6月3連戦で2勝1分の勝ち点7を確保し、2014年ブラジルワールドカップアジア最終予選で目下、ダントツの首位に立っている日本。11日の第4戦・イラク戦は1つの大きな山場。「ここで勝てばかなり有利になる」と遠藤保仁(G大阪)もこの一戦の重要性をよく理解しているようだった。その遠藤と駒野友一(磐田)、長谷部誠(ヴォルフスブルク)の3人にとって、イラクの指揮官であるジーコは自身を代表に初招集してくれた監督。それぞれに思い入れがあるようだ。

「4年間ずっと一緒にやってきていろいろ学んだ人。お世話になった監督なんで会うのは楽しみ。ありのままの自分を見せたい」と遠藤が言えば、駒野は「自分の代表の始まりはジーコさんなんで、こういう形で対戦できるのはうれしく思うし、成長したところを見せたい。当時との一番の違いは自信だと思う。経験も年齢も重ねているから」と静かに語った。一方の長谷部は「最初に代表に呼んでくれたことに対して恩がある。ただ『代表には順序がある』と言われて、欧州組の牙城は崩せなかった。最後の最後に呼ばれた自分にはチャンスがなくてドイツワールドカップには行けなかった。でも代表の立場も変わったし、 そういうところを見せたい」と当時の複雑な状況に思いを馳せていた。

3人はジーコジャパン時代にそれぞれ苦境を味わっている。遠藤は2004年アジアカップ(中国)優勝を筆頭に、国内組中心の構成で挑んだ大会ではコンスタントに試合に出ていた。が、肝心な2005年コンフェデレーションズカップ(ドイツ)など主要大会ではつねに中田英寿や福西崇史(現解説者)らの控えに位置づけられた。2006年ドイツワールドカップ本大会でもフィールドプレーヤーで唯一出場機会を得られなかったことは広く知られている。

しかし主力と控え組の温度差がクッキリ表れたこの大会で、遠藤は決してブレず、献身的にチームを支えようしていたのが記憶に新しい。こうした姿勢を買われてオシム、岡田ジャパンで不動の地位を獲得し、ザック体制でも絶対的ボランチに君臨する。彼にとって11日のイラク戦は国際Aマッチ121試合目。順調にいけば、10月12日のフランス戦(サンドニ)で井原正巳(現柏コーチ)の持つ122に並び、16日のブラジル戦(ヴロツワフ)で最多キャップ数に到達する。本人も「ここまで来たら多少は意識する」と本音を漏らしたが、ジーコ時代からの地道な積み重ねがあったからここまで来たのだ。ドイツから6年間で磨きをかけたパスワークや戦術眼を恩師の前で改めて示すことができるのか。今回の一戦はまず遠藤に注目したい。

駒野に関しては、2005年8月の東アジア選手権(韓国)・中国戦で初キャップを飾り、ドイツ本大会にも参戦した。ところが、負傷した加地亮(G大阪)の代役で右サイドで先発した初戦・オーストラリア戦(カイザースラウテルン)は屈辱的な逆転負け。しかも1-2でリードを許した後半ロスタイムにアロイージ(現メルボルン・ハート監督)のドリブル突破にかわされ、3点目を奪われるという致命的なミスを冒した。「あの逆転負けはすごく悔しい」と本人もあの屈辱的なシーンを今も忘れていないという。

代表での立場はオシム時代に左サイドのレギュラーになった以外、つねにバックアップ役という位置づけだが、それでも腐らないのがサイド職人の素晴らしいところ。今回も内田篤人(シャルケ)の出場停止、酒井宏樹(ハノーファー)の左足首負傷悪化によってスタメンのチャンスが回ってくる可能性が高い。そこで何をするかが肝心だ。ドイツではジーコを失望させたが、今回は敵将であるジーコを別の形で落胆させられれば、駒野も溜飲が下がるはず。彼の奮闘も必見といえる。

そして最後に長谷部だが、本人がコメントしているように、2006年2月のアメリカ戦(サンフランシスコ)で代表デビューを飾った22歳の若武者が中田、中村俊輔(横浜)、小野伸二(清水)ら当時、欧州で実績をつみ重ねるMF陣の中に割って入るのは困難だった。今のザッケローニ監督もリスクを嫌う序列主義者ではあるが、ジーコはその傾向がより強かったから、最終予選に貢献しなかった駒野や巻誠一郎(東京V)が代表入りしたのはサプライズに他ならなかったのだ。

その後も長谷部はなかなか代表に定着できなかったが、2008年1月の渡独を機に急成長。今では遠藤と鉄板ボランチを形成する。しかし今はクラブで出場機会に恵まれず、実戦感覚が鈍っているため、動きに以前のようなキレがない。今回は遠藤がイラク守備陣に激しいマークを受けるのは確実だし、今野泰幸(G大阪)不在もあって最終ラインの不安定さも拭えない。そういう状況下で長谷部が攻守両面でしっかりとサポートしてくれないとチームの歯車が崩れる可能性は大いにある。本人も「まだ完全に試合勘は戻っていない」とは言うものの、コンディションの部分は自分自身で解決するしかない。今こそ奮起し、かつての指揮官に逞しくなった姿を見せつけ、「強い日本」を強烈にアピールしてほしいものだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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