けた試合なのである。選手もピッチ内でヒートアップ。激しいぶつかり合いがあちこちで起こった。しかも、「引き分けでもリーグ戦上位の千葉が昇格」というルールがあるので、この試合には「同点」という状況がないのだ。

だから、0‐0で時計の針がどんどん進んでいくと、大分の田坂和昭監督がいつリスクを負って攻撃のカードを切ってくるのか。そして、それに対して千葉の木山隆之監督がどう対処するのかという興味も深まってくる。大分はまず木島悠に代えて林を入れるFW同士の交代を行い、続いて84分についにDFの土岐田洸平を退け、FWの高松大樹を投入して、最後の勝負に出た(最後はワンバックシステムをやるつもりだった、と田坂監督)。そして、その直後に林のゴールが生まれたのだ。

DFの安川有が頭でつないだボールを森島康仁が前線に送り込み、斜めに走り込んできた林がワンタッチで見事にコントロール。出てくる千葉のGK岡本昌弘の動きを見て、ループで狙った。いかにも林らしいゴールだった。設定も、試合展開も、そして、最後の決勝ゴールも、すべてが試合を面白くしてくれた。

国立競技場には普段のJ2リーグでは考えられない27,433人もの観客が入った。日本サッカー協会名誉総裁の高円宮妃殿下まで臨席になり、記者席は普段ならJ2など見向きもしないような人たちも詰め掛けて満員状態。まるで、「準決勝までは誰も関心を持たないが、決勝だけは満員御礼」というヤマザキナビスコカップ決勝のような雰囲気だった。

主催者であるJリーグも、運営と盛り上げにがんばっていた。おそらく、いずれはこの大会にもスポンサーを付けてさらに大規模な大会にしていきたいのだろう。Jリーグにも、J2のクラブにも資金が流れ、選手もプレッシャーのかかる激しいゲームを経験できる。僕たちも面白い試合を見ることができる……。どうやら、大会は大成功に終わったようである。

だが、ちょっと待ってほしい。

結局、J1に昇格したのは、今シーズンJ2で6位に終わった大分トリニータだったのだ。3位に入った京都サンガF.C.、4位の横浜FC、そして5位のジェフ千葉の立場はどうなるのだろう……。まあ、4位以下のチームは「チャンスをもらった」のだから、どこも昇格プレーオフ制度に不平は抱かないだろうが、昨シーズンまでのレギュレーションなら昇格が決まっていたはずの京都にとっては、涙のプレーオフ制度だったということになる。

それで、いいのだろうか?そもそも、ホーム&アウェーのリーグ戦というのは、チームの実力を最も公平に映し出す大会形式であり、それ故、1888年にイングランドでフットボール・リーグが発足して以来、世界中で採用され続けている大会形式なのだ。そのリーグ戦の昇格という重大事を決めるのに、なぜ、わざわざ一発勝負のトーナメントが必要なのか?

面白い?選手にいい経験になる?それなら、何も3番目の昇格チームだけではなく、3チームすべてをプレーオフで決めたらどうなのか?いや、7番目のチーム、8番目のチームにもチャンスを与えたらどうだ?いやいや、J1の3番目の降格チーム(16位)もプレーオフにしたら……。いやいやいや、J1優勝もプレーオフを取り入れたらどうだ?

プロ野球のクライマックスシリーズの例があるし、サッカー界でもアメリカ合衆国やオーストラリアのリーグではプレーオフをやっている。「それはおかしい」と、サッカーファンなら思うはずだ。それなら、訊きたい。なぜ、3番目の昇格チームはプレーオフで決めるのか?

今シーズンの昇格プレーオフは、大成功だった。しかし、それはまるで申し合わせたように2位から6位までが勝点1ずつの差で並び、6位と7位の間に勝点5の差が生じたという偶然の結果にもよるものだ。もし、5位と6位の間に「勝点10ポイント」といった大差がついており、そして、その6位のチームが昇格を決めてしまったとしたら、「プレーオフはあまりに不合理」という声が上がったていたことだろう。実際、来シーズンはそうなるかもしれない。

昇格プレーオフという制度は、イングランドで始まって、2部(チャンピオンシップ)からプレミアに昇格する3番目のチームを決める大会として続けられている。決勝はウェンブリーで行われ、満員の観衆を集める人気イベントであるそうだ。おそらく、イングランドという国は、FAカップが最高の人気を誇っているように、カップ戦の文化の強い国だから、こういう大会が認められているのだろう。

さて、そういう、さまざまなことを考えると、日本でもこのプレーオフ制度を今後も続けていくべきか否か。大いに議論されるべきだと思う。ちなみに、僕の結論は、「3番目の昇格チームを決める」ところだけはプレーオフがあってもいいと思う。だが、これ以上拡大してはいけない。優勝チームをプレーオフで決めるなどというのは、絶対にやってはいけないことだ。

また、リーグ戦での勝点差が大きかった場合の規定を作っておくべきだと思う。たとえば、今シーズンのレギュレーションだと、ただ「リーグ戦での上位チームが引き分けでも昇格」となっているだけだが、さらに「勝点差が4ポイント以上の場合は、4ポイント1ゴールの割合で上位チームにアドバンテージ(下位チーム側から見ればハンディキャップ)を与える」といったルールを設けたらどうだろうか。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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