準々決勝のブラジル戦、準決勝のフランス戦では相手の猛攻に耐えに耐え、セットプレーやカウンターで数少ないチャンスを物にして決勝への切符を手にした女子代表(なでしこ)。しかし、決勝戦はまったく違った展開になった。アメリカを相手にボール・ポゼッションでもチャンスの数でも上回り、何度もチャンスを作りながら、シュートがクロスバーに嫌われ、相手GKソロの好守にあって、とうとう1点止まり。前半、FKからの明確なハンドをレフェリーに見逃されてしまったのも残念なところだ……。

ブラジル戦とも、フランス戦とも明らかに違う戦いだった。63分に1点を返した大儀見のゴールにしても、中盤で田中が右の近賀に開いたパスから始まって、中盤でしっかりパスをつないだ後、宮間からペナルティーエリア内に走り込む大野にスルーパスがつながり、最後は澤が粘って大儀見の前にこぼれて生まれたもの、しっかりパスをつないで形を作った、いわゆる「なでしこらしい」攻撃だった。

同時に、この試合は、昨年のワールドカップ決勝でアメリカと引き分け、PK戦に持ち込んだときの試合ともまったく違う展開だった。昨年の決勝では、アメリカに押し捲られる中で2回リードを許しながら、少ないチャンスをゴールに結び付けて引き分けに持ち込み、PK勝ちという「奇跡」に近い戦いだった。だが、ウェンブリーでのファイナルは、どちらが勝ってもおかしくない、あるいは「なぜ、勝てなかったんだろう?」とすら思わせるような内容だったのだ。

明らかに、この1年でアメリカとの差は縮まっている。もっとも、「日本が押し気味の試合ができた」と言っても、日本がアメリカに追いついたとか、追い抜いたというわけではけっしてない。決勝戦のアメリカは、準決勝カナダ戦で120分間戦い抜いた疲れが抜けないままで戦っていたからだ。ワンバックのシャツで汗を拭う動作も、いつもよりずっと回数が多かったような気がする。

そして、アメリカは、そうした自分たちのコンディションを自覚して、それに合わせた戦い方を選択して、それを完璧に遂行して見せた。アメリカは前半の8分に先制し、後半の9分に追加点を奪った。どちらも、開始直後の得点だったが、これはけっして偶然ではない。試合が始まって(再開されて)時間の経っていない、つまり「フレッシュな時間帯にフルパワーで攻撃をしかけて点を取り、後の時間は守る」というのが彼女たちのプランだったのだろう。

前半の立ち上がりは、長いボールを使って攻めてくるアメリカに日本は押し込まれてしまった。そして、早くも8分にきれいにサイドを崩されて1点を失う。そのまま、攻め続けられていたら2点目を奪われ、試合の行方も決まったかもしれない。だが、アメリカは1点を先制すると、追撃の手を緩めてくれたのである。後は、しっかりと守って、攻撃はロング・カウンター。攻め込んだら、多少難しい状況でもシュートを打って攻撃を終わらせ、日本にカウンターのチャンスを与えない……。そんなプランを徹底していた。

そして、ハーフタイムの休憩を挟んでパワーが回復した後半に2点目を奪って、再び守備に入る。もちろん、チャンスと見るや、途中で人数をかけて攻め込む時間帯もあったが、それも早々に見切りをつけて、再び守りに入る。「時間稼ぎ」も含めて、じつに巧妙にアメリカが時計の針を進めていった。かつて、あの「ドーハの悲劇」の頃はたいへんにナイーブなものだった日本のサッカーも、今ではかなり成熟し、ゲームの駆け引きもうまくなってきた。それと同じように、サッカー後進国のアメリカもサッカーらしい駆け引きが上手くなったものだ。なにしろ、女子はすでに20年以上世界のトップとして戦い続けているのだ。試合運びの上手さを感じさせる。

しかし、世界最強のアメリカが、これだけリアリズムに徹した試合を選択してきたのは、アメリカから見ても、日本がそれだけリスペクトに値するチームになっているからだろう。アメリカにもプライドがあるはずで、弱いチームが相手なら、悪コンディションの中であっても、あそこまで守備的に戦ったりしないだろう。

日本チームにしても、本来やりたいサッカーを捨てて、準々決勝、準決勝のようなリアリズムに徹した勝ち方もできるし、相手がちょっと腰が引けていれば、アメリカ相手にもあれだけすばらしい攻撃をしかけられるという「引き出し」を持っているわけだ。男子のU-23代表には、そうした「引き出し」は備わっていない。「本来のやり方」を封じられると戦えなくなってしまう。やはり、女子代表は経験豊富な選手がそろっている。そう、「経験」という意味でも、この1年間でどれだけ深い経験を積めたことか……。

というわけで、決勝戦での五分の戦いを見て、アメリカに追いついたとは絶対に言えない。アメリカは、悪条件の中でリアリズムに徹して勝利を手繰り寄せるだけの強さと上手さがあったのである。だが、日本も、この1年間の間にアメリカとの差を着実に詰めて、アメリカにああいう戦い方を選択させるだけのチームに成長したのだ。つまり、1−2というスコアは、まさに今のアメリカと日本の距離感を表している数字のような気がする。

そうなると、「中2日の6連戦の最後」という、とんでもない日程の中での対戦ではなく、良好なコンディションでの真剣勝負を見てみたいものだ。男子もそうだが、消耗戦とならざるをえないオリンピックのサッカーは、何かを変えなくてはならないのではないか?ロンドン・オリンピックでは、女子の初戦は開会式の2日前に行われたわけだが、たとえば、開会式の1週間前に開幕させることはできないものなのか?あるいは、少なくとも男子と同じように、準決勝と決勝の間は3日の休養を与えることはできなかったのか。

サッカーの世界チャンオンは、やはり、ちゃんとした(サッカーらしい)日程で、しかも23人のメンバーを登録できる、FIFA主催のワールドカップでこそ決めるべきだろう。もちろん、女子サッカーの宣伝のために、オリンピックがなくてはならないものだということは理解できるが……

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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