Jリーグは2012年から「クラブライセンス制度」を導入することになり、今週の火曜日(17日)にメディア向けの説明会が行われた。

クラブライセンス制度はUEFAがチャンピオンズリーグ参加資格として導入したのがはじまりで、FIFAもこれを取り入れ、アジア・サッカー連盟(AFC)も2013年のACL参加資格としてこれを導入することを決定。日本ではトップリーグであるJリーグが審査の主体となって、この制度を発足させたというわけである。

内容としては(1)競技、(2)施設、(3)人事組織、(4)法務、(5)財務の5点についてさまざまな基準を設け、これを満たさないクラブにはライセンスを交付しないというもので、ライセンスが交付されないと、当該クラブはJリーグには参加できなくなる。

(1)「競技」というのは、チーム力ではなく、「アカデミー」についての基準が主体。(2)の「施設」はスタジアムのこと。(3)「人事組織」はクラブの法人としての組織の問題のこと。それぞれに具体的な基準があり、合計で56の項目があり、各項目は3つの「等級」に分けられている。「A等級」は必須条件で、これが満たされていないとライセンスは交付されない。「B等級」が満たされていないと何らかの制裁(戒告、罰金、勝点の減点、降格など)が課せられる。そして、「C等級」は罰則規定ではない、いわば目標のようなものである。

ライセンス交付のために、今後クラブにとって大きな努力が必要となるのは、これまでもJリーグの会員資格取得時にたびたび問題になっていた「施設(スタジアム)」と「財務」の2点だろう。Jリーグによれば、2010年度の決算では37のクラブのうち赤字決算となったクラブが18(つまり、ほぼ半数)。債務超過となっているクラブは10にのぼるという。今後は、3期連続で赤字(当期準損失)を出したクラブおよび債務超過となったクラブにはライセンスは交付されないのだという。

制度の運用は2012年に始まるから、2012年度から2014年度まで3期連続で赤字となるか、または14年度末の時点で債務超過となると、2015年の審査でライセンスが交付されず、そうなるとそのクラブは2016年にはライセンスを失って、Jリーグに参加できず、そのクラブはJFLなど下部リーグに降格となり(あるいは解散?)、再びJリーグに参入するには他の下部リーグのクラブと同様、再び会員資格を得るための審査を受けなくてならないというのだ。

以上が、説明会で明らかになった制度の骨子である。経営の健全化をはかり、クラブの消滅を防ぐという効果はあろう。リーグとして、クラブの経営に目を配ることも必要なことだろう。内容も悪いことではない。だが、僕はこのライセンス制度によってクラブ経営が萎縮してしまわないのかという気もする。

そもそも、このライセンス制度はヨーロッパで始まったものである。要するに赤字を垂れ流すクラブの放漫経営を防ぐというのが趣旨である。今、ヨーロッパでは各国政府の放漫財政のツケが回ってきて、金融危機を招きかねない危機的な状況にある。破綻してしまったギリシャをはじめ、イタリアやスペインの財政危機をドイツとフランス主導でなんとか乗り切ろうとしている。そのために、各国の財政規律について共通の基準作りが行われている真っ最中である。サッカー界は、それを先取りしていたようなものである。

ヨーロッパのサッカー界は1990年代の初めにバブル的な状況を迎えた。イングランドではプレミアリーグが発足。UEFAはチャンピオンズカップを改組してチャンピオンズリーグが始まった。そして、そうした新しいリーグが時期を同じくして開始された有料放送にとっての最高のコンテンツと見なされて、テレビマネーという豊富な資金がサッカー界に流れ込んだのだ。選手の年俸(人件費)は高騰し、それを支払うために各クラブは莫大な収益をもたらすチャンピオンズリーグ出場が必須条件となり、出場権を確保するためにはさらに人件費に大金を投じる必要が生じる……。そんな状況が続いてきたのだ。そして、同時に一方では、アメリカの資本や資源を背景とした新興国の投機的な資金も流入してくる。

そんな状況下でクラブの財政規律を守らせ、弱小クラブの破綻を防ぐ……。ヨーロッパでクラブライセンス制度が発足したのは、背景にそんな事情があったからだ。そして、それと同じような制度が日本にも導入されるというわけだ。

だが、待ってほしい。日本のサッカー界は、1990年代の初めにJリーグができてすぐにバブリーな時代を経験したが、今ではそれは遠い過去の話。観客動員も長年横ばいの状況が続き、広告収入などを含めたクラブの収入も頭打ち。2011年には、東日本大震災の影響もあって観客動員はかなり減少してしまった。代表戦では10%、20%の視聴率を稼げるが、全国区的な人気チームのないJリーグの中継では視聴率の数字は出ず、ヨーロッパのサッカー界を潤しているテレビマネーの流入は日本では期待できない。各クラブは「身の丈経営」の努力を重ねて、なんとかやりくりしている状況なのだ。

つまり、ヨーロッパのサッカー界がいわば「インフレ局面」にあるのに対して、Jリーグは良くて「ゼロ成長」、悪く言えば「マイナス成長時代」、「デフレ局面」にあるのだ。

そのインフレ局面のヨーロッパで導入されたライセンス制度を、デフレ局面の日本にそのまま持ち込んだらどうなるのか? それは、いわばデフレのある国で金融引き締め策を採用したり、あるいは消費税を上げたりするのと同じような悪影響をもたらさないか。その辺が心配なのである。

もちろん、リーグ当局がクラブ経営の破綻を防ぐために経営の指針を示すことが悪いことだとは言わない。マイナス成長期だからこそ、そういう指導が必要なのかもしれない。だが、間違いなく言えることは、そういう引き締め策(ライセンス制度)を導入するだけでなく、Jリーグは景気浮揚策も同時に考える必要がある(いや、そちらの方が大切)ということである。

どうしたら、東京、大阪、横浜といった大都市のクラブを全国区的な人気のあるビッグクラブに育てていけるのか。Jリーグ中継を魅力的なコンテンツにする方法はないのか……。「それはクラブ自身の経営努力」と言うのであれば、Jリーグはクラブ経営に過度な口出しは無用ということになる。

Jリーグ当局にはそのへんのところをよく考えてもらいたい。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授