オリンピックがようやく終わったと思ったら、今度はフル代表の親善試合がある。札幌ドームでのベネズエラ戦である。つい数年前だったら、ベネズエラなどは南米の弱小国に過ぎなかったのだが、昨年のコパアメリカではアルゼンチンよりも、ブラジルよりも上のベスト4に進出。南米のチームはこういう親善試合でも手抜きをせずに戦いを挑んできてくれるので、そう楽な試合にはならないだろう。

しかも、日本にとっては8月15日の試合というのは、条件的に厳しい試合となる。今や日本の主力となった「海外組」の多くはシーズンオフ明けなのだ。もちろん、開幕直前で選手たちには疲れもたまっていないし、フィジカル的には万全のコンディションにあるだろうが、何しろ試合から遠ざかっており、ゲーム勘とかゲーム体力は失われている。

一方で、Jリーグの選手たちは、真夏の暑い時期に連戦をこなしており、とくにヤマザキナビスコカップに出場しているチームの選手は、「週2試合」の過密日程が続いており、疲労のピークにある。また、オリンピックチーム主将を務め、6試合を戦い抜いたばかりの吉田もフィジカル的にも、メンタル的にも疲労がたまっているのは当然だ。

そんな難しい状況の中、ヨーロッパの中でも一足早く開幕したロシア・プレミアリーグですでに4試合を戦っている本田は、最も良いコンディションで戦えることだろう。開幕して約1か月、ちょうどフィットしてきた時期だ。しかも、チーム(CSKAモスクワ)の不調をよそに、本田自身は開幕から4試合トップ下という本来の(=代表と同じ)ポジションでキレのある動きを見せている。好調なのである。少なくとも、ベネズエラ戦の日本の攻撃の中心は本田で決まりだろう。

さて、そこで、そろそろ本気で考えておかなければならないのが、本田と香川をどう共存、両立させていくのかという問題だ。香川の方は開幕前であり、また世界を飛び回ったツアーの疲労も残っていることだろう。プレシーズンマッチでの香川は、ゴールという結果も含めて、早くもマンチェスター・ユナイテッドに十分にフィットしたところを見せている。日本代表ではこれまで本田ほどのインパクトを残せてはいないが、これから日本代表をさらに強化するためには、香川の能力をどのポジションで、どうやって生かすのかを考えておくべきだろう。

あのマンチェスター・ユナイテッドのようなチームでも、香川がトップ下に入ったときと、香川抜きで戦っているときとで、ボールの流れはかなり違っている。香川がいないと、中盤から前線へのつなぎはスコールズのロングパスだけになってしまう。そこに香川が入ると、中盤でボールを受けて、ワンタッチで前を向いて次のプレー(ドリブルだったり、パスであったり)に入ることで変化がつき、しかも、ボールが運ばれるスピードも落ちない。じつにリズミカルにボールはつながっていく。ファーガソン監督は、今後、「香川抜きのツートップ」と、「香川のトップ下」とを試合毎に、あるいは試合中でも時間帯によって使い分けていくことになるのだろう。

そこで、日本代表である。これまで、ザッケローニ監督はトップ下には本田を固定して戦っており、香川は一貫して左サイドである。たとえ本田がいない場合でも、トップ下には中村憲あたりを起用して香川は左サイドに固定されている。香川をトップ下で起用するオプションはないのだろうか。本田と香川は、同じトップ下でプレーしても、プレースタイルはかなり違う。本田の良さは、そのフィジカル的な強さを生かして、相手の激しいプレッシャーの中でもボールを収めて、タメを作れるところだ。他の日本の選手にはない強さ。これが、日本代表の中で大きなアクセントになる。

岡田武史監督は、劣勢の戦いが続くはずだった南アフリカでのワールドカップで、その本田の強さをワントップのところで生かして戦った。ザッケローニ監督は、本田をトップ下に置いて、やはりフィジカル的な強さを生かして戦っている。「強さ」が武器の本田に対して、香川は「速さ」である。足の速さというより、プレーの速さ、判断の速さである。遠藤が不在だったアゼルバイジャン戦では、本田は中盤に下がって、セントラルMFとしてゲームメークもして見せた。

だが、そうすると、日本のパスの回り方が遅くなって停滞してしまったのである。だが、CSKAモスクワで本田がMFに入ってゲームメークをすると、試合のテンポは逆に上がる。つまり、日本代表はチーム全体が早いパス回しをして、スピードを生かして戦っているので、そこに本田が介入すると、全体のパス回しは遅くなってしまうのだ。CSKAはそういう速いパス回しができないから、本田がパス回しの中心になることでスピードアップすることができる。日本代表でも、本田ではなく香川がトップ下に入れば、パスの回り方はさらにスピードが上がり、日本代表の特徴がより際立ってくるはずだ。

しかし、香川では本田のようにボールを収めてキープして、タメを作るようなプレーはできない。それが、ザッケローニ監督が本田のトップ下にこだわる理由なのかもしれない。日本は、世界のトップと戦えば、やはりボール保持率などで劣勢にならざるをえない。本田(あるいはトップの前田)がボールを持って、タメを作るプレーは欠かせない……そういう判断なのだろう。

だが、逆に、日本が優位に立つ試合(たとえば、アジア相手の試合)だったら、香川をトップ下に使って、さらに攻撃をスピードアップする方が効率的なのではないか。そして、たとえ相手がワールドクラスの相手であっても、香川のスピードが通用しないはずはない。本田と香川。2人のトップ下候補のどちらかを選ぶのか……。やはり、2人を並存させて、試合の中でも2人のゲームメークを切り替えられれば、相手にとってはきわめてやりにくい状況が作れるのではないか。

ベネズエラ戦の焦点は、当然、今野や内田が出場停止になったDFラインのバックアップ要員のテストである。だが、長期的なチームの方向性かを考えるとき、「香川のトップ下」をぜひとも一度はテストしてみてもらいたい。

1つのやり方しか持っていないのでは長期のトーナメントを勝ち抜くのは難しい。それは、つい先日、U-23日本代表が身をもって教えてくれたことである。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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