つい2、3週間前まで猛暑と森林火災で大騒ぎだったモスクワだが、なんとみぞれ混じりの雨が降り始めた。

8月29日に行われたCSKAモスクワ対アラニヤ・ウラディカフカス戦の後半開始のときだ。スタンドの風景もまるで冬。交代でピッチを退いた選手は、厚手の毛布に包まれてベンチに下がる!相変わらずの猛暑の東京人から見ると、羨ましいというべきか、お気の毒というべきか……。そんな中で、前半開始早々に先制したCSKAは一方的にアラニヤを押し込んでいた。CSKAの試合の解説に入るのは、前節(2週間前)のアンジ戦以来。その後、CSKAはヨーロッパ・リーグでキプロスのアノルソシスを連破してグループステージ進出を決め、第18節のアラニヤ・ウラティカフカス戦を迎えていた。

さて、この日のCSKAも、アンジ戦とほぼ同じメンバーでのスタートとなった。前線は、中断前とはすっかり様変わり。ブラジルから復帰のバグネル・ラブ(ブラジル)とドゥンビア(コートジボワール=元・柏レイソル)のツートップに、右にセクー・オリセー(ナイジェリア)、左にトシッチ(セルビア)が4トップのように並び、セントラルMFに本田圭佑とママエフ。本田は、トップ下のスペースにどんどん出て行って、ゲームメークを任され、また、遠めからシュートも狙う。本田は、ボランチ起用をめぐってスルツキ監督と対立という報道もあったが、しかし、この4-2-4の布陣の場合は、攻撃的な仕事を任されるのでモランチでもほとんど問題はない。後方からスタートすることで相手のマークも緩くなり、前線の4人が相手守備を押し込んだ後ろのポジションなので思い切った仕事ができる。

さて、アラニヤ戦。CSKAは開始早々の4分で先制という好スタートを切った。対戦相手のアラニヤは、意外にも前線から激しいプレッシャーをかけてきた。最前線のティホノベツキが前線でチェイシング。その後ろでMFがハーフラインよりCSKA陣内でもどんどんプレッシャーをかけてくる。しかし、そのプレッシャーが十分に効果的でなく、CSKAの選手にかわされてしまうから、中盤にスペースができてしまう。先制ゴールもハーフラインの前で激しいプレッシャーをかけたのをかわされ、CSKA側から見て左に展開されたことで生まれた。左サイドから、ゴール前にロビングが上がると、ペナルティーエリア内の守備は明らかに手薄。ドゥンビアがフリーで狙い済ませたボレーシュートを決めた。高く上がったボールだったので、簡単なシュートではなかったが、それにしてもあそこで相手のストライカーをフリーにしていたのでは……。

アラニヤとしては、ハーフラインを越えてプレッシャーをかけ続けるより、自陣のどこかのゾーンでブロックを作って守るべきだったのではないだろうか?1点を先制して楽になったCSKAは、その後も快調に攻めた。8分には、バグネル・ラブがペナルティーエリア前の本田にフワッとしたパスを送り、本田がボレーシュート。シュートは枠を捉えたが、GKの正面に飛ぶ。13分には、中盤でカットした本田がそのままドリブルで進み、相手DFを十分に引き付けてから、右のドゥンビアにスルーパス。決定的な場面だったが、相手DFが必死でコースを切ったため、ドゥンビアのシュートは右上にはずれる。27分には、本田のFKが相手GKのファンブルを誘った。本田のキックは壁を越えてから急激に落ちて、試合前にも降っていた雨で塗れたピッチにワンバウンド。GKとしては前に弾くしかなかったのだが、詰めていたバグネル・ラブなどは一歩及ばなかった……。

と、一方的に攻めたCSKAだったが、アラニヤの最終ラインもよくがんばって、とうという追加点を与えず、後半に多少の可能性を残して終了した。ただし、前半のうちにドゥンビアが足を痛めて退き、ゲームメーカーのジャゴエフが入っていた。そして、後半に入ると、そのジャゴエフが彼にとっての定位置であるトップ下のポジションに入った。そうなると、MFの本田が前に顔を出すスペースがなくなってしまうのだ。しかも、ジャゴエフという選手は、テクニックのレベルは高いが、ボールを持って細工をしたがる分、パスの展開を遅らせてしまう癖があり、前半のCSKAが持っていたリズムが失われてしまった。両サイド(オリセーとトシッチ)の位置も下がり、バグネル・ラブが孤立してしまう。

本田は、なんとか前線に絡もうと、右サイドを上がってみたり、ジャゴエフと並んでトップ下に入ったりと、工夫はするのだが、前半のようにパス回しの中心にはなれずにストレスをためていく。バグネル・ラブも業を煮やして中盤に下がって、自らパスをさばく仕事を増やす。こうして、後半はCSKAの攻めが淡白になり、その分アラニヤの方も中盤でしっかり狙ったパスを出せるようになり、チャンスの芽をつかみはじめていた。そんな中、アラニヤが攻め込んだ後にカウンターの形ができ、最後はバグネル・ラブが左サイドにノールック・パス。うまい動きでオフサイドを避けながら抜け出したトシッチが、このパスを受け、至近距離から決めて、CSKAが2-0とリードを広げる。これだけのチーム力の差があると、2点差は安全圏だった。

もっとも、後半のアディショナルタイムにはCSKA守備陣の気の緩みからドリブル突破を許してPKを献上(判定は微妙だったが)。フロレスクに決められて、2-1の辛勝となってしまった。「2点目が入っていてよかった」というしかない幕切れだった。前節のアンジ戦と同様、4-2-4で本田が中盤でダナミックに動く形は、バグネル・ラブの頭脳的なプレーとあいまって、よく機能している。本田自身も、この2試合で得点を決められなかったのが不思議なくらい、すばらしいシュートを打てていた。だが、アンジ戦でも、アラニヤ戦でも、ジャゴエフが入ってトップ下を務めるようになるとなかなか機能しない。ジャゴエフは、先ほども書いたように、テクニックにこだわりすぎてパスの展開が遅いのだ。本田とジャゴエフの関係をどうするのか。スルツキ監督にとっては頭が痛いところだ。

アラン・ジャゴエフは20歳になったばかりで、すでにロシア代表入り。地元期待の新星なのである。そんなジャゴエフとポジション争いをする本田圭佑の姿を見ていると、かつてローマの王子、フランチェスコ・トッティと競っていたころの中田英寿をついつい思い出してしまう。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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