2011年からプリンスリーグの全国リーグ化が図られるなど、環境の変化が著しい日本サッカーのユース年代。近年はJリーグの下部組織が台頭し、冬の風物詩である全国高校サッカー選手権大会の位置づけも大きく変わった。それでも、この時期になると選手権への期待が高まってくるから不思議なものだ。帝京高校の古沼貞雄元監督が「歴史と伝統のある大会は違う」と話していたことがあったが、それだけ我々の中に定着しているのだろう。

昨年は山梨学院が青森山田を下して初優勝を果たしたが、今年の構図はどうなっているのか。それを探るために今週、流通経済大柏、前橋育英、静岡学園の3チームを取材した。

まず、千葉県大会で夏の全国高等学校総合体育大会(高校総体)優勝校・市立船橋を破って出場を果たした流通経済大柏。彼らは攻守ともに非常にバランスが取れたチームだ。守備の要はアルビレックス新潟入りが内定している189cmの長身DF増田繁人で、攻撃は名古屋グランパス入りする創造性高いMF吉田真紀人が軸となる。相手によってはマンマークを導入して手堅く守るなど、本田裕一郎監督の勝利にこだわる姿勢は凄まじい。今季の彼らは公式戦でわずか4敗しかしておらず、Jクラブひしめくプリンスリーグ関東1部でも2位という好結果を残した。「今年のチームは大前元紀(清水)たちを擁して高円宮杯全日本ユースサッカー選手権、高校選手権の二冠を取った2007年のチームより強いかもしれない」と名将は自信を見せていた。

ただ、流経大柏のブロックには前橋育英、室蘭大谷、四日市中央工ら実力チームが集中している。本田監督も「初戦(2回戦)の明徳義塾も慎重に戦わないといけないが、最大のヤマは3回戦。前育が来るなら、お互いに知り尽くしたチーム同士なので非常に難しいゲームになる」と大いに警戒していた。

その前育も、市船の石渡靖之監督が「流経大柏、静学と並んで攻守のバランスがよく取れたチーム」と評する通り、潜在能力は高い。2009年U-17日本代表ボランチで浦和レッズ入りする小島秀仁を軸に、彼とコンビを組む湯川純平、点取り屋の小牟田洋佑、187cmの長身DF川岸祐輔らセンターラインの人材は揃っている。小島は決して華やかなプレーをする選手ではないが、球際に強く、しっかりとボールを奪って展開できるのが魅力。山口素弘(現解説者)を筆頭に、松下裕樹(草津)、青木剛(鹿島)、細貝萌(浦和)、青木拓矢(大宮)など数々のボランチを生み出してきた前育の伝統をしっかりと引き継いでいる。彼ら主力選手がうまく機能すれば、優勝も夢ではない。山田耕介監督も「過去4〜5回、国立に行っているけど、優勝だけはまだない。1つ1つ勝ってタイトルに近づきたい」と意欲的に語っていた。

これら関東勢に大きな脅威を与えているのが静学だ。今年は高校総体こそ3回戦で敗れたが、高円宮杯でベスト4入り。「静学が国立で戦ったのは、坂本紘司(湘南)や倉貫一毅(徳島)らがいた14年前の選手権以来。今の高円宮杯は当時の選手権よりレベルが高い。そういう大会で上位まで勝ち残って試合経験を積めたのは、選手たちにとって非常に大きな自信になった」と就任2年目の川口修監督は力を込める。

井田勝通前監督時代の静学は、圧倒的なテクニックで相手を凌駕する攻撃が印象的だったが、攻め偏重になりすぎて守備が甘くなりがちだった。が、川口監督就任後は守備の比重が高まり、非常にプレッシャーが厳しくなった。本田監督も「静学のプレッシングはすごい」と話すほどの変化を遂げている。

加えて、個性豊かなタレントもいる。川崎フロンターレ入りが決まったパスセンスに優れたボランチ・大島僚太を筆頭に、185cmの長身ストライカー・鈴木健太、静学らしいテクニシャン・長谷川竜也、タイミングのいいオーバーラップと精度の高いクロスが武器の2年生右サイドバック・伊東幸敏、状況判断に優れたDF金大貴など人材は豊富だ。

川口監督は「初戦・米子北戦が極めて重要」と言い切る。米子北は川崎入りするFW谷尾昴也と鹿島アントラーズ入りするDF昌子源を擁するタレント集団。しかも、大島が静岡県大会決勝での退場で出場停止となってしまう。誰が出てもチーム力を維持できるだけの戦力を揃えているが、一番頼りになる攻守の要を欠くのはやはり痛い。そこをどう乗り切るのか。静学の動向も大いに気になるところだ。

その他を見ると、堅守と抜群のスピードを誇る2トップの得点力で勝負する西武台、夏の高校総体準優勝チーム・滝川第二、アーセナル入りするスピードスター・宮市亮を擁する中京大中京、天才パサー・柴崎岳が統率する青森山田など注目チームはいくつもある。以前より数は減ったが、高校サッカー界にもまだまだタレントはいる。選手たちもJクラブとは比べ物にならない練習量をこなしてタフさを身に付けている。そこが高校サッカー最大の利点。鍛え抜かれた若者たちの熾烈な戦いを見るのが今から楽しみだ。

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元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。