最近、ある国に行ってきたという某アナウンサーの話を聞いたところ、なんでも香川真司のデビュー戦となったエバートン戦の後、その国のテレビが朴智星(パク・チソン)のデビュー戦との比較をやっていたそうである。

つまり、「朴智星はデビュー戦を勝利で飾ったのに、香川のデビュー戦は負けだった」というわけだ。いかにも、その国の人が言いそうなことだ(笑)。まあ、そういう意味ではホーム・デビュー戦となったフラム戦はなんとか逃げ切れてよかった。あれで追いつかれていたら、その国の人たちは「ほらみろ。香川はまだ勝てない!」と大喜びだったことだろう。

さて、香川真司のホーム・デビュー戦は、マンチェスター・ユナイテッドでの初ゴールが生まれた記念すべき試合となった。ユナイテッドでの初勝利を自らの決勝ゴールで手繰り寄せたのである。たいしたものだ。もっとも、ゴール自体はかなりラッキーなものだった。CKくずれから味方が打ったシュートを相手GKが弾いたボールが、たまたま香川の足元に転がってきたので、それを蹴り込んだというゴールだ。あそこで慌てて強く蹴ってGKに当ててしまったりしないところが香川らしい。

ちなみに、実況のアナウンサーは「オフサイドじゃないか」とだいぶ気にしていたけれど、シュートの瞬間には間違いなくDFが残っていたので、まったくオフサイドの可能性はない。初ゴールはラッキーだったが、直後にゴールエリア付近でボールを受けて、持ち替えてシュートを打った場面があったが、シュートはポストに当たってしまった。後半にもドリブルで持ち込んで強引にシュートを打つ場面もあったのだから、香川に初ゴールが生まれたのは必然の流れだったかもしれない。いずれ、香川が点を取っても誰も驚かなくなるだろう、ドルトムント時代のように。

しかし、ゴールを除いて、68分のプレーで香川はエバートン戦ほどのインパクトを残せなかったように思える。単純なワンツーで戻すパスがズレてしまったり、呼吸が合わなかったり。前半などは、味方からのパスが回ってこない時間もかなりあった。うまくいかなかった原因は雨だろう。断続的にかなり強い雨が降っていて、ピッチもボールも濡れていた。そのため、ワンタッチでのコントロールが難しくなってしまったのだろう。足元に入ったボールをワンタッチでパスしたり、ワンタッチで次のプレーに移りやすい所に置いてすぐにドリブルに入ったり、そういう「ワンタッチ」を使ったプレーが、雨のせいで封じられてしまっていたように見えた。

だが、ワンタッチ・プレー以外は良かった。味方からのパスをワンタッチで処理せずに、回り込んでそのボールの勢いを生かしてドリブルに入ったり、一度ボールをしっかりキープして一瞬のタメを作って、フリーでいる味方にパスを送ったり、逆サイドに展開する。そんなプレーによって、香川真司はマンチェスター・ユナイテッドの攻撃に速さを加えていた。68分に香川が退いてからは、トップにルーニーとファンペルシーが並ぶ形(ルーニーが前、ファンペルシーが後ろの縦の関係)だったが、トップ下でボールをさばける選手がいなくなって、攻撃は滞った。

メンバーが大幅に入れ替わったせいもあり(強豪チームが開幕直後にもたつくことはよくある)、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃はまったく機能していない。ボールを持ちすぎる選手が多く、また、パスをつなぐにしても、短いパスばかりだから自分たちでスペースを消してしまって、密集の中に突っ込んで止められてしまう。その繰り返しだ。そんな中でシンプルにパスをつなぎ、また、遠い選手にまで目を配って配球できる香川の存在感がいっそう際立つ。

「香川真司がマンチェスター・ユナイテッドに入団」と聞いたとき、誰もが「本当にやっていけるのか?試合に出られるのか?」と疑問を抱いたのではないか。開幕戦から2戦連続で先発出場などと予想できた人はそれほどいなかったことだろう。だが、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃を1人で組み立てているのを見ると、香川はもうマンチェスター・ユナイテッドの立派な一員どころか、中心選手という立場にあるようにさえ見える。

もう、香川はこのチームの中心選手なのだ。周囲の若い選手がそのことに気づいて、香川にボールを集めるようになれば、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃もだいぶ活性化するだろう。パスの几帳面さや、前からしっかり相手ボールを追い回す動きなどは、日本人FWの特徴でもある。そういう日本的なサッカーという物差しを当ててみると、マンチェスター・ユナイテッド・クラスのチームの選手たちでも(中心の数人以外は)「かなりアバウトなサッカーをしているんだな」という印象を持たざるを得ない。

スコールズやギグス、ルーニーといったクラスの選手たちは、個人技の部分でも、プレーの読みの部分でも圧倒的に高いレベルにある。だが、そういう中心選手が抜けてしまうと、彼らはゲームをコントロールするのが難しくなってしまう。それと対照的に、香川真司の几帳面なプレーが目に付く。日本のサッカーは、やはり、こういう繊細なボール扱い、緻密なパスなど、良くも悪くも協調性が特徴なのだろう。それは世界に誇るべき特徴なのである。

★香川、プレミア初ゴール!マンチェスター・ユナイテッド vs. フルアム リピート放送
8月27日(月)21:00 J SPORTS 2

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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