シカゴ・ホワイトソックスのフィリップ・ハンバー投手が、現地時間4月21日のマリナーズ戦で完全試合を達成しました。メジャーリーグ史上21人目の快挙ですが、伏兵ハンバー投手をご存じだった方は少ないでしょう。
(ハンバーが重ねた27連続アウトはこちらでご覧いただけます)

もともとは2004年のドラフトでメッツから1位、全体でも3番目の指名を受けた有望株でしたが、05年に右ヒジを故障しマイナーで燻りながら移籍を繰り返す時期が続きました。昨季ようやくメジャーに定着し、9勝(9敗)を挙げていますが、これを機に本格開花となるでしょうか。

ところでこの試合、ちょっと気になる場面がありました。6回裏2死、マリナーズの9番川崎宗則がセーフティ・バントを試みたのです(結果は投手前のゴロとなり失敗)。おそらく彼は、無策に凡打を続けている状態を打開するには、自らの持ち味を活かすべくバントヒットを試みたのでしょう。日本流に言えば工夫のある戦い方ですが、メジャーでは誤解を招きかねない危険な行為でした。

メジャーにはいくつも「書かれざるルール」という「べからず集」があります。その多くは、対戦相手をリスペクトする(一定の敬意を示す)ことを目的とするものです。「大差でリードしているチームは盗塁をしてはならない」とか「ホームランを打った選手はベンチに戻るまで過剰に喜びを露わにしてはならない」等です。そして、その中に「ノーヒットノーラン(もちろん完全試合も)を継続中の投手に対してバント安打を狙ってはいけない」というものがあるのです。

今日の試合では、ハンバーが完全試合を達成したため事なきを得ましたが、もし川崎のバントが安打になっていたら、その後の打席で(特に投手が替わっていたら)報復の故意死球を食らっていたことでしょう(2001年にメッツの新庄剛志が「大量リードの場面でカウント3ボールナッシングから一発狙いの大振りをしてはならない」というルールに反し、ぶつけられたことがありました)。ただし「報復の場合も上半身は避けるべし」、というルールもあります。相手に怪我を負わせることが目的ではないからです。

ところ変われば価値観もかわるもの。このような「ルール」の根底にある相手へのリスペクトには何の異論もありませんが、我々日本人にとっては、時に理解に苦しむものもあります。野球には絶対安全圏などありません。完全試合と同時刻に行われていたレッドソックス対ヤンキースの一戦は、ヤンキースが0-9から逆転勝利を挙げました(最終スコアはNYY15‐9BOS)。そう考えると「大差リードで盗塁はNG」には賛同しかねます。盗塁も含めあくまで最後まで手を緩めないことが、相手へのリスペクトであるように私は思います。同様に、無安打投球を続ける投手に対しても、バントでの揺さぶりなどあらゆる手を尽くすのが相手への敬意と考えるのが日本流と言えるでしょう。

このあたりは文化圏ごとの価値観の違いなので「郷に入れば郷に従え」と割り切るしかないのでしょうが。

もっとも、メジャーリーガーたちもこれらの「ルール」の解釈を間違うことが少なくなく、結果的に「ドスン」とやられることが後を絶ちません。「ちゃんとわかるように書いておいて欲しい」と思っている人は、少なくないのかもしれません。そんな想いをめぐらせながら観戦した、ハンバー投手の完全試合でした。

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豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:shotaro.toyora@facebook.com

お知らせ

追記:試合直後の現地映像『ビハインド・ザ・シーン(扉の向こう側)』も必見です。
英語が分からなくても、ホワイトソックスのクラブハウスの雰囲気が十分に伝わってきます(約10分)。 96球の完全試合で3ボールになったのはわずか2回。いずれも9回裏でした。 今季初勝利を完全試合で挙げたハンバ―投手の奥さんは、ただ今臨月。 赤ちゃんが今日の試合中に産まれてこなくてよかったよ、と笑顔で語っていました。
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