8月24日に12-13シーズン・ブンデスリーガが開幕して早1カ月。日本人選手では清武弘嗣(ニュルンベルク)や乾貴士(フランクフルト)ら新規参入組の活躍が目立つ。その傍らで、ドイツ組の草分け的な存在である日本代表キャプテン・長谷部誠(ヴォルフスブルク)がかつてない苦しみを味わっている。8月25日の今季開幕戦・シュツットガルト戦でベンチ外になったのを皮切りに、ハノーファー96戦、アウグスブルク戦、グロイター・フルト戦、バイエルン・ミュンヘン戦と5試合連続で控えにすら入れていない。2008年1月の渡独から5シーズンを戦ってきたクラブでこういう扱いを受けるのは初めて。本人としても、どうしたらいいか途方に暮れているに違いない。

事実上の戦力外になる発端は、8月初旬のオーストリア合宿帯同を見送られたこと。移籍当初からの恩師であるフェリックス・マガト監督に「途中で日本代表のために離脱するのなら意味がない」と判断されたのは、本人としても青天の霹靂だっただろう。8月のベネズエラ戦(札幌)で帰国した際には「代表に来たら代表のことに集中するだけ。移籍のことは話したくない」と懸命に雑音をシャットアウトしようとしていた。アルベルト・ザッケローニ監督や日本代表選手たちにとっても絶対的キャプテンがクラブで微妙は立場に置かれているのは大きな懸念材料に他ならない。誰もが8月中に新天地が決まることを願っていたはずだ。

だが、8月末に吉田麻也のサウサンプトン移籍、大津祐樹のVVVフェンロ移籍が続々と決まる中でも長谷部には動きがなかった。水面下ではかなり積極的なアプローチがなされたのだろうが、28歳という年齢、ボランチというポジション、攻守両面で際立った特徴を持たないことなどが災いして、欧州内での移籍がまとまらなかったと見られた。この時点ですでにJリーグの移籍期限は締め切られており、日本復帰の選択肢も取れなかった。最終的に本人は「残留することに決めました」と公式ブログで発表したが、この時点で当面は試合に出られないことを覚悟していたのではないだろうか。

長谷部にとって幸いなのは、11月までは日本代表戦が頻繁に組まれていること。9月は6日にUAE戦(新潟)、11日のイラク戦(埼玉)があり、約10日間日本で集中して練習とゲームをこなすことができた。「個人的には90分なんとかって感じ。自分の中でやっててフィーリングのあうところ、ないところもあったし、チームが勝ったことはよかったですけど、個人的には満足できないですね」とイラク戦後の自己評価は厳しかったものの、久しぶりに90分プレーできた満足感が全身にみなぎっていた。この2試合でドイツに戻ったが、10月には12日のフランス戦(サンドニ)と16日のブラジル戦(ブロツワフ)があり、再び10日間は緊張感のある中でサッカーができる。11月にも14日にオマーン戦(マスカット)がある。試合に出なければコンディション低下は避けられないだろうが、メンタル面の方は何とか維持できそうだ。

加えて、日本代表で長谷部のポジションを脅かしそうだった細貝萌(レバークーゼン)も、新天地ではボランチでなく左サイドバックでのプレーを余儀なくされている。しかもリーグ戦にほとんど出場できていない。そんな事情もあって、当面は長谷部の地位は安泰だろう。ザック監督も最終予選突破までは長谷部・遠藤保仁(G大阪)の鉄板ボランチを変えることは考えにくい。最低でも年内までは長谷部の地位は約束されているはずだ。

しかし、この状況が来年も続いたら、2014年ブラジルワールドカップ本大会への道が一気に険しくなる。いくらキャプテンといえども、試合勘の不足はプレーの質の低下に直結するからだ。そのことは長谷部自身も十分承知しているはず。とりあえず今は方向性がコロコロ変わるマガト監督のもとでわずかな出場の可能性を伺うしかないが、冬の移籍市場では大きな決断を下さざるを得ない。欧州に残りたい気持ちはまだまだ強いだろうが、ドイツやイングランドなど欧州主要リーグに新天地を見出せないことも十分考えられる。その時、彼はどうすべきか…。

1つの道は、先ごろブルガリアのスラビア・ソフィアに移籍した松井大輔のように、欧州中堅リーグへ行くことだ。が、環境面や年俸を含めて待遇面はドイツとはかけ離れている。ヴォルフスブルクしか知らない長谷部にとっては逆にコンディションを崩す可能性もゼロではない。もう1つがJリーグ復帰という道だが、その選択はモチベーションの低下を招く恐れを伴う。阿部勇樹や槙野智章(ともに浦和)のように頭を切り替えて、国内トップを目指す気持ちになれれば、後者の方がいいのかもしれない。実際、駒野友一や前田遼一(磐田)のように国内で年齢を重ねて成長している選手はいる。そういう選手たちとじっくり話してみるのもいいだろう。

いずれにしても、長谷部の今後はザックジャパンの近未来に左右する重要なテーマ。今後の動向を慎重に見守りたい。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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