グループリーグ最終戦で、女子代表(なでしこ)はメンバーを大幅に変更。さらに後半の途中からは引き分け狙いで戦ってグループ2位となった。一方の男子の方は、女子とは反対にブラジル戦を回避するために1位通過を目標に戦ったが、それでも選手の休養を優先し、前線を大幅に入れ替えて戦い、苦戦はしながらも勝点1を確保した。どちらも、監督の決断が当たって「狙い」通りの結果を手に入れたわけだ。ところが、この戦い方、とくに「引き分け狙い」を佐々木則夫監督自身が公言した女子の戦い方が物議を醸し出してしまった。ちょうどバドミントンの事件もあったので、この話題が新聞、雑誌を賑わせ、僕のところにもコメントを求める電話が何件かかかってきた。

「なんで、そんなことが問題になるのだろう?」とういうのが僕の感想である。

チームは優勝を狙って戦っているわけであり、そのために少しでも有利な条件を手に入れるためにさまざまな戦略を立てるのは当然のことだ。バドミントンの場合のように「わざと負ける」のと、引き分けで勝点1を確保するのでは意味はまったく違うはずだ。ウサイン・ボルトは予選から9秒5では走らないはずだ。ツール・ド・フランスを見れば、選手たちはチームのエースを勝たせるために、さまざまな策略を展開し、自己犠牲の態度に徹して走っている。こんな当たり前のことが問題になるあたり、まだまだ日本では「サッカー的な思考」が浸透していないのだろう……と思っていたら、現地に行っている某有名サッカージャーナリストまで「勝ちに行くべきだった」とコメントしていたので、さらにビックリした。

しかし、結果から言えば、その男女代表の狙いは完璧に的中した。男女そろってベスト4進出。どちらも、コンディションの良さが生んだ完勝劇だった。まず、ブラジルと対戦した女子の方は、ブラジルの猛攻に耐えて、しっかり守りきった上でクイック・リスタートとロングカウンターで2点を奪っての勝利だった。この試合では、2011年のFIFA女子最優秀選手の澤と、2006年から2010年まで5年連続FIFA最優秀選手賞を受賞していたブラジルのマルタとの豪華なマッチアップが何度も何度も、ピッチ上のあちらこちらで繰り広げられた。そして、澤は危険な場面を察知して何度も危機をしのぐプレーをした。

前半の40分を回った頃、日本のDFがオフサイドをアピールして手を上げたがオフサイドの旗は上がらないという危険な場面があった。あのような場面では審判にアピールをしているよりも、まず、チェックやクリアに行かなければいけないはずだ。そんな中で、澤だけは審判のことなど考える素振りも見せず、しっかりとボールを捉えて大きくクリアして見せた。大儀見の先制ゴールを演出したFKも見事だったが、ブラジル戦での澤は守備面での仕事でも完璧に近いプレーをしていたのだ。

もちろん、澤の守備能力には今さら驚く必要もないだろう。グループリーグ初戦のカナダとの試合でも「違い」を見せてくれたばかりだった。だが、2戦目のスウェーデン戦では疲れた表情を見せ、何度か単純なミスをしたので心配だったのだが、南アフリカ戦での休養によって、スウェーデン戦から中5日の休養を与えられたことで澤が完璧に復活していた。それが、ブラジル戦の勝利につながったのだ。

男子の準々決勝も、日本の完勝だった。ちょっとこれだけ完璧な試合というのは記憶がない。強いて問題点を挙げれば、2点目を取るのが遅かったこと。そして、攻め急ぎが目立ったことくらいか。大会前までU-23日本代表の最大の欠陥は守備の脆さだった。トゥーロン国際での守備の崩壊だけではない。アジア予選でも、親善試合でも、とにかく、このチームの守備は淡白すぎて、なかなか無失点でしのぐことができなかった。だが、オリンピック本大会に入って事態はまったく変わった。吉田と徳永というオーバーエイジのDFが入ったこと、そして、それに伴って鈴木が安定感を増し、守備は見違えるように改善された。

もう1つの問題が「攻め急ぎ」だ。アップテンポにワンタッチパスをつないで攻めるのはもちろんすばらしいのだが、相手が引いている時でも、リードしている時でも、同じようなリズムで攻めてしまう。そうなると、相手もさすがにリズムに対応してきてしまう。それで追加点を奪えない。そういう試合を、アジア予選でも何度も見た。守備の問題は改善されたのだが、完勝劇のエジプト戦を見ても「攻め急ぎ」の問題はまず解決できていないようだった。せっかく、前半に先制ゴールを奪って、しかも、エジプトは退場で1人少なくなっていたのだ。もっと、パスをつないで、相手を焦らすような戦い方ができれば、追加点ももっと早い時間に奪えたのではないか。

しかし、それも小さな問題だ。アップテンポな攻めを繰り返すことによって相手の足を止め、最後に時間帯に相手の反則を増やし、リスタートから2点を追加して息の根を止めた試合運びは賞賛に値する。こういう試合ができるのは前線からの守備があるからだ。守備をするFWは、日本の誇るべき伝統だ。前線から相手ボールにプレスをかけて奪いどころを限定することによって、中盤の高い位置からどんどんアプローチしてボールを奪ってショートカウンターをしかける。そして、そのターゲットが永井である。エジプト戦の先制ゴールは、まさにその形。清武がボールを奪って永井が走りこんで決めた。前からの守備がしっかりできたので最終ラインの負担も減り、しっかりと跳ね返し続けることもできる。

エジプト戦で「前からの守備」を90分間機能し続けられたのは、コンディションの差のおかげだった。グループリーグ3戦目でメンバー変更して戦った日本と、準々決勝進出を懸けて死闘を繰り広げたエジプト。疲労度の差は大きかった。良好なコンディションに裏打ちされて日本の選手の動きは90分にわたってまったく落ちることはなかった。さて、準決勝までは、また中2日の強行スケジュールに戻る。男子の場合は、永井と東の負傷も気になるところ。何より必要なのは、コンディションを戻すことだろう。もちろん気持ちの強さも必要だが、コンディションが悪かったら強い気持ちなど持ち得ない。

ところで「44年ぶりのベスト4」ということは、あちこちで報道されていたが、8月4日は日本のサッカーが初めて世界に挑戦したベルリン・オリンピック(1936年)でスウェーデン戦に逆転勝利をおさめた記念の日だったということはあまり報じられていなかったようだ。運動量を生かして後半3点を奪ってスウェーデンに逆転勝ちした日本だったが、中2日で行われた2回戦ではイタリアに0−8という大敗を喫した。「1回戦の疲労が原因」、「イタリアとの差は体力差」と、当時は報道されたようだ。

今の日本チームは、76年前の日本チームよりはるかにタフになっているものと信じたい。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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