ゴールデンウイーク後半の始まりとなった3日は等々力競技場に足を運んだ。風間八宏新監督率いる新体制となった川崎フロンターレの現状をじかに見るためだ。新指揮官の初陣となった4月28日のサンフレッチェ広島戦は4失点を喫して大敗しているだけに、どう修正してくるかが注目された。

「ボールを失わないサッカー」を志向する風間監督はキープ力の高い選手を起用したい考えが強いようだ。就任初戦で稲本潤一をセンターバック、田中裕介をアンカーに配置したのもコンセプトに基づいたものだろう。もしも堅守を第一に考えるのなら、センターバック経験が皆無に近い稲本を最終ラインの重要な位置に入れたりはしないはず。積極的なトライの結果の4失点ということで、新指揮官はあまり動じていなかったという。

だが、公式戦で2度同じミスを犯すわけにはいかなかったようだ。3日のジュビロ磐田戦は稲本をアンカー、田中裕介を右サイドに戻し、センターバックには井川祐輔と森下俊という本職の選手を起用した。ただ、サイドアタッカーの登里享平を左サイドバックに入れ、今季はほとんど出場機会を得られていなかった2年目の大島僚太をいきなりスタメンに抜擢するあたりは斬新だった。「コンディションと組み合わせを考えてベストな選手を使う」と風間監督は語っていたが、彼らは基準に達していたのだろう。

その大島が前半の数少ないチャンスから先制点を挙げ、後半頭にもPKを得るスルーパスを出したのは特筆すべき点である。「風間さんからチームの方針を聞いた時、自分にすごくあってるなと思った」と話す彼は稲本、中村憲剛との間を献身的に走って中盤のつなぎ役に徹した。静岡学園でボールテクニックに磨きをかけてきた彼は指揮官の言う「ボールを失わないプレー」を遂行できる。もちろん中村憲剛も稲本もそういう選手だ。前線に陣取った矢島卓郎、小林悠、楠神順平もスキルが高い。今後の川崎はこういう選手たちを軸に攻撃が作られていくとみられる。

そして、風間監督就任効果を一番ポジティブに捉えているのが中村憲剛だろう。圧巻だったのは、矢島卓郎が挙げた4点目だ。田中裕介とパス交換をしつつ、彼はDFと矢島の位置、そしてゴールまでの道筋をしっかり見極めてキラーパスを出した。「相手がしっかりプレスをかけてきてる中で、あれだけ練習通りのパスは出せたのはすごい。ヤジ(矢島)もしっかり裏を取ってゴールまでの流れにムダがなかった。あの距離から1点入ったらすごくラクだし、そういうサッカーができればすごく効率的。究極の形だったんじゃないかな」と彼は興奮を隠せない様子だった。

相馬直樹前監督が率いていた時の川崎もボール支配率は高かった。が、肝心なアタッキングサードに入ったところで攻めあぐねるシーンが目立った。が、風間監督就任後は「ゴールするためのボール保持」という意識がハッキリしてきた印象だ。

「確かに今までもウチはボールをキープする時間は長かったけど、つねにゴールを狙ってるか、狙ってないかでは全然違う。今はみんなボールに対して2人、3人と動いてゴールに向かおうとしてる。ヤジのPKにつながった遼太(大島)のスルーパスの時も、クス(楠神)がスピードを上げて中に入ってきた。ああやってスペースに出ていく動きが連続的に出てくれば、もっと得点力も上がると思う。今回のゴールも偶然で生まれたわけじゃないし、練習した形が確実に出ている。自分たちにとってすごい自信になると思う」と中村憲剛はかなり前向きにコメントしていた。

風間新監督が指揮を執るようになってからまだ10日前後だが、アタックの方は目覚ましい改善が見られる。しかしながら、守備の方はかなり手薄な印象だ。2試合7失点というのはあまりに多すぎる。川崎の9試合での通算失点15というのは、ガンバ大阪に次いで2番目に多い数字である。

磐田戦でもサイドからのクロスや中央から2列目、3列目が飛び込んでくる動きに川崎守備陣はきちんと対応できていなかった。「守備はまだほとんど練習していない。もっとリスクマネージメントをしっかりするようになれば失点は減ってくると思う」と稲本潤一は言うものの、試合は待ってくれない。メンバーも毎回のように変わっている今は連携や組織も構築しにくいだろうが、守備陣中心にゴール前で跳ね返す努力を選手自らしていくことが肝要ではないだろうか。

実際、今季J1で上位にいるベガルタ仙台、サガン鳥栖などは、非常に守りが安定している。川崎が数年前のようにつねに上位争いをするためには、アタックの改善だけでなく、守りの強化も必要不可欠だ。「ボールを取られなければ守備の時間が減るし、相手のチャンスも少なくなる」と中村憲剛が語ってたように、果たして支配率を上げることが失点を減らすことにつながるのか。今後の動向を慎重に見極めていきたいものだ。

photo

元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。