マンチェスター・ユナイテッドの香川真司が、トッテナム戦でプレミアリーグでの2ゴール目を決めた。初得点は、味方のシュートのこぼれ球を蹴り込んだだけだったが、今回はペナルティーエリアに入ったスペースのないところでボールを受け、左足、右足とツータッチで抜け出し、左足でコースを狙った、香川らしいすばらしいゴールだった。

試合は「ホームでの敗戦」という結果で、チームは3位に順位を落としてしまったので喜びも半分だろうが、後半はゲームを支配することができていた。前半は「いいところがない」ゲームだったが、後半に入って、ルーニーが入ったことでチームが生き返った。重傷を負っていたルーニーだが、相手の嫌なスペースに入り込む動きや、ボールを持った後のパスコースの選択など、やはりルーニーがいてこそのマンチェスター・ユナイテッドである。

そのルーニーのことは、また別の機会に取り上げるとして、気になるのは香川真司のポジションだった。9月には、日本代表での香川の起用法が多くの雑誌で取り上げられ、僕のところにも、複数の雑誌から同じような「お題」でアンケート的な原稿の依頼があった。つまり、「日本代表のトップ下は本田圭佑か、香川真司か」というものだ。

香川は、ドルトムントでも、マンチェスター・ユナイテッドでも、トップ下で起用されることが多く、トップ下からペナルティーエリア内に走り込む動きと、その動きの中でのテクニックによって得点に絡む活躍を続けている。トッテナム戦のゴールなども、その典型的なものだ。

ところが、日本代表のザッケローニ監督はトップ下は本田の定位置と考えているようで、香川は左サイドに固定されている。たとえ、本田がいない状況でも、本田に代わって中村憲剛がトップ下に入り、香川は左サイドだ。そこで、香川が活躍できていれば問題ないのだが、日本代表のために左サイドでプレーする香川には、ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドでのような輝きが見られないのだ。

いくつもの雑誌から同一テーマの原稿依頼があると、いろいろ書き分けたくなるものだ。だが、僕は、このコラムでも前から書いているように、「やはり香川はトップ下で使うべきだ」と思っているので、いずれの雑誌のも「香川はトップ下でこそ生きる。本田も、本来、適正としてはトップ下の選手だが、どこでもプレーできる。やはり、そのフィジカル的な強さを生かして、本田はトップ起用がふさわしい」という趣旨の原稿を書かせてもらった。

本田はボランチもできるが、本田が中盤でゲームメークをすると、キープの時間が入るのでパスの回り方が遅くなる。それは、今の日本チームが目指しているサッカーとは違う(CSKAモスクワでは、本田がボランチに入ると、逆にパスの回り方が早くなる。それは、チームの特性の違いによるものだ)。トップでボールを収めることこそ、本田にしかできない役割ではないか。

さて、トッテナム戦である。前半のマンチェスター・ユナイテッドは、ファンペルシーがワントップで、香川はトップ下という縦の関係だった。そして、攻撃の形が作れず、香川にパスが回ってくる場面もほとんどなく、さらに守備のミスから失点するという、マンチェスター・ユナイテッドにとって最悪の展開が続いていた。

そして、後半、ルーニーを入れたマンチェスター・ユナイテッドは、ファン・ペルシーとルーニーのツートップ。そして、香川は左サイドにオリジナル・ポジションを移し、そこから中に入ってプレーするように位置取りを変えた。そして、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃陣は活性化し、結局、守備の弱点を衝かれて失点を重ねはしたものの、2ゴールを奪うことには成功したのだ。日本代表では左サイドで輝かない香川が、この試合では左サイドに移ったことで輝くことになったのである。

さて、この状況をどう考えるべきなのか……。

日本代表での左サイドとの大きな違いは、トップ下にスペースがあり、香川がそのスペースを自由に使えた点である。サイドに開くことによって、相手のマークも緩む。しかし、状況が良い場合には、自由に中に入ってプレーできる。そうした、動きの中からあの得点場面が生まれたのだ。ところが、日本代表の場合は、明確な4-2-3-1の形。2列目の中央には本田という確固たるトップ下が君臨しているのだ。もちろん、本田という選手はエゴイストではないから、香川との関係にも気を配り、状況に応じてポジションを空けたり、自らがサイドに出たりと、チーム全体の動きを考えてプレーしている。そこが、本田という選手の良さでもある。だが、本田は、トップ下で動き回るタイプではない。しっかりと、そこでポジションを取って、くさびのボールを受けて、しっかりとキープすることでチームの動きを良くする。それが、彼の仕事であり、日本人選手でそういう仕事ができるのは本田だけなのだ。

本田が、たとえばルーニーのように、絶えず動き回るタイプのトップ下なら、香川も左サイドで輝くことができるだろう。だが、本田はそういうタイプではない。そうなると、日本代表で香川を輝かせるためには、どうすればいいのか。答えは2つだろう。4-2-3-1のフォーメーションのまま、本田をワントップで起用し、香川にはトップ下でプレーさせること。そして、もう1つの答えは、トッテナム戦のルーニーのように、本田をツートップの一角とすること。本田はルーニーのようには動かないが、セカンドストライカーのポジションでしっかりタメを作ることで、香川がペナルティーエリアに入り込んでいく時間を作ることもできるはず。トップ下に絶えずスペースが空いていれば、そこを香川と右サイドのMF(岡崎慎司?清武弘嗣?)が使うこともできる。

とにかく、「トップ下の本田+左サイドの香川」のままでは、香川の能力を最大限に生かしきることができないのは明らかだ。アジア予選ならそれでいいだろうが、ワールドカップで勝つためには、香川を生かせないのでは、あまりにももったいない。10月のヨーロッパ遠征では強い相手とせっかく2試合もあるのだ。1試合は、新しいことにチャレンジしてもらいたいものである。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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