香川真司の欠場に象徴されるように、日本代表の各選手のコンディションはバラバラな状態だった。暑い夏を戦い抜いてシーズン終盤を迎えようとしているJリーグ組、開幕したばかりのヨーロッパ組(本田圭佑の所属するロシア・プレミアリーグは開幕から1か月半)。そして、オリンピックに参加した選手もいる……。そうした、ちょっとしたことでコンビネーションが狂ってくる。それがサッカーの難しさだ。長い調整期間を与えられた6月の3連戦とは、明らかに違うチーム状態だった。

コンディションの問題に悩まされたのはイラクの場合も同じ。いや、こちらの方が深刻だったかもしれない。そもそも、中東地域は夏は摂氏40度以上の猛暑に見舞われるために、現在はまだシーズンオフ中なのだ。国内組の中には、所属クラブが活動を停止している選手もいるし、他の中東諸国でプレーしている選手はシーズンオフのうえに、代表への合流も遅れている。そんな苦しい中での遣り繰りとなった両チーム。監督のアプローチはまったく違うものだった。

日本のザッケローニ監督は、腰痛で欠場した香川の代わりに清武弘嗣を入れ、出場停止の今野泰幸と内田篤人に代えて伊野波雅彦と駒野友一を入れた以外は、いつものメンバーをそろえてきた(その結果、両サイドにはコンディションの良い岡崎慎司と清武が入り、守備面でもプラスになった)。一方、イラクのジーコ監督の方は、20歳前後の若い選手、代表デビュー戦となる選手を多数入れてきた。2007年アジアカップ優勝時の主力ナシャト・アクラムやユーヌス・マフムードは「90分動ける状態ではない」ということでベンチスタートだった。

このあたりは、日本代表時代にも何度か選手の「総取っ替え」をやってのけたジーコ監督らしい。試合が始まってみると、大抜擢されたイラクの若い選手たちはアグレッシブに日本に対して挑んできた。前線から激しくプレッシャーをかけながら、ボールを失うと、すぐに自陣に引いて守備を固める。そして、狙いはカウンター。そんな戦い方だった。そして、開始4分。アハメド・ヤシーンが蹴った右CKにアハメド・イブラヒムがニアで合わせて決定的なチャンス。アハメドのヘディング・シュートが日本のゴールを脅かす。このピンチは川島永嗣が辛くも防いだが、これで日本の選手の間には動揺も走った。

ジーコ監督としては、この若い選手たちに運命を委ねたのだろう。彼らが頑張って、0-0のまま終盤を迎えれば、ナシャト・アクラムやユーヌス・マフムードといったエースを投入して勝負をしかける。0-0ならもちろん、0-1で後半に入ってもいいわけだ。1点リードされていたとしても、最後にベテラン勢投入によって同点のゴールが決まれば勝点1が取れる。日本とのアウェーで勝点1取れれば、イラクとしては大成功である。日本は、そんなイラクの前線からのプレッシャーに押し込まれてしまう場面すらあった。

そんなイヤな流れを変えたのは、ザッケローニ監督の指示だった。ザッケローニ監督は、中盤で遠藤保仁と長谷部誠に対してイラクが激しくプレッシャーをかけてきたので、センターバックの伊野波と吉田麻也に、もっとサイドのスペースに開いて、サイドを使うパスを出せと指示したのである。そして、両サイドバック(駒野と長友佑都)は両サイドの高い位置に張った。

たしかに、序盤戦の日本、とくに4分の決定的なピンチの後は、攻め急いだ印象だった。相手が、スペースを埋めて待ち構えているところに縦パスを入れて、ボールを奪われる場面があった。「サイドを使おう」というのは、試合前からのプランだったのだろうが、焦りからか攻撃が中央に偏ってしまっていた。そこで、「中央の遠藤や長谷部、あるいはトップの前田や本田に縦パスを通すのではなく、早めに外に開け」という指示だった。その結果、吉田や伊野波が左右両サイドの駒野や岡崎、長友や清武に早いタイミングでパスを通す場面が増えて、そこからチャンスが生まれるようになっていった。

一方、中盤の遠藤は監督の指示を待つことなく、事態に気がついていたようだった、さすが、である。遠藤は深い位置まで戻ってパスをゆったりさばいて、チーム全体に「攻め急ぐな」、「しっかりキープしてポゼッションを増やそうというメッセージをこめた。こうして、ザッケローニ監督の指示でサイド攻撃が増え、遠藤の判断で焦らずにキープする。そんなサッカーが実現できると、13分過ぎ以降、試合は完全に日本のペースとなった。そして、25分にはスローインからのサインプレーで日本が先制する。

右サイドのスローインを駒野が投げようと思った瞬間に、岡崎が猛然とDFの背後に走りこみ、その岡崎が上げたボールを、まったくフリーの前田遼一が決めた。FKやCKについては、ジーコ監督もかなり警戒していたらしいが、さすがにスローインからのサインプレーまでは気がつかなかったようで、見事に前田がフリーになって決めたゴールだった。

その後、チャンスはいくつも作るが、シュートが枠に飛ばなかったり、GKのヌール・サブリの好セーブにあったりで、とうとう追加点は奪えなかった。しかし、このグループの中では強豪と言えるイラクに完勝したのは、今後、大きな自信となることだろう。イラクのように、相手が予想外の出方をしてきても、すぐに監督の指示と選手の判断で試合の流れを変えて、コントロールする。日本チームが成熟している証拠である。それを、今回のような悪いコンディションの中でも実現できたのである。

次の代表の活動は、10月のヨーロッパ遠征だ。「遠征」とはいえ、ヨーロッパでプレーしている選手たちにとっては移動の負担がない試合である。ここで1週間調整してフランス、ブラジルに挑む「遠征」。8月のベネズエラ戦、9月のUAE戦、イラク戦とは違った、ベスト・パフォーマンスの試合を期待したい。

さて、もう一つの試合では、オーストラリアがアウェーでヨルダンに負けた。日本の勝点10に対して、2位のヨルダンが勝点4。他はすべて勝点2。日本にとっては、ますます有利な状況となった。11月のオマーン戦で勝ち抜けが決まってしまう可能性すら出てきた。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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