前日の女子の試合と同じような光景が、コベントリーのピッチでも繰り返された。

アディショナルタイムに入ってから、後方でパスを回しながら時計の針が進むのを待つ日本チーム。DFの鈴木が前方に大きく蹴って相手にボールを渡してしまうと、関塚監督が大きな声を上げた。そして、相手のホンジュラスもまったく攻める意思を示さず、そのままアディショナルタイム4分間が経過して、日本は勝点1を確保してグループDの首位通過を決め、準々決勝でのブラジルとの対戦を避けることに成功した。

なんとも、冷静なというか、冷徹なというか、計算ずくの試合だった。

まず、先発メンバーだ。守備の中軸の4人(GKの権田、CBの吉田と鈴木、そして守備的MFの山口)はこの試合も変わらずにフル出場。その他のポジションでは、酒井高はそもそも酒井宏の欠場で入った選手なのでこの日もフル出場(ただし、これまでの右ではなく、本職の左SBでの起用)。大津が出場したのは(もちろん負傷は完全に治っているということを前提に)、スペイン戦の後半は退いてベンチにいたからだろう。

休ませるべき選手を休ませる……。これは、2戦目までにグループリーグ突破を決めたチームの特権。日本チームは、その特権をしっかりと行使したわけである。同時にそれは、これまで出場機会が少なかった選手に試合勘を取り戻させ、新しい戦力のオプションを増やすことにもつながる。すべて、この日のホンジュラスとの試合のための選手起用ではなく、中2日の厳しい日程で6試合も戦わなければならないオリンピックのサッカー競技を戦い抜くためのマネージメントだったのだ。

そして、ピッチ上の選手たちも、冷徹に戦った。

ホンジュラス戦のいちばんの目的は、主力を休ませることだが、同じくらい重要なのは勝点1以上を確保して首位通過を果たすこと。もちろん、3連勝して勢いをつけることができればそれに越したことはないが、無理をして2位に転落することだけは許されない。そんな中で、しっかり守備を重視しながらの戦いを90分間続けて、見事にミッションを達成したのである。ベンチも、選手も、本当に冷静に戦った。

序盤は、本職ではない右SBに入った村松のサイドで突破を許し、慌てて戻った山口がファウルを繰り返すような場面もあったが、こちらのサイドも次第に立て直すことができた。パワーもテクニックもあるホンジュラスは思った以上の難敵だったが、しっかり守って決定的な場面はそれほど作らせず、危ない場面でもGKの権田が的確に反応して、終わってみれば3試合連続の無失点。守備は、この日も合格である。

攻撃面ではもちろん不満も残る。たとえば、個人能力によるドリブル突破という新しい武器となれるか期待された宇佐美あたりは、チームのためにプレーすることを優先しすぎて無難にプレーした印象が強い。前の選手には、もう少しトライはしてほしかった。見ていると、やはり、3試合目となる大津の方が、ゲーム勘という意味でだいぶ動きが良かったように見えた。

こうして、狙い通りに0−0で引き分けた日本。準々決勝ではエジプトとの対戦が決まった。エジプトとはこの1年間に2回対戦しており、トゥーロンで戦った記憶も新しい。しかも、グループリーグで戦ったモロッコも同タイプということで「やりにくさ」はまったくないだろう。トゥーロンで敗れているとはいえ、あのときとは日本の守備陣の状態がまったく違う。しかも、日本は主力を休ませたのに対して、エジプトはグループ最終戦では2位の座を懸けてベラルーシと死闘を演じたわけで、コンディション的にも日本は圧倒的優位に立てる。

ただ、全力で強敵を倒しに行ったスペイン戦以後「計算ずく」の試合を2試合続けてしまった日本。準々決勝以降は「食うか食われるか」の真剣勝負の連続となるはず。精神的に「戦闘モード」にうまく切り替える必要があろう。そして、準々決勝だけは12時という早い時間のキックオフとなるので、食事や睡眠などのリズムも変えなくてはならない。そのあたりが、課題だろう。

それにしても、前日の女子代表もそうだが、計算ずくで選手を起用するスタッフ。そして、さまざまな制約を課せられた中で、タスクを沈着冷静に遂行していくピッチ上の選手たち。日本のサッカー史を紐解けば、今から19年前には2−1でリードしている終盤だというのに安易に攻め込んで相手にボールを渡して追いつかれてしまい、ワールドカップ出場権を逃したこともある。いわゆる「ドーハの悲劇」である。日本のサッカーはあまりにもナイーブだった。その後も、やってきたフランス人コーチに「守備の文化がない」などと酷評されたこともあった。

今回のオリンピックでの、あの冷徹な計算しつくして戦う男女の日本チームを見ていると、そんなナイーブさとは無縁な、冷徹な日本サッカーの姿が見えてくる。もしもである。今回のオリンピックで男女がそろって決勝に進出でもしたら、これまで日本のサッカーに対して比較的好意的だったヨーロッパのサッカー界あたりからも、「勝利のために手段を選ばない」といった批判の声が上がってくるかもしれない。

そういえば、ホンジュラス戦と同じ8月1日には、カシマサッカー場で「スルガ銀行チャンピオンシップ」という試合があり、鹿島アントラーズがチリのウニベルシダ・デ・チリと戦い、2−2で引き分けて、PK戦の末に鹿島が勝利を収めた。内容的には、ウニベルシダ・デ・チリの勝ちゲームだった。ウニベルシダは、蒸し暑い日本でもフリーランニングを繰り返し、そこに長短のパスを合わせて、何度もチャンスを作っていた。南米というよりドイツのサッカーを見ているようなチームだった(もちろん、ボールテクニックのレベルは高い)。南米でも評価の高いチームと聞いていたが、期待以上だった。

ただし、勝負は鹿島が勝った。しっかり守ってCKから岩政のヘディングで先制し、カウンターからレナトの正確なシュートで2点目。オウンゴールとPKで追いつかれてしまったが、相手のシュートミスにも助けられながらPK戦に持ち込んで勝ったあたりは、鹿島らしい試合運びだった。しかも、後半途中にはトップで良いプレーを見せていた大迫を退ける采配。「この試合だけではない。連戦を見据えてのチームマネージメントだった」とジョルジーニョ監督

日本のサッカーは、本当に「相手にとって嫌な勝ち方」がうまくなった。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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