日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチ、ワールドカップ制覇のオールブラックスを率いたグラハム・ヘンリー、南アフリカ代表スプリングボクスをその前の大会の優勝に導き、いまはブランビーズ監督のジェイク・ホワイトに共通するのは、過去の職歴である。

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学校の先生。
日本的には「高校教師」だが、学制の違いがあるので、担当する年次にはばらつきがある。
いずれにせよスクールのティーチャーだ。

3人に共通するのは、選手としては国際級でなかった点かもしれない。
もっともオーストラリア出身のエディー・ジョーンズヘッドコーチは、アマチュア時代のニュー・サウス・ウェールズ代表にフッカーで選ばれているから、限りなくインターナショナルに近かった。それだけにワラビーズ入りを逃したのは惜しかった。

スコットランドの前監督、フランク・ハデンは体育、アイルランドの現在の監督、デクラン・キドニーには数学教師の経験がある。
ラグビー史に残る伝説の名コーチ、ウェールズ生まれの故カーウィン・ジェイムスも教職に就いていた。
南アフリカのミスター・ラグビー、故ダニー・クレイブンはステレンボッシュ大学の重鎮、日本のカーウィンにしてクレイブンとでも書きたくなる元日本代表監督の故・大西鐵之祐は早稲田大学の教室とグラウンドを研究と実践の場とできた。

ラグビーがプロ化される前、コーチングに時間を割ける仕事は教師のほかはなかなかなかった。必然的にそこから有能な人材は輩出された。

冒頭からここまで名前を挙げた指導者のうち、インターナショナルの選手はカーウィン・ジェイムス(ウェールズSO)とダニー・クレイブン(スプリングボクスSH)のみである。
カーウィンは同世代同ポジションにクリフ・モーガンという名手がいたためキャップは「2」にとどまっおり、のちのコーチングへの情熱の根源にそのことは関係しているような気もする。

きっとエディー・ジョーンズもそうではないだろうか。一流なのに選手として一流の機会を制限された。こういう人に名コーチは多い。
そういえばヤマハの清宮克幸監督も主将として主軸として、学生代表やU23や日本選抜などで圧倒的実績を残しながら、なぜかジャパンには呼ばれなかった。

さて元教師が、代表監督になる例は珍しくないが、現役教師が就くことはまれだ。

現在の米国代表イーグルス監督のマイク・トルキンはこの2月の就任発表時には、ニューヨーク・チェルシーの名門男子校、ザビアー・ハイスクールの英語、すなわち国語の先生だった。
ザビアー校には、ラグビーのプログラムがある。約1000人の生徒のうち、100人ほどが学内の4チームでプレーをする。
トルキン監督自身がここの卒業生であり、1976年に創設されたラグビー部で育った。母校へ戻り、指導者として過去4度の全国制覇を遂げている。

米国代表イーグルスは、昨年のワールドカップでは、プール5カ国のうち4位に終わるも、アイルランドに22失点、イタリアに27失点のディフェンス力は評価され、担当コーチがトルキンだった。

米国協会CEO、元イングランド代表主将でSHのナイジェル・メルヴィルはこう語る。

「強豪国出身の監督はゲームをよく知っている。
しかし、ほかに仕事を持つパートタイムの選手と、ヨーロッパなどでプレーする少数のプロの混成をうまく扱えるのは、カルチャーを理解できる米国人なのだ」(ニューヨーク・タイムズ紙)

マイク・トルキン先生は、シェークスピアのソネット(定型詩)集をよく教えてきた。ラグビーのコーチングも教室と似ているらしい。

「生徒は、教師の言ったことの10%を、自分が見たものなら50%を、自分がやってみたことなら90%を覚えているものなのです」(同)

ユーモアの感覚が求められるのも共通している。

「1961年度までのメジャーリーグの年間の試合数は、シェークスピアのソネットの数と同じだ」。

授業でそんなことを語り始める。ついで一拍おいて
「それこそがシーズン154試合と定められていた理由だ」。

生徒のひとりが驚いて聞く。
「なぜそうしたの?」

現在のイーグルス監督は落ち着いた口調で言った。
「連中はシェークスピアを愛していたのさ」

国際ラグビー界はプロ化の過渡期に差し掛かる。ふとたちのぼるアマチュアの香りはいいものだ。
日本国内のトップクラスのコーチングでは、どうしても海外のプロ指導者を重視する。それはそれで間違いではない。

しかし全国に散らばる学校の先生にも伏兵は潜んでいる。
「アマだからプロ」という愛と知と熱の仕事師たちである。

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藤島 大
1961年東京生まれ。秋川高校−早稲田大学でラグビー部に所属。雑誌記者、スポーツ紙記者を経てフリーに。著述業のかたわら、国立高校や早稲田大学のラグビー部のコーチも務めてきた。J SPORTSラグビー中継解説や、著書に『ラグビーの世紀』(洋泉社)『知と熱』『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)『スポーツ発熱地図』(ポプラ社)『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン社)『楕円の流儀』(論創社)などがある。

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