Jリーグの第16節で横浜F・マリノスを2-0で破った名古屋グランパスのストイコビッチ監督が自らの采配を自賛した。
「88分にFWの玉田圭司に替えてDFの千代反田充を入れたのはなぜか?」という質問に対して、「合理的な交代だったと思う」と語ったのだ。そう。この試合のストイコビッチ監督の選手交代は、たしかに合理的なものだった。試合は、立ち上がりは横浜がリズムを握ったが決めきれず、37分に横浜DFのミスに乗じてケネディが先制ゴールを決めて、名古屋が1-0とリードして後半を迎えていた。
後半立ち上がりの52分の交代(中村直志→ブルザノビッチ)は、中村が右腿のハムストリングを傷めたための緊急の交代だった。中村が傷んだ1分後にはすぐに手を打ち、ブルザノビッチを入れたことで名古屋にとっての良い流れはまったく変わらなかった。そして、68分に相手のクリアボールを拾ったダニルソンが決めて名古屋に2点目が入って、勝敗の行方は決した状態だった(横浜は、攻めても攻めても入るような雰囲気ではなかった)。
ストイコビッチ監督は、2人目の交代として右サイドの金崎夢生に替えて小川佳純を投入する。この日の金崎はちょっと精彩を欠いていただけに、これも適切な交代だった。そして、交代のカードを1枚余らせておいて、86分に横浜がストッパーの栗原勇蔵を前線に上げてパワープレーをしかけてくると、すぐに最後のカードを切って千代反田を入れてDFを1人増やしてゲームを終わらせてしまったのである。
ストイコビッチという監督は、監督経験は長くないが、こういうリードした状態でうまくゲームを終わらせる交代は本当にうまい。さすがに勝負にこだわり、多くの名指揮官を生んだ旧ユーゴスラビア出身(ストイコビッチはセルビア人)の監督である。チーム作りもうまいし、モチベーションの上げ方なども堂に入ったもの。いずれは「名将」と呼ばれる指導者になるのかもしれない。もっとも、うまくゲームをまとめる交代はうまくても、勝負師的な交代の才能はまだよく分からないが……。
その翌日の川崎フロンターレとベガルタ仙台の試合では、川崎の高畠勉監督が勝負師的な采配で勝利を手繰り寄せた。
試合は川崎がリズムを握りながら、仙台がカウンターから2点を奪って27分までに2-0とリードするスタートとなった。40分に川崎が1点を返し、1-2の状態で後半に入る。後半の序盤は完全に川崎のペースとなり、仙台のゴール前で分厚い攻めが展開される。前半にハードワークしていた仙台の前線の選手には疲労の色が濃く、前半は川崎に脅威を与え続けたカウンターも仕掛けられない状態が続く。仙台の手倉森誠監督は、「中盤に動ける選手を入れることも考えた」と言うが、「もう少し辛抱すること」を選んだ。
しかし、60分、中村憲剛が縦に入れたパスに黒崎勝が反応して川崎が2-2の同点に追いついた。仙台のDFが2人いたが、その中央に走りこんだ黒津に誰も反応できなかった。追いつかれた仙台は68分、71分と相次いで先発のツートップ(朴成鎬とフェルナンジーニョ)を入れ替える。こうして、前線にフレッシュな選手が入ったことで、仙台にもチャンスが生まれはじめ、78分には田村直也のシュートがポストを直撃するなど、何度か決定的なチャンスもあった。したがって、仙台がもう少し早く選手交代をしていれば、追いつかれることもなかったのかもしれない……。しかし、こればかりは分からない。交代をすることでバランスを崩してしまう危険もあったわけだ。
だが、ここで決めきれず、2-2のまま残り10分を切ったところで高畠監督が3枚目のカードを切った。同点ゴールを決めた黒津に代えて、谷口博之をトップに入れたのだ。谷口は本来はボランチの選手だが、そのフィジカルの強さを生かしてサイドからのクロスを決めてほしいと思ったそうである。たしかに谷口はゴール前でも仕事のできる選手で、北京オリンピックのときは反町康治監督がFWとして起用している。そして、交代から2分後の84分、谷口からのパスをレナチーニョが強烈なシュート。仙台のGKの林卓人がこぼすところを谷口が決めて、川崎はついに逆転に成功したのだ。
まさに、高畠監督の采配がずばり的中した形だ。質問を受けた高畠監督は「選手のおかげだ」と応えたが、それでもいつもの記者会見のときよりも若干声が弾んでいるように聞こえた。もちろん、采配が結果に結びつくか否かは、運・不運である。だが、論理的な交代をすることによって運をつかむ確率を高くすることはできる。一方には谷口のゴール前での強さを生かそうというアイディアがある。同時に、FWが本職ではない谷口をFWに入れることの危険性もある。そのへんを勘案して、高畠監督は「黒津が疲れている」ということを承知で、80分が過ぎるところまで引っ張ってから谷口を入れたのだ。
それ以上長い時間、本職ではない谷口にFWでのプレーをさせたくない。だが、結果を出すためには5分では短すぎる。そうした諸事情を勘案して、82分での交代となったのだ。それまでは稲本潤一(64分に横山知伸に交代)のアンカー1人の布陣だった川崎は、谷口のゴールで3-2と勝ち越すと、谷口を本職のボランチに下げて、横山-谷口の2人をボランチに置いて守備を強化し、そのまま逃げ切ったのだ。
「采配の的中」といえば、金曜日に行われた「アディダスカップ日本クラブユース選手権大会」の準決勝で柏レイソルが名古屋グランパスを延長の末に破った試合もそうだった。
延長後半も残り時間わずかとなるまで0-0で推移した試合。柏の下平隆宏監督が108分(この大会の延長は10分ハーフ)に、ボランチの相馬大士をトップのポジションに上げ、その2分後の110分(つまり、終了直前)に山嵜駿からのパスを相馬が決めて、劇的な勝利をつかんだのだ。もっとも、この場合は、相馬が与えられた時間はたったの2分。その間に結果が出たのは幸運以外の何物でもない。この試合の場合は、相馬を上げる決断がもう5分遅かったように思える。
毎日暑い天気が続く今年の夏。夏休みで試合数も多く、当然、選手の消耗は激しく、試合は総力戦とならざるをえない。選手交代のちょっとしたタイミングのズレが勝敗を分ける。そんな試合が多くなりそうだ。その辺が夏場の見所なのかもしれない。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授


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