いやあ、佐々木則夫さん、やってくれましたね。あからさまな引き分け(2位)狙い!

格下、南アフリカを相手に0−0のままアディショナルタイムに入ってから、日本はまったく攻めに行かなかった。最後の時間帯に大儀見を入れたというのに、DFラインでパスをつないで、時計の針が5分進むのをひたすら待った。「引き分け狙い」という指令が、いったい、いつの時点で出たのかがひとつ興味のあるところだ。

後半の途中までは、たしかにパスも通らなかったし、強引さにも欠けて攻撃の迫力はなかったけれど、それなりにクロスも上がり、シュートチャンスもあった。あれが、意図的に点を取らないようにプレーしていたのだとは思えない(そこまでの演技力はなかろう)。だが、スウェーデン対カナダの試合が2−2の同点になったという情報が入ってから以降は、まちがいなく「引き分け狙い」=「点は取るな」という指令が出ていたはずだ。

1968年のメキシコ・オリンピックの時に、同じような状況になったスペイン戦で、日本の長沼健監督が選手に「点を取るな」という指令を出したときに伝令に使ったのはチーム最年少のMF湯口栄蔵(故人)だった。ところが、若い湯口が遠慮がちに(しかも関西弁で)監督の指令を伝えようとしてので、指令は十分に伝わらず、その後も本気で点を取りに行ってしまう場面があり、シュートがポストに当たってしまったりした。長沼監督が、後の「ゴールに入らなくてホッとしたのは、後にも先にもあの時だけだった」と述懐した場面である。

南アフリカ戦で佐々木監督が伝令に使ったとすれば、77分に宮間に代わって入った阪口あたりだろうか。攻撃的に戦うつもりなら、坂口を入れて宮間を前に上げるはずなので、宮間より守備的な阪口を入れたのも、そういう意図だと考えれば納得がいく。途中までは、スウェーデンがカナダに対してリードしていたから、日本としては「1−0くらいで勝って2位になる」のがベストな結果かと思っていたが、意図的だったのかどうかは知らないがスウェーデンが終盤に(わざと?)追いつかれてしまったわけで、「1点入ったりしてなくてよかった」という展開だった。

準々決勝の対戦相手のことはともかく、移動なしの同じミレニアム・スタジアム(カーディフ)で、しかも17時キックオフということになるので、1位通過よりも2位通過の方が調整ははるかに容易になる。1位通過だとグラスゴーまでの長距離移動(500km)がある上に、12時キックオフという調整の難しいスケジュールになってしまうのだ。こういう大胆な選手起用。そして、「引き分け狙い」というあからさまな戦略を駆使できるのが佐々木監督らしいところであり、あるいはまた、日本サッカーの成熟を示すと言ってもいい。「ドーハの悲劇」の頃のナイーブさは、遠い昔の思い出となったようだ。

無事に「2位通過」というベストのカードを引いただけではなく、南アフリカ戦はさまざまなテストもでき、有意義な試合になった。まず、前線を中心に主力選手を休ませることができたこと。中2日で6試合を戦う厳しい、非常識なスケジュールの中で、途中で休息日を設けられるか否かは、優勝を狙うチームにとっては不可欠の条件とも言える。おそらく、ブラジルまたはイギリスも似たようなことをしているのだろうが、いずれにしてもここで1試合飛ばすことができたのは、決勝に向けてのコンディション調整の面で大きなプラスになるはずだ。

もう一つは、サブ組のテストができたことだ。サブ組が実際に試合に出て(たとえ「引き分け狙い」の試合だったとしても)、オリンピックの雰囲気とピッチを体験できたことは大きい。これから中2日での3連戦、18人の戦力をうまく使い分けなければならない難しい戦いになるのだ。

いちばん心配なのは、やはり澤の体調だろう。長い間ゲームから遠ざかっていた澤。オリンピックに合わせてコンディションを戻してきたのはさすがである。初戦のカナダとの試合など、中盤でのボール奪取やゴール前の危険な場面でのクリアなど、彼女の獅子奮迅の働きがチームを何度も救った。だが、それでもやはり、今の澤はけっして本調子ではない。スウェーデン戦では、かなり疲労がたまっている様子で、パフォーマンス的にもカナダ戦より落ちており、ミスも目立った。

準々決勝から決勝までの3試合、澤にフル出場を期待すべきではないのではないか。時間を限定して、状況によって交代させていく必要があるだろう。その場合、澤に代わってミッドフィルダーに入るべきは誰なのか?阪口は守備力はあっても、澤のような展開力はない。若い田中に試合のコントロールはまだ難しい。そうなれば、宮間しかいない。

宮間をミッドフィルダーとして起用。今まで宮間が務めていたサイドハーフに岩渕または丸山を入れるのか、それとも大野をサイドに戻して、トップに安藤、丸山あたりを入れるのか。そういう組み合わせで戦う場面が、一度は必ず来るはず。そのためにも、南アフリカ戦で多くの選手が実践のピッチに立って、そのパフォーマンスを佐々木監督がチェックしたことが役に立つはずだ。

それにしても、こういう本番の場面で、思い切って控え選手を起用して、しかも、周りの雑音も大きい(サッカーに詳しくない人も注目している)オリンピックという舞台で「引き分け狙い」の試合を実際にやってしまうあたり、佐々木則夫という指導者はなかなかのタヌキではある。しかも、事前に新聞記者を通じて世間さまに「2位狙いもあり……」というヒントを出しておくあたりは大タヌキのようだ。中継局も「1位突破なるか……」などと見え透いた建前ばかり叫んでないで、そのへんの意図をきちんと伝えたらいいのに……。

で、関塚監督はどうするんだ?ま、こちらは「首位通過」が望ましいのだが、メンバーの大幅変更は、男子の方も当然やらなくてはならない手順であるはずだ。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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